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26■ A new chapter 03 ■

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 役所をでてズカズカと早歩きで、ひとけのない場所についたところでアドルフさんは足を止め、ブラウニーを放した。

「ブラウニー……おまえ……」
 アドルフさんの顔がドン引きだ。

「いや、その、つい……強い説得をしたくて」
 ブラウニーは顔が真っ赤で、死にそうな表情してる。

「まあ……確かに強烈だった……お前どこで覚えたんだよあんな」
「そんな事聞かないでください!!!」
 俯いて力いっぱいブラウニーが叫んだ。

「お母さんは、あんたをそんな風に育てた覚えは……!」
「あなたはお父さんです、しっかりしてください」
 待って。二人でどういう会話してるの。私置いてきぼりだよ!

「……二人共」
 はっとして、二人がこっちを見る。

「なんの話してるの……? 詳しく、説明してくれる……?」
 二人は急にしおらしくなった。

「プラム……すまない。本当にすまない……」
 ブラウニーが謝った。
「ああ……、オレもすまない。このとおりだ」
 アドルフさんまで。

「えーっとな。聖女には特有の条件があってだな」
「はい。ちょうどそれが気になってました。私も特に知ろうとしてなかったので知識不足ですいません」

「あ……いや、まあそのうん。聖女としての力を使うには、大前提として、『処女(おとめ)』じゃないといけないんだ」

「おとめ」
 おとめ……?

「えーっと、まあ、その…男と閨(ねや)を共にしたら、使えなくなるんだ……」

 …………今、私は冷静さを欠こうとしています。

「つまり……すでに男性経験済みだから、もう聖女にはなれないって説明を……」
 ブラウニーが帽子で顔を隠しながら言った。小さくまたごめん、って言った。

 私は顔から火が出そうになった。

 つまり私はまだ11歳にも関わらず、そういう行為をして聖女にはなれません、爛れた少女です☆って役所に宣言してきたわけですか!!

なんて……なんてこと。でも……。

 ブラウニーもアドルフさんも私を守ろうとして手を尽くした結果なんだ……。
 むしろ私がこんな力もってなければ、二人がそんな事言わなくても良かったわけで。
 私はなんとか冷静さを保った。

「あ……大丈夫、大丈夫だよ。おかげで、聖女の欄にぺけって付いたし。その、誤解したのは役所の人だけなわけだし、うん。これでとりあえず、自由に暮らせるよね?」
 そう……重要なのはそこだ。なりふり構ってられない。

 私はとりあえず微笑んでブラウニーの帽子を奪った。
「みっ」

 ブラウニーの頭の上でマロが、コロコロした。
「……許してくれるか?」
「もちろん」
 バツの悪そうな顔のブラウニー。可愛い。

「自由な暮らしの保証はないけど、普通ならまず大丈夫じゃないかね。聖女としての力っていうのは失っても、基本的な聖属性魔法は失わないから、そのあたりの打診はあるかもしれん」
 あ、全ての力を失うわけじゃないのね。

「でもそれは他の魔力持ちもそうだしな。聖属性は珍しい分、その辺の誘いは多いかもしれんが……領地に引きこもってたり簡単な冒険者業をオレ達としてれば大丈夫だろう。国に縛られるの嫌で冒険者やってる聖属性の女を何人かみたことあるしな」

 ブラウニーもうんうん、と横で頷いている。ブラウニーも見たことあるんだね。

「縛られないで生きてる聖属性もいるんですね。それ早く教えてくださいよー。なんだかホッとしました」
 良かった、なんだかやっと普通の人に近づいた気がする。

「……一番厄介なのは聖女認定だからな。あれはもう、国からかんじがらめにされる」
「そんなに聖女って大変なんですか?」
 具体的な仕事は知らないけど。

「そうだなぁ。仕事も重いものが多いが、まずはっきり言って……監禁生活よ。王宮もしくは神殿に閉じ込められる生活になる。はっきりいって奴隷もいいとこだ。神殿はともかく王宮の場合は王族の傍に使えて、やつらになにかあった時にすぐ駆けつけさせられる」
「か、監禁……」

「戦争やちょっとした国境の小競り合いとか。そういうのに駆り出されたり……」
「戦争行くの!?」
「おう。までもこれは聖女だけじゃないけどな。聖属性にはもれなく声かかる。有事には大人になったらお前にも通達来ると思うぞ」
「いやあ!?」
「大丈夫だ。うちの子なら断れる(補償カードピラピラ)」
 ほっ…。

「あと大変なのは……毎週、無償の治療回復をその日来る国民全員に施したり。めっちゃ患者くるぞ。聖女は魔力量が多いからこれは普通の聖属性ではできないことだな」
 い、一日中それやるの!?

「ヒース領はほったらかしにされてるが、もう少し小規模の汚染地域の浄化へ出張させられたり……土地の浄化ってやつだな。これも聖女にしかできない」
 出張サービス!

「王都全体に祝福の結界はったり。これは神殿の聖属性の奴らと分担だけど」
 エセ神父もやってたようなやつね。あの熊が出た道に。

「あとは……そうだなー。祭り事で平和の象徴として駆り出されたり……社交界の重要なパーティなんかにも駆り出される。その他はえーっと……王族が聖属性の血を欲しがってるタイミングだったり、聖女が複数いる時は王族と婚姻させられたり……あーでも、これは聖女よりも普通の聖属性のほうが多いかもな」

「結婚はなんとなく知ってたけど強制なの!?」

「うん、まあ、普通断れないよな。王命だと……。でも、聖女の力を失うから、婚姻はまずさせない。その代わり贅沢はさせてもらえるみたいだけどな」
「うわあ……怖い、聖女怖い」
 私はカクカクした。

 あのエセ神父。聖女になれる力を有する……とかすごい良いもののように聞こえたわよ!?
 とんでもないブラックな職業じゃないの!!

「さっきも話したが、そのうち折を見て、王都から遠くへ移ろう。むしろ国外にでてエルフの森に交渉して住まわせてもらうのもいいかもしれ……あ、だめだ。錬金術師はエルフに嫌われてるから無理だな。うちは一応さっきの強カードがあるが、そんなもんいつ覆されるかわからないからな。それだけお前の力は価値がある」
「……はい。……ん?エルフ?」

「プラム……まさか、お前、エルフは夢物語だと思ってないだろうな……教会の授業でやったの覚えてるよな?」
 ブラウニーが目を細めてこっち見た。ひぃ……。スパダリはたまにお兄ちゃんヅラしてきて厳しい。

「あ、いや、うん、シッテルヨ……ダイジョウブダヨ……」
 私は目をそらした。ははは。

 そこまで話しして思ったけど……教会の出来事やアドルフさんの領地。
 もしあんな事になった時、力のある私が何もしなかったら…助けられる力を持っているのに何もしなかったら。私は私を許せるだろうか。

 エセ神父の言葉を思い出す。
『君は大きな運命を抱えてるのに、それを全部放り出してささやかな夢を叶える事にした』

「……」
 あの時はその言葉を軽く受け流していた。
 エセ神父が言いたかった真意は違うとは思うけれど、その言葉は今になって私の心をチクっと刺した。
 今はそれが自分ならなんとかできるだろうって感じるから余計に。

「プラム、そろそろ魔法研究所行こう」
 ブラウニーが私の手を取った。

「あ」
 私は、ブラウニーの顔を見て、カーっと赤面した。
「ど、どうした?」
 ブラウニーが珍しく動揺してる。そうだよね、あんな事した後だとまだ落ち着かないよね。
「なんでもないよー」
 私はくすっと笑って誤魔化した。

 私の方は、いつかブラウニーと結婚したら、『絶対圏』とかも扱えなくなるのかなーって思ったんだけど……恥ずかしくてそんな事は聞けなかった。

「さ、とりあえず行こうぜ。買い物する時間がなくなるからな。新しい布団は買わないとなー」
 私とブラウニーの背中をバシバシして、アドルフさんは歩くのを促した。
 ……ほんと、良い人。
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