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53 ■ Engagement Ceremony ■――婚約式

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 そして婚約式の日はやってきた。

 私は早朝から起こされて、お風呂に入れられ、侍女さんたちの渾身の技術で身綺麗にされた。

 侍女さんたちが
「磨きがいがある……うふふ」
 とかたまに目を光らせて呟いててちょっと怖かった。

 でも一生懸命やってくれてありがとうございます。

 バルコニーから外を見ると、庭園が飾り付けされていた。
 沢山の使用人が走り回っている。
 そういえば、あの辺りで昨日軽く予行演習したものね。

 良い天気で良かった。ああ、走り出したい。

 準備は大変だけど、ブラウニーに着飾った姿を見てもらえると思うと、ドキドキする。

 この間みたいにまた、綺麗って言ってもらえるかな!

 白を貴重に淡いピンクのフリルで縁取られたドレスを着せてもらい、髪はもともと癖があったけど、更にそれにウェーブをつけられた後、ハーフアップし、白い花をベースにした花々で飾られた。

 侍女さんが宝石のついたネックレスとピアスをつけてくれた。

 リンデンが用意してくれたんだけど、ブラウニーの瞳の色に近い宝石探してくれたんだって。
 ブラウンダイヤって言うらしい。

 ダイヤはダイヤって宝石しかないと思ってたけど、種類もあるんだね。

 しかし、こんなの頂いてもどうしていいのやら。
 だって、いつかヒースに帰ったらこんな豪華なアクセサリを使うことないと思う。

 でも、ブラウニーの瞳の色か……
 ……えへへ…。
 いけない、顔が緩む。

 顔を引き締めて、鏡に映る自分を見ると、なんだかもう結婚式みたいだ。

 わああ、なんだかすごく照れくさい。

 教会に住んでたからやっぱり、たまに結婚式とかあったもんなあ。

 いつか私もあんな風に結婚するのかなー、とか思ったりしてたりもしたけれど、まさか公爵家の養女にしてもらってこんな豪華な婚約式してもらえる事になるなんて、誰が思いますか。

 一生分どころか三生分? 五生分……ひょっとしたらもっと…?くらいの贅沢では?
 神様お許しください……。

 ノック音がして、侍女さんが出ると、リンデンが入ってきた。
「支度できたって聞いたから来たよ、プラ――」
「あ、お兄様、おはようございます……ん?」
「あはは、ごめん、ちょっとぼーっとしちゃった。寝不足かな」
「お兄様忙しいもんね。回復してあげる」

 私はリンデンに回復をかけた。
「わあ、ありがとう。プラムはお兄様思いの良い妹だ!
 そしてとっても綺麗だよ! おにいちゃんびっくりした!」

 うん、元気でたみたい。よかった。
「ありがとうー!」
 あ、そうだ。いっぱいがんばってくれた侍女さんたちにも回復かけよう。
 侍女さんたちも皆、喜んでくれた。

「えへへ」
「さあ、お手をどうぞお姫様。ブラウニーが待ってるよ」

「ブラウニー!? わあ、久しぶりに会える!! はーい!行きまーす!!」
 私はウキウキしてリンデンの手を取った。

 リンデンにエスコートされて、エントランスに向かう階段を降りようとした時に大きな音楽がなり始めた。
「わ……?」
 見ると、エントランスから庭にかけて、見たこともない楽器を抱えた人たちが沢山いて演奏している。

 予行演習、こんなのなかったよ!

 う……うわああああ!! 私、私が!ホントにここ歩いていいんですか!!!

 ――そして、開け放たれた扉のすぐ外にブラウニーが立っているのが見えた。


  おっh……


 ブラウニーが……正装しているブラウニーが……!! グレーなフロックコートブラウニーが!!!

 銀髪混じりになった髪が! 普段の彼のイメージを損なわないように! 流れるように! 自然に! セットされている……!! あれ?ピアス!? 穴あけた!? 私の瞳の色にそっくりなエメラルドのピアスしてる!? うわ、そのピアスになりたい!! ……そして何よりその優しい笑顔!!

 こ……これは究極のブラウニー!!!

 こっち見て、微笑んで…… ……うっ。心臓が。

 私どうしたらいいの?
 え、かっこよすぎる、鼻血でるやばい。

 えっともうこれ結婚式でよくない? もうこのまま結婚しちゃわない?
 私は全然かまわないんですけど!?
 しようよ! 結婚!!

 私の手が震えてるのに気がついたリンデンが、しっかりして、と小声で言ってきた。
 はっ……そうだった。

 いけないいけない。

 こんな綺麗な装いをさせてもらっているくせに、中身がこれではバチが当たりますね……。
 お、おしとやかに……。
 しかしブラウニーがまぶしすぎてもう、わたし、わたし……。

 そんな事を考えてる間に、リンデンからブラウニーに私の手は引き渡された。

「ブラウニー……」
「よう……泣きそうな顔してるぞ」

 ブラウニーはそう言って、頬にキスしてくれた。

「とても綺麗だ。今までで一番綺麗だ。……こら、泣くなよ?」

 私は何回、自分の屍を超えていけばいいのですか?
 わーん、泣いたとしても嬉し泣きだよ!

「よし、行くぞ」
 ブラウニーがエスコートしてくれて、今日のために設置された祭壇へ歩いていく。
 え……、え……。なんかブラウニーの振る舞いが優雅なんですけどー!

 私はもう、あなたが素敵過ぎて、さっきから100回は心臓止まってますよ?

 そんなに余裕もってエスコートして、照れくさそうにもしないで、ただ微笑んで……。

 紳士なの!? 貴族なの!? スパダリ貴族神士に進化したの?

 もう自分が何言ってるのかわからない。
 たすけて神様。

「まだ泣くなよ……」
 念押しを小声で言ってくる。
 う、泣きません、嫁ぐまでは。

 アドルフさんの姿も探したいと思ってたのに、もうブラウニーに釘付けですよ。
 この目に今日のブラウニーを、そのすべてを焼付なくては……!

 神様、これって私の使命ですよね! この為に生まれてきたんですよね!!!
 なーんだ、早く言って下さいよぉ~!

 神官が祝詞読んでる。
 頭に入ってこないけど、ありがとうございます。
 私のありがとうが神様に届きますように!

 神様がぶっちゃけもうなんなのかわかんない状態だけど!
 どっかにちゃんとした神様いるでしょ!(適当)
 私この人の妻になります。じゃなくてとりあえず婚約者だった……神様!!

 気がつけば、ブラウニーが指輪を手にして
「ほら、手を」
 と、カクカクしている私の手を取った。

「まったく……しょうがないやつだな」
 私の指に指輪を通してくれて、自分のは、私にしっかり持たせて支えて、はめてくれた。

 拍手がわきあがる中、私達はキスをして、拍手してくれている人たちに一礼した。
 なんだここは、天国なのかな!?

 あとはそのまま庭で簡単な立食パーティをした。
 来客のない、完全なホームパーティ。

「今日は、良い式だった……と、今日は頭は撫でられないな。おめでとう、ブラウニー、プラム」
 ……と、やはり正装かっこいいアドルフさんが、微笑んで言った。

 至高のアドルフさんである。

 この人、ほんと立ち姿とか洗練されてるよな……。
 これが貴族育ちというやつか……!

 そんな風に、落ち着いてアドルフさんや他の人が見れるようになってきた。
 号泣してるけど。さっきよりかは落ち着いてる。本当よ……。

「ありがとう、アドルフさん」
 ブラウニーが、照れもせず言う。
「……」
 私はなんと喋れなかった。口パクパク。

 こ、こんなはずではー!

 アドルフさんにありがとうって言いたいのに。
「プッ……あ、いやごめんな」
 アドルフさんが口元おさえて吹いた。

「あらあらあら……ちょっとお化粧直ししましょうか、プラムちゃん……というかもうお化粧落としてあげたほうがいいかしら」

 クスクスっと笑ってお母様が鼻チーンしてくれた。
 私ったら公爵夫人になんてことしてもらってんの。

 そして今酷い顔なんだろうなぁ……。うう、いつかやる結婚式では絶対泣かないで優雅な花嫁になってやる…。

「プラム、大丈夫か……?」
 今日はギンコも優しい声で……え? ギンコ?

「あれ? ギンコさんいたの?」
「今気がついたのか!?」
 来客いた!!!!!

 すいません……脳内映像を思い返す…あ、いた! 何故か存在スルーしてしまってた!

「フ……私がお前にしたことを考えたら当然、だな……」
 ギンコぉ!! 黄昏ないで!? そんなつもりはなかったよ!!!

「ごめんなさい! ブラウニーが素敵過ぎてブラウニーしか目に入る余裕がなかったの!!」
 あああ! 弁明するつもりが本音が止まらなかった!

「プラム……よせよ」
 ブラウニーが真っ赤になりつつまんざらでもなさそうにする。
 やっだ可愛いかっこいい……。

 私はブラウニーにギュッと抱きついた。
「だって!! かっこいいんだもん! ブラウニーが!!!」
 世界の中心で叫んだって間違ってない。

「プラムのほうが素敵だ。他者の追随を許さないほど綺麗だ」
 わあ、わあ、わあ!!(涙だーーーーーー)

「うっわ……何この空間、でもまあ、今日はしょうがないな、うん」
 アドルフさんが手をパタパタと扇いでドン引きしつつ笑ってる。慣れたんですね!!

「……その、まあ……おめでとう」
 ギンコが小さく呟いていた。

「ありがとうギンコさん!!」
 ギンコは少し困ったように笑った。

「うおおおおお、娘よおおお!!」
 ここにも号泣してる人がいた。

「ヘブンリーお父様今までありがとう……」
「うむ、嫁に行ってもいつでも帰ってくるんだぞ……プラム」
「父上!! まだ婚約しただけだよ!? 今日は結婚式じゃないからね!? まだ預かったばっかりだからね!?」
 リンデンが突っ込む。

「よかった……他にツッコミがいた」
 謎の言葉を呟くアドルフ氏。
 いやー結婚式でもいいよ? ホント。

 その後、ブラウニーとダンスを皆の前で披露した。
「ブラウニー、ダンスいつの間に覚えたの?」
「最近。アドルフさんに教えてもらって……いくらアドルフさんでも野郎相手とかの練習は精神的にきつかった……」

 アドルフさんが女性役とかやったのかと思うと、ちょっと見てみたかった気がする。

 多分賑やかな練習風景だったろうな。
 ホントは私と練習しようかって話もあったんだけど、とにかく日にちがなかったので、こうなってしまった。
 それでもちゃんと踊れるくらいマスターしてきたブラウニーはすごいと思う。

「ふふ。でも上手。やっぱりブラウニーって何事もそつがないよね。
 ……私、練習の時、なかなかうまくできなくて、しょっちゅう鞭……んんっ」

「は?」(顔怖)
「む、むちうちになりそうだったお……?」
「……そうか。大変だったな」(……顔怖抑えた)
 
 顔を怖くするの耐えてる……。
 そうだよね、晴れの日だし、顔怖いのだめだよね…。

 そんなこんなで、3時にもう一度軽くティーパーティをして解散となった。

 それまで久しぶりにブラウニーとずっといれて、すごく幸せだった。
 半年一緒にいれなかったから、その分の埋め合わせのように、ずっと一緒にいた。

「もう帰る時間なんて……」
 私は帰りの馬車に乗り込もうとしたブラウニーに言った。

「……オレだって帰りたくない。
 大丈夫、また来る。何かあったら『報』をくれ。
学院の入学式の日、門の少し手前で待ち合わせよう……えっと確か、門をくぐった所でコケたらやばいんだよな?」

「うん。そこで皇太子殿下に助けたもらったりすると好感度があがっちゃうんだって」

 アカシアの話を思い出すと、ここはやっぱり乙女ゲームの世界ではないのだけど、ココリーネがその方法でギンコやライラック殿下を懐柔しているのを見るとその方法は有効らしいし、気をつけるに越したことはない。

 地球の呪いマジ怖い。

 皇太子殿下がどんな人かは存じ上げないが、リンデンやギンコを見ていると、そんな呪いにとらわれずに、普通の恋愛なりお見合いしていただいて、ふさわしいお相手と国の将来を担っていただきたい。

「訳わからんな。……でもまあ、現実的に有効な手段ってならしょうがない。
指輪はちゃんとしてこいよ。」
「い、いえっさー」
 指輪って言われて私は照れた。

「ぶ、ブラウニーもだよ!!! け、経済科の、女の子とか……モテちゃだめだからね……」
「経済科はほとんど男だぞ。それにお前じゃあるまいし、そんなにモテねーよ。オレは」

 ハハ、と軽く笑ったブラウニー。ですが。

 ………?

「……"そんな"に?」

 ブラウニーがハッとして口を抑えた。
「ブラウニーサン……?」
「プラム……おまえ、顔が!」
 ブラウニーが私の顔に怯んだ。何故だい……?

「……今まで私に話してない何かがありますね?」
「いや、ほんと、なんでもないんだけど……レインツリーですこし…たまに…手紙もらったりしただけです…」

「………私にはなんでも話せって言ってる癖に…?」
「ごめんなさい……」

 ブラウニー、顔が青いよ? どうしたのかな?
 ねえ? どうしたのかな? かな?

「うわ! 立場反転してる!? 珍しい!! ……ブラウニーがしおらしいだと!?」
 馬車に既に乗ってたアドルフさんが声を上げた。

「アドルフさん、ちょっと黙っててくれます……?」
 ちょっと久しぶりにキレちまってよぅ……。

「うわ! プラム、顔怖!!!」
 アドルフさんが怯えた。

「全部、その場で断ったから言う必要もないかと……」
「……そうね、言わなくてよかったね」
「……?」

「言ってたらその娘は、後日湖に浮かぶやもしれぬ……」
「プラムーーーー!? 振られた娘だよ!?」
 アドルフさんが泣いた。

「ウルサイダマレ……ブラウニーに触れようとした時点で大罪よ……夢見る事すらゆるさん……」
「ひぃ!?」
 なんでアドルフさんが怯える?

「プラム……すまん、それは別に構わないが、お前の手を汚すことになる。オレはそんなお前を見たくない…」
 ブラウニーが私の手をギュッと握って、額をコツッと合せてきた。

 ……。
 ブラウニー、なんて優しいの。

「ブラウニー…そか、そうだよね……」
 私は照れて俯いた。

「構わないの!? 良いわけないでしょ! お前たちオカシイよ!?」
 ブラウニーがアドルフさんのほうに顔をキッ!と向けて首を横に振る。

 アドルフさんが、……あっ、て顔して、座りなおして大人しくなった。
 ……?

 あなた達また謎の連携とってますね。
 ヤキモチヤキマスヨ?

「あははは……良い天気だな~(そうだな、刺激しないほうがいいな……)」
 アドルフさんがあさってのほうを向いて笑ってる。
 なんなの、突っ込むなら最後まで責任取って下さいな。

 そんなプチ事件を挟んだあと、ブラウニーは私にキスして、馬車に今度こそ乗り込んだ。
 私は、馬車が小さくなって見えなくなるまでその場に立ってた。

 ああ、また次に会えるのが楽しみ。
 神様、ブラウニーが風邪とかひきませんように!



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