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51 ■ New Family 01 ■――新しい家族

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 ここはリーブス公爵家のエントランス……。

「あらあらあら!! まあまあまあ!!」
「おおおおおおおおおおおお!!!」

「へ……?」
  リーブス公爵閣下と公爵夫人が私を見た途端、大きな声を上げた。
  私は思わず後退りした。

「リンちゃんの言った通りね!! エンジュに似ているわ……」
「うおおおおお えんじゅううううう」

  囲まれた!! 回り込まれた!
  エンジュさんってお亡くなりになられたリンデンの妹様ですかね!

「リ、リンデンおにいさま……」
  私は助けを呼んだ。

「プラム、少し我慢してね。大丈夫、あと一分くらいで収まるから」
  助けはこなかった。

  リンデンの言った通り、割とすぐ二人は落ち着いた。

「本日からお世話になります、ヒース領から参りましたプラムと申します」
  私はブルボンスで散々やらされたカーテシーをして、挨拶した。

「私はヘブンリー=リーブスだ。今日から君のお父さんだよ。気軽にパパって読んでいいんだよ?」
「あら……礼儀作法がしっかりしているのね!かわいらしい!! ……これは失礼したわ、私はアルストロメリア=リーブスよ。よろしくね。気軽にママって呼んでいいのよ?」
 夫妻も挨拶してくれた。

「じゃあ僕もにいにでいいよ!」
 あなた、さっきお兄様って呼べっていったじゃん!

 ヘブンリーさんは金髪碧眼のすっごく背が高くてマッチョだった。おっきぃ……。

 グリーズリーくらい……は言い過ぎか。でもおっきぃ……。リンデンの金髪碧眼はパパ譲りか。
かたや、アルストロメリアさんは、綺麗な淡い水色の髪で小柄で華奢で本当に妖精かと思うくらい美しい人だ。

「えー…こんな可愛い娘。ホントに預かるの3年だけ? 僕、もっと預かりたい。えええ……知ってたら無償で預かってたな。権利書返却するかわりにホントにくれないかな……えええ、レインツリーに10年くらい前に奉仕活動で行けばよかった……絶対引き取ったのに……」

 指を咥える公爵。エエエー…。
 そんなのブラウニーと離れ離れじゃないですか。

「あら、あなたも? 私ももう手放したくないわ!」
 会ってまだ5分くらいですけど!? なんでいきなりこんな溺愛されてんの。
 あ、そうか。

「あ……すいません、昨日、私……自動魅了のパッシブ処理が弾け飛んじゃって、今は自動で魅了が……」
「まあまあ大丈夫よ。私達、魅了無効のアミュレットを身に着けているから。それより、アメリアママって呼んでごらんなさい?」

「あ、はい。アメリアお母様……」
「ママ(ずいっ」
「ま、まま……」

 ううう……!! なんかママってハードル高い……!
 でも、ママ……か。教会にいた頃、結構何度も憧れたなぁ……。

「じゃあ、次は僕だな。パパって呼んでごらん」
「ヘブンリーお父様……」
「パパって呼んでくれない!!」

「……ぱ、パパ……?(涙目」
「わーーーお!うっれしい!!」

 いきなり私をリフトしてクルクルするヘブンリー閣下。
 高い! 目が回る!!

 歓迎されすぎつらい。
 身分のこともあって、ハードル高過ぎですって!

「父上、母上、彼女は孤児院出身だから、そういうの慣れてないと思う。
彼女が呼びやすい言い方で我慢してあげて。プラム、普通にお父様お母様でいいよ」

 リンデンありがとう。あなたもお兄様でいいですか。

 ……でも、温かい。

 周りに目をみるとこの場にいる使用人が皆、笑顔でこっちを見ている。
 ブルボンスでは、みんな冷たい目をしていた。

「そう……そうよね。でもびっくりしたわ。ブルボンス家で半年教育されただけあって、所作がちゃんと貴族の子に見えるわ。頑張ったわね、プラムちゃん。辛かったでしょう?」

「本当にね。窮屈だっただろう。そうだ、プラムちゃん、僕達はね、君にそういうの強要しないから、素の自分で過ごしていいからね。社交界に出すつもりもないから、安心しなさい……でも学院では令嬢ぶっておいてね。社交界はともかく学院でもパーティはあるからねぇ」

 令嬢ぶる!!
 ……でも確かにね。

 学校(勉強)にはあんまし興味ないんだけど、孤児だった私が王立学院とか行かせてもらえるってすごい事なんだよね。

 将来ヒースに帰ってもヒースだって男爵家ではあるし、貴族の事は知っておくべきだったりもするんだろうな、とはなんとなく。

 アドルフさんも、のほほーんと生活してるように見えて、情報収取はキッチリやってたみたいだし。
 それ考えると社会に触れて雑学するには学院は良いんだろうなぁ。

「あ……ありがとう、ございます」

「とりあえずは疲れただろう。君の部屋は用意してあるから、夕飯までそこでゆっくりしておいで。
さて、パパはブルボンス退治に奔走してくる!!」

「あなた!廊下は走っちゃいけません!! じゃあ、私もこれで失礼するわね! またディナーでね!」

「あ、はい! これからよろしくお願いいたします!」
「勿論!!」

 そして嵐のように歓迎されて嵐のように二人は去っていった。

「プラム、びっくりした?」
「うん、ちょっとね。でも素敵な人たちだね」
「ふふ、良かった。プラムが気に入ってくれて」

 いやーブルボンスで半年、公爵家クソとか毎日思い続けた私からすると、
 ここは概念が変わる場所ですよ。ホント。

「さて、お部屋に行こう、プラム」
 リンデンが手を出した。
「ありがとう。お兄様」

 エスコートって一体なんなんだろうな本当。
 別に普通に歩いていいんじゃないのかって思うけど……。

 孤児だった私が場違いで不思議な事やってる感が拭えない。

 案内された部屋は、ブルボンスで用意されてた部屋と同じ様式だった。
 でも、部屋全体が明るい雰囲気で、印象が全然違った。

 あっちの部屋はすごく重苦しい雰囲気だった。
 リーブスの部屋のバルコニーの前には可愛い花が敷き詰められた庭園や噴水が見えた。

 そっか、あそこは塔だったけど……ここは普通に屋敷の中なんだ。

「プラムに関してはね、バルコニーから飛び出でようと多少マナーがなってなかろうと目くじら立てないように周知してあるから、ほんと自由にしていいからね。うちにもうるさい使用人はいるっちゃいるけど、3年っていう区切りもあるから、目をつぶると思うよ」

「あはは、私はそこまでお転婆じゃないよ! でもありがとう。そう言ってもらえるととても気が楽」

「夕食前にまたお着替えあると思うから、それまでは自由にしてていいよ」

「うん。でも、自由って言っても…何したらいいかわからないな……」

「ああ、そうだね。部屋の中を見て、必要な物がないかチェックしておいて? 別にしなくてもその都度いってくれて良いけどね! あとは庭の散歩とか、図書室も侍女に言えば連れてってくれるよ。
そのあたりはブルボンスと同じじゃないかな?」

「あ、成程。何が役に立つかわからないものだなぁ……」
 庭の散歩か……ギンコはどうしてるかなぁ。
 ブルボンスでは見張りだったとはいえ、彼とずっと散歩してたようなものだ。
 あの時、飛び出るようにとんずらしたから、挨拶もできなかった。

 最初は大っ嫌いだったのに、今はとっても感謝してる。
 神様……彼が無事でありますように。

 ……といつものように祈ってはみたけれど。

 私が祈ってる神様って…どういうもの?
 アカシアが言ってた地母神?
 聖書にはいつも神、としか書かれてなくて。

 そういえば昔。
 教会の子供たちが神様の名前は?、とアカシアに訪ねても
『神様は神様だよ。名前があっても口にしてはならない尊いもの。だから"神様"でいいんだよ』
 ……と。
 ……神の愛娘が地母神で。他の世界の神様が地母神を産んだ?作った?
 他にも神様がいるの? んー?

 宛先がわからないのに祈ってるの?
 おかしくない?
 聖書を久しぶりにめくってみたくなったけど……絶対寝る。

 字が小さくて1ページに凝縮するかのようなあの……酔いそうな……。

 ブルボンスの図書室でも聖書だけは手出さなかったものね……。

 だれかプラムにもわかる簡単な聖書みたいなかんじで語ってくれる人が必要だ。

 でもまあ、とりあえず。
 長年の習慣だし、神様叫びたいときはいつも通りにするよ。
 なんか色々知ってるアカシアが神様でいいんだよって言ってるんだし。

 とか考えてたら、リンデンが。
「これからの事は改めて落ち着いたら話しようね。じゃ、僕もちょっとブルボンス戦に参加してくる!」

 ブルボンス戦!

「よ、よろしく!」
「うん! まっかせてー!」
 リンデンはバビューンと出ていった。

 楽しそう……?

 うーん、そういえばさっきの夢。ココリーネの事……。
 ずいぶん先の出来事ってアカシアが言ってたけど、誰に相談しよう。

 ブルボンスを攻撃するのに今夢中なリンデンにはココリーネを助けるような事、言えないな。
 ましてやブラウニーやアドルフさんにも。
 すごく怒ってくれてたもの……。

 私も別に助けたくはないし、ココリーネなんて大嫌いだけど……だからってあんなひどい目にあってほしい訳では無い。知らなくていい事を知ってしまった。

 あんなの視てしまった以上は、何かしら助け舟は出しておかないと、自分が後悔しそう。
 かといって手紙すら届けられそうにないしなぁ。

 どうしよう……。まったく方法がない。
 まあ、夢の中のココリーネは今よりお姉さんになってたし、まだ先の話だからゆっくりでいいか…な。

 あ!いけない。

 ブラウニーとアドルフさんに無事ついたって『報』を出そう。
 『報』はすっごいいっぱい持たされたから。

「何かあったらすぐ『報』を出しなさいね?」
 ……と、アドルフさんにお母さんぽく言われた。

 部屋の中に、デスクがあったのでそこの引き出しを確認したらペンや便箋が揃っていた。
 ありがたく使わせてもらおう。

  『アドルフさん、ブラウニーへ
   無事にリーブス家についたよ。
   ブルボンスとは違ってみんな優しいし、とても過ごしやすそうだよ
   でも、それでも早くヒースに帰りたいよ。
   またね
          プラム』

 私は書き終わると、インクが乾いたのを確認して、紙飛行機を折った。
 バルコニーに出て、紙飛行機を投げた。うん、良い感じに飛ばせた。

 アドルフさんが、リーブス家とヒース家なら『報』は距離的に大丈夫って言ってたから、途中で事故にあわないかぎり届くだろう。

 あー…早速、寂しい。

 そういえばモチがいないんだ。
 ブルボンスではモチがずっと傍にいてくれたのに。

 私はそんな事を考えながら小さくなっていく紙飛行機を眺めてぼんやりした。

「……分霊(わけみたま)」

 普通の人間でないって言われたのは、実はかなりショックなんだよね……。

 そしてアカシアは一体何者なんだろう。

 他の世界に行ってゲーム作者を殺してきたり、私の夢に出て来たり。
 運命をいくつも知っていて、私を生まれる前から知っているとか……。

 魔王……ではないよね。

 それにこの世界は現実世界でゲームは書記官の転生者が作った……ってことは、
 攻略対象を選ぶっていうのはゲームにおいてのルールで、この現実世界には当てはまらないのでは?

 何故まだ私に運命の相手を選ばせようとするの?
 疑問でいっぱいだ。
 呼び出したい。

 特別な夢は次いつくるだろう。
 そんな風に考えたのは初めてな気がした。



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