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66 ■ PEKERU? 02 ■
しおりを挟む「あ、大丈夫です……。ごめんなさい、急に泣き出したりして」
「いや、僕が悪かったよ。泣き止んでから帰ってほしいけど……帰りたい?」
私はコクリと頷いた。
「そうか。おいで」
殿下は私の手を引いてプライベートルームのドアを開けた。
「門まで送……」
殿下が言いかけた時、私は殿下の手を離して、ドアの真ん前に立っていたブラウニーにすぐ気がついて走って無言で抱きついた。
言ってた通り、ちゃんと待っててくれた。
「うわ……っと。申し訳ありません。……殿下にご挨拶申し上げます。ほらプラム。殿下にご挨拶しろ」
ブラウニーは落ち着いていた。
「あ…。殿下、失礼しました。……本日はありがとうございました。明日もちゃんと参りますのでよろしくお願いします」
「……ああ。婚約者が向えにきてくれてたんだね。また明日ね、プラム。えっと君は……」
「……ヒース男爵家のブラウニー=ヒースです。プラムの婚約者です」
そう言ってブラウニーは一礼した。
「では、婚約者がお世話をかけました。連れて帰りますので……これで失礼致します」
ブラウニーが私の肩を抱いた。
殿下は少し無言でブラウニーを見、ブラウニーも無言で見返した。
「うん、じゃあ、またね」
殿下はそういうと、プライベートルームのドアを締めた。
「……行こう、プラム。大丈夫か?」
「うん」
「このままヒースに来るか?」
「うん」
その後、マロにのってヒースに行き、私達の部屋の中間にあるテラスで私はずっとブラウニーに抱きついていた。
殿下は優しい人だと思うけれど、やっぱりそれでも怖かったのだ。
彼の持つ力が。影響力が。
冗談でテストで良い順位を取れなかったら不敬罪、とか言ってたけど、その気になれば周りにどう思われようとそれができる力があるのだ、あの人には。
言動一つ間違えただけで、聖女認定されることになって、ブラウニーと離れ離れになるんじゃないか、とか、二度と自由がなくなるんじゃないかとか。
ココリーネの時に思い知った事だ。
今までは、わかっていても現実味がなかったけれど、皇太子殿下という強い立場の人に質問されたことで、自分が抱えている問題が本当に心に重くのしかかって堪えた。
殿下は私が思うより軽い気持ちで聞いていたのかもしれないけれどね。
ブラウニーにはすべて話して、聞いてもらった。
「プラム。大丈夫だ。がんばったな」
「ブラウニーもよく怒らなかったね……」
「お前が普通に暮らせてるからな。今は。ココリーネの時に囚われてた時とはさすがにオレも精神状態が違うぞ。……腹が立つより、泣いてるお前のほうが心配だった」
ブラウニーが目の下にキスしてくれた。
「とにかく残りの罰ゲームはおとなしく受けてこい。今日みたいな事が、初日にあったらさすがに殿下もこれ以上は踏み込んでこないだろ。からかわれる隙を見せないようにな」
「あー…。そうね。それはそうだ」
「あとはイチャイチャしてよう。学院内でも」
「……!?」
「運命とやらがないって思わせるしかないだろ。だいたい他の男とくっついてたら萎えるだろ。オレなら絶対嫌だぞ」
「……ココリーネはギンコやライラック殿下以外にも周りに男性が多かったみたいだよ。それでも攻略対象の二人はココリーネから離れなかったから、それも有効なのかどうかは私わからないよ……」
「なんだそれ気持ち悪い」
「地球からの呪……」
はっ。
アカシアの話をブラウニーにしてなかった!!!
ブラウニーに一番に話ししようとは思ってたけど!!
「……プラム?」
ああっ顔が怖い!!!!
「長い話になりそうだな? コーヒー煎れてやろうか?」
笑顔が、笑顔じゃないよブラウニー!
「あ……ああ……わざとじゃないんです、忘れてただけなんです」
「お前いっつもそうだな。忘れるくらい、アカシアがどうでもいい存在だという事で許してはやるけどな」
……許されなかったらどうなるんでしょうか。怖いです。
私は洗いざらい吐いた。
どうしていつも怒られる感じなんでしょうか。不思議です。
「ふーん、大変だな。攻略対象たちってのも。呪いか。じゃあ皇太子殿下も呪いにかかってんのか。……それ解呪したら執着されなくなるのか?」
「うーん、それは『ゲーム』側の話だから……もともとその書記官がゲーム作らなくても、この世界の予定??はあるみたいだし…」
ゲームじゃなくても私達にとっては引き裂かれる運命が敷かれてるということだ。
でも今更ブラウニー以外好きになることなんてありえないし……。
攻略対象が向こうから寄ってきても無意味なんだけど。
「とりあえず私達ができることって、ブラウニーがさっき言ったみたいに……あ」
「ん?」
「ブラウニー」
私は真顔でブラウニーに言い放った。
「ペケしよう」
ぶーーーーーーーーーっ!
ブラウニーがコーヒーを吹いた。
「ブラウニー、君としたことがマナーがなってないわね……? おいくちゅでしゅか?」
ナプキンでブラウニーの口元を拭う。
「おいくつですかじゃねえよ! ……おまえ、オレ達11歳だぞ!!」
「もうすぐ12歳だよ。秒読みだよ。いけるいける。気持ちの問題」
私は立ち上がって前のめりにブラウニーに近づいた。
ブラウニーが椅子を下げて距離を取る。何? なんでそんな怯えた顔を?
「法律の問題だ!? 15歳からだよ!!! 散々言われてるだろ?」
ブラウニーったら顔赤くして。可愛いわね。
「……半年前、ここで覚悟決めろって言ったの誰だったっけ」
「さすがに12歳はねえ……よ!」
あ、今少し迷ったな。これはオトせるのでは?
「さらに言うと、赤ちゃんできたら周囲を完封できるのでは?」
「うああああああ!! よせ! それは禁じ手だ!! プラム、おま、ちょっと目が死んでるぞ」
「自分、ペケをつけたいであります! それは安心材料となると思っております!」
ブラウニーが顔を真っ赤にして立ち上がり、私の両肩に両手を置いた。
「良し、わかったプラム。とりあえず落ち着け。お前がかなり追い詰められている事はわかった」
「じゃ……ぺケつけますか?」
「つけない!!! 弁当屋でフォークつけますか、みたいなノリで言うんじゃない!」
えー。
そして座らされた。
ブラウニーは息を整えた後言った。
「とりあえず、前とは状況が違う。オレとアドルフさんが会社立ち上げようとしてるのも、根本的にはお前を守りたいからだ。王家なんかにはとても太刀打ちできないだろうが、それでも何かしら社会的な力をヒースは持たないといけない。……その為には今は時間が必要だ」
「うん…」
そんな事はわかっていた。ブラウニーの言う事がもっともだ。
ああ……冷静になったら恥ずかしくなってきた。
だいたいムードもへったくそもない。
これではペケるなどとてもありえない。
「……ひとつ言っておくが、嫌なわけじゃないからな」
座った私の後ろから、ブラウニーが両肩を抱くようにギュッとした。
「わかってるよ」
そのまま私達はしばらく無言で、荒野に沈む夕日を眺めていたのだった。
※※※※※
次の日から週末まで、殿下のプライベートルームへ行っても、殿下はずっと不在だった。
ちょっと、ホッとした。
ただ、ワークはきっちり置かれていて、私はそれを淡々とこなした。
……うってかわって、少し寂しい気もした。いや、バツが悪い?
あれだけ楽しそうに接してくれていたのに……と。
そんなに思い入れのある相手でもないし、攻略対象とかでなければ普通に話すのは楽しい人だ。
むしろ濡れ鼠の私を助けてくれた人だ。
でも、避けなくてはいけない相手だ。
殿下が運命の相手として私を意識するならなおさら。
何故そんな事しなきゃならないのかな……。
これは、罪悪感だよね。
ワークをパラリ、とめくるとそこにカードが挟んであった。
『歓迎パーティのパートナー、無理だよね?』
誰宛、とも誰から、とも書いてない。
問題に悩んでいるフリをして、私はデスクに両肘をついて顔を覆った。
どうして……。
しばらく考えて私はカードに一言『無理です』、とだけ書いた。
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