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73 ■ Unconditional Love 01 ■――無償の愛

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 ブーさんの事を話しした後、リンデンお兄様の様子を見に行くことに。

 ブラウニーとアドルフさんと一緒に、リンデンの部屋へ向かった。
 ブラウニーと相談して、リンデンの様子を見て、場合によっては『絶対圏』を使って治そう、と二人で決めた。というか、ほぼ使うつもりだけど。

「……プラム! 大丈夫か? 髪が……」
 部屋に入ると同時にギンコが声をかけてきた。
 私の髪を見て心を痛めたような顔をした。
 ギンコも心配してくれてたんだな。ありがとう。

「お前の治療もしたかったが、リンデン殿が余談を許さないと判断したからこちらへついていた。すまない」
「うん、ありがとう。私は自動回復があるから、平気。髪はなんだかさっぱりした!」
「そうか…」
 ギンコは安心したような顔をした。
 おそらく、生命の精霊とかの動き見て、私が大丈夫だって理解したんだと思う。

「……それでお兄様は…」
「良くない。……中丹田で何かが反発しあっているような……稀にみる症状ではあるんだが」
 歯切れよくない。多分なんか違う気がしてるんだね。
「そう」
 リンデンの方をみると、お医者様とフリージア様と、今アドルフさんが近寄って囲んでいる。

 アドルフさんがなんかの機材を使って、リンデンの様子を伺っている。
「……んー。二属性持ちが起こす症状に似てねえか?」

 アドルフさん、医者の真似もできるの?
 そういえば教会で瘴気があふれた時も、ロベリオとかの状態見てくれたっけ。
 まあ、専門ではないんだろうけれど、なんでも屋さんだな。
 余談だけど、それを後日、本人に言ったら器用貧乏っていうんだよ、と言われた。

 傍にいたお医者様が言う。
「確かにそうではあります。
ですが、リンデン様からは今まで水属性以外の反応は出たことはありませんから……」
 アドルフさんがこめかみをクリクリしている。

「――ん、たしかに水属性しか検出はされないが。なにか違う属性が絡んでいる気がしない? これ……。
現在わかってる属性以外の新しい属性か?」
 アドルフさん、神妙な顔してるけど、今ちょっとワクワクしたわねあなた。

「そんな事ありえませんよ。属性の種類はもう定められています。
私だって長年、リンデン様を見てきて属性だってきっちり毎回確認しているんですから。
また、皇太子殿下とライラック……様も、似たような動きを持っていると、そちらの専門医からお伺いしてます。
 ――彼らもまた、単一の属性所持者でいらっしゃいます。従兄弟同士でいらっしゃるうち、リンデン様の場合だけ不具合が出ておりますので。
確かに、もう一つの属性が存在している、ならスッキリはするのですけれどね」

「まあ、今までの研究結果的に、おまえさんみたいな職業だとそう結論付ける以外ないよな……」
 ブラウニーがアドルフさんの機材を後ろから覗き込んで何か考えている。

「フリージア、そろそろ変わろう。」
 ギンコがフリージア様に声をかける。
「いいえ、いいえ。わたくしはまだ頑張れます」
「だが……」
「……」
 フリージア様は黙して祈りを続けた。
 ……愛だなぁ。片思いみたいだけど。

「アドルフさん、ちょっとそれ貸してくれ」
 ブラウニーがアドルフさんに手を出す。
「ん?」
「ギンコ、ちょっと胸貸してくれ」
「……ん?」
 ブラウニーが機材をアドルフさんから受け取って、ギンコに向ける。

「……あ」
 アドルフさんがそれを覗いて声を上げる。
「なんだ?」
 ギンコが怪訝そうな顔をする。
「……なるほど」
 ブラウニーがアドルフさんの反応をみて確信した顔をする。
「どうしたの?」

「プラムちょっと来い」
アドルフさんに機材を返して、部屋の隅に私を連れて行くブラウニー。

「……なあ、リンデンを苦しめているのは『攻略対象の資格』に関するものじゃないか…?」
「はい…?」
「不明な属性が絡んでるのは確かだと思う。そう考えるしかない。
ギンコに試したらギンコにも同じ反応がある。
ただしギンコのは正常と思われる動きをしてる。だから多分」

「……なんでそんな簡単にわかるものが、お医者さんはスルーしてるんだろう」

「多分あの医者も思う所はあると思うけどな。
さっきアドルフさんも言ってただろ。
あの人達は、まずは常識と今までの研究結果から定められた事柄で判断しないといけないから。
属性の数は、昔から決まってるとされていて、今ある属性はほとんどの人が絶対だと思っている。
それだけ研究がしつくされてるものだ。
……だから、オレ達みたいな情報を持ってでもいなければ、口にするのには、二の足を踏む話しなんだろう」

「なんか……めんどくさいね…。
じゃあ『攻略対象の資格』があるとして……それって何か特別な力があるってことだったのかな」
「シンプルに考えるなら恐らくそうだろ。魔力保持者って事だけじゃないんだな」
「そういえばココリーネも魔力ないけど、一応攻略対象だっけ。ココリーネにもあるのかな」
「アレは放置で」
 放置……!?
 考えたくもないのね、ココリーネの事。わかる。

「えっと、じゃあ、それを抜き取ったりしたら」
「アカシアのお気に入りからは外れるんじゃねえか。地球からの呪いはともかくとして」
 そんな事ができるなら、殿下のを一番に抜き取りたい!!

「……てか抜き取って大丈夫なものなの? 逆に死なない?」
「わからん」

「お前ら何こそこそ話してるの……? お父さんおいてきぼり?」
 アドルフさんがにゅ、と割り込んできた。なんか可愛い。

「ち、ちがうよ~」

「私にも話せ」(にゅ)
 なんかギンコ可愛いな!
 てか、二人共背が高いな!

 ブラウニーと話した事を二人にも話した。
「よし、『絶対圏』を使って抜き取れるなら私で試してみろ」
 ギンコ……!?

「いや、だってどうなるかわからないよ?属性いじるんだから!」
「なら、なおさらリンデン殿から抜き取るわけにはいくまい……!」
 この清廉な人格者!!
 尊敬できますがそれはよくないよ!!

「それに、私がもしまたココリーネの時のようにプラムに不埒な思いを抱いたらどうする。なら抜き取ってしまったほうが良いだろう」
 不埒!? 余程ココリーネが黒歴史ですね!!

「殺す。よし、引っこ抜こう」
 ブラウニー!!! 人参か芋みたいに言わないで!?
「わかった、やるといい」
 ギンコおおおお!!!
「お前らやめなさい!?」
 アドルフさんが止めた。ブラウニーにはげんこつした。ありがとう!!

「ギンコ、お前自己犠牲が過ぎるぞ!生真面目も度を超えてるぞ!」
 アドルフさんがギンコ叱ってる!!!
「すまない……」
 ギンコの耳が垂れた!? かわいい!! ってそんな場合ではないのだ。

 そんな事を話していたら、薄暗い部屋に、まばゆい光が浮かび始めた。
「なにこれ綺麗」
 ……いや、これは聖属性の……
 私はハッとしてフリージア様を見た。

「――」
 フリージア様が光り輝いている。
「なんだ……?」
 ブラウニーが呟く。
「えっ…なんです?」
 お医者さんがビクついてる。

「リンデン様は絶対にわたくしが助けます……ああ、視えます。視えました……」
 フリージアがリンデンの胸元に手を翳す。
「ここに苦しみの種が……こんなもの……」

「こんなものおおおおおおおおっ!!」
 フリージアがリンデンの胸から引き上げるように、銀光の塊を持ち上げる。

「うおっ! なんだあれ!」
「……プラム、この感じ…」
「――あれは…」
「フリージア…! なにを!」
「な! なんですかあああ」

 フリージア様は、それを自身の身体の中に埋め込むように引き入れた!
「あ、あああああああ!! こんなものは、失くなってしまえばいいの!!」

 フリージア様が死んじゃう!?
 私は駆け寄ろうとしたが後ろからブラウニーに抱きすくめられた。

「プラム、あれは……聖属性なのか?」
「え……?いや、これは聖属性では…」
 たしかに…これは聖属性、というより……なにか違う…。

「――う!?」
 帯状のまばゆい光がフリージアから天と地に向けて輝き、突き抜けていった。
 光が放出され、次第に収まっていき――

 フリージア様がいた場所には――美しい少女が倒れていた。……えっ?

「誰……だよ…この女…」
「フリージア様、痩せてる――!?」
「うっそだろ…」
「確かに衣服と生命の精霊の状態からしてフリージアだな」
「どういうことなの…」
「あの光の塊――あれを……消失させるために自身の全エネルギーを使用して……」
「……痩せた?」
「Oh,No……」
「見た目だけではないな。大いなる力を感じる」
「え……?」
「んー?」
 アドルフさんが測定器をごそごそ取り出した。

 そこまで話した所でフリージアがうめいた。
「んん……」
「フリージア様、大丈夫?」
 私は近寄って回復をかけた。
 痩せたから服がブカブカになってる。なんかちょっと萌えます。
 てか、痩せたらすんごい綺麗だよ!! フリージア様!!

「ああ、プラム様、ありがとうございます……リンデン様は…」
 あ、そうだお兄様。
 お兄様を覗き込んで、頬を撫でるフリージア様。

「リンデン様……大丈夫ですか…? わたくしがわかりますか……?」
 いや、わからんと思う。

 お兄様が目を開けた。
「……う…君は?」
フリージア様がそのまま、お兄様に回復魔法をかける。
「わかりませんか……? どうしましょう、視覚に何か問題が…? わたくし、フリージアなのですけれど…」

 いえ、視覚は問題ありません。
 見ている一同が後ろで首横に振ってる。

「え…? フリージア…? ……綺麗だ」
「まあ……いやですわ。わたくしが綺麗だなんて……。
まだお寝ぼけになってるのですね。まだごゆっくりお休み下さい」

 キラキラと輝く美しいフリージア様に、リンデンお兄様は身体も万全ではないはずなのに、見とれてぼーっとしている。

 ……こ、これは。
「……この二人うまくいくのでは?」
 ブラウニーが言った。
「お、おおう。良い感じだよね!」
 しかし、大人二人はそれに微妙な反応だった。

「それは…どうかな」
 計器を器用にクルクル回しながら、アドルフさんが言った。
「……」
 ギンコは無言だ。
「え、何?」
 私とブラウニーは不思議に思って二人を見た。

「……そこのお嬢さんは、たった今なっちまったんだよ、『聖女』にな」
 難しそうな顔をしたアドルフさんは、そう呟いた。

「……はい!?」
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