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80 ■ BlackBox 01 ■――ブラックボックス

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 ????「やあ。こんにちは!生まれてきたね。おめでとう!」
 ????「君のための世界、『Plantasia(プランタシア)』へようこそ!」

 黒髪の少年が私を覗き込んでいる。
 綺麗な新緑が光にあたってキラキラしている。綺麗。

 ????「僕の名前は記録の大樹アカシア! 君の案内役だよ。
 アカシア「これから君とゲームの最後までずっと一緒だよ!」
 アカシア「僕は君のゲームを記録するよ☆休みたくなった時は僕のところへきてセーブしてね!」
 アカシア「今からキャラクター作成とチュートリアルをはじめるね!」

 ……なんだろう、この夢。
 アカシア? それにしては幼いような。

 アカシア「まず名前は?」
 アカシア「髪の色は?フムフム」
 アカシア「…キャラクターが出来上がったね! では、まず僕を相手に練習してみよう!」

     ▶こんにちわ(笑顔)
     ▶好き!!(抱きつく)  ←(ピッ)

 アカシア「こらこら、いきなりそんなのはだめだよ! 好感度下がっちゃうよ?僕(れんしゅう)だから大丈夫だけどね!」

     ▶あなたがいいです    ←(ピッ)
     ▶結婚して☆  

 ん……これってひょっとして、『ゲーム』ってやつ?
 へえ、こんな感じなんだ。

 アカシア「え、困るなぁ。ふふ。残念ながら僕は案内役だから」
 アカシア「……でも、これは秘密なんだけどね。」     
 アカシア「……ひょっとしたら僕のルートもある、かも? 探してみてね☆」

 アカシア「そうそう、右下にヘルプボタンあるでしょう?操作がわからなくなった時、
      そこを押せばいつでも僕が」

 ザーーーーーーー ーーーーーーーーーーーー ーーーーーーーーー 

 夢はそこで途切れ、目の前は砂嵐になり、私は強く目を閉じた。


※※※※※

 誰かに優しく抱かれている。
 ブラウニーだ。
 こういう時はいつだってブラウニーだ。

「……プラム。目を開けろ」

 ……あれ? 声、が?
 ブラウニーと同じ匂いが……あれ、でもちがう?
 腕の大きさも胸の広さも。力の加減も。
 あ、そうか……。

「プラム、オレがわかるか?」
「アドルフさん……」
「よし、良くできました」
 いつもの優しい瞳。ホッとする。

 周りが目に入る。
 赤暗い土の洞穴みたいなとこだな。すごく狭い。
 ちょうど私とアドルフさんでみっしりする感じだ。
 だから抱っこされてるのかな。

「ここ、どこ?」
「わからん……多分、多分だけどな」
「うん……?」

 まだ、お腹にダメージがある。力でない。回復しなきゃ。

「推測だが……異界、かな……はは」
 アドルフさんが力なく笑った。

「……」
「……」

「それって魔王がいるとかっていう」
「そうだな……多分な。おじさんもこんなとこ……初めてきたぞ」
「グリーズリーとかたくさんいる?」
「実はさっき数体に襲われた、なんとか逃げれたけどな。ここはちょうど身を隠すのに良い場所だ。安定してるし。お前は自分に回復かけて、もう少し休んでなさいね」

 安定?

「あ……」
 アドルフさんが良くみたら傷だらけだ!
 私は回復をかけた。

「おいおい、まず自分の回復をだな……」
「大丈夫!って――っ」

 激痛がした。
 自分の腹を見ると包帯が丁寧に巻かれている。

「ほら、大怪我してるんだから静かにしてろ、普通の人なら死んでるぞ。忙しいな、お前。つい昼間に大火傷したばっかだってのに」
 いたわるように頭を撫でられた。心配かけてしまってるなぁ。

「アドルフさん、包帯もったいないよ。私なんて放っておけば、治るんだから……」
「うーん……まあ、自動回復だって追いつかないことあるだろ……(中身が出てたなど、おじさん言えないよ)」

「吐きなさい」
「ブラウニーポジを取りに行った!?」

なんもない、なんも! どの道服が破けてるから! ……と言って、結局教えてもらえなかった。むう。
私は自分に回復をかけた。

「あ、『絶対圏』は使えてる。まだ接続切れてなかったんだね。ちょっと安心した」
「だよな。お前がそれ使えなかったらおじさん、さすがに絶望してたよ」

「……ブラウニー、大丈夫かな」
「わからん。だが、今や『絶対圏』も一人で接続ができるようだからなんとかするだろう」

「あんな、あんな事になるなんて。一人であんな事して、ブラウニーの馬鹿……。なんで一人で行っちゃったの」
「……相談してほしかったんだな、プラムは」
「うん」
「多分衝動的になって出てったんだろう。それだけ昼間おまえに起こった出来事に気分が収まらなかったんだろうな。オレだって、お前があんな事になって震えたし、怖かった。ブラウニーなんて世界が終わった感じがしただろう」

 ……そういえば、様子がおかしかった。
 私は事件はとりあえず収まった、として呑気(のんき)にし過ぎたかもしれない。
 ブラウニーの気持ちにもう少し踏み込んで会話すべきだった。
 ……甘えすぎてた。

 私はアドルフさんにもう大丈夫、ありがとうといって、自分で起き上がった。

「あれ、なにこれ」

腕に紐がついてる。紐の先はアドルフさんの腕だ。

「ああ、説明する。悪いな、さっきから抱きかかえてたのもちょっと心配な理由があってな。
こっちこっち。ほら、外をしばらく観察してみ」

「ん?」

「……ああ、ちょうどあそこが動いてる」
「……えっ。地形が変わったよ?」

次にアドルフさんは遠くにいる魔物たちを指さした。
「あそこの魔物たち見てみ?」
「ま、まもの……?」
いや、アドルフさん、落ち着いてるけど魔物いるって大変なことじゃない!?
あ、でもあの魔物見た目はかわいい。うさぎっぽい。

「あ、ちょうどあの子たちのところ、地形動いて……あれ?魔物が減った? ……いや、消えた?」

「……そうなんだよ。地形が変わったり、目の前のものがなくなったりするんだよ。この洞穴はあまり変化がなさそうだったから、ここに隠れてたんだがな」
「理解できない……」

「地形が動いてる割に、地震とかも起こらないんだよなぁ……。まあ、そんなだから、この紐だ。結ばないよりはマシかと思ってな。グリーズリーに追われてる最中にうっかりぽろっとお前落として、そこの土地動いたらアウトだと思ったんで……お前起きたし、そろそろ外しとくか」

「アドルフさん、グリーズリーに追われながらそこまでやってくれたの?」
のほほんとしてそうなのに有能だな!

「おじさん、危なかったんだぞ~」
「ご迷惑おかけしました……」
「オレはお前のお父さんだからな。当たり前だ」
 また頭をくしゃくしゃされた。

「……う。そういえばアドルフさんを連れてきちゃってごめんなさい。アドルフさんを、こんな危ない場所に……」
 アドルフさんと一緒じゃないとブラウニーを止めれない気がして巻き込んでしまった……。

 でも、私はアドルフさんがいるおかげで、とても安心してる。
 こんな所に魔力もない普通の人間のアドルフさんを連れてきてしまった……と思いつつも、すごくありがたい……。

「もう~。そういう事いわないの。お前が連れてきたんじゃない、オレが一緒に飛び込んだだけだ。
だいたいこんな所に来てしまうなんて、思わないだろ」
「み」

 モチがアドルフさんのフードから頭をちょこっと出して、うんうん、言ってる。
 こんな時だけど可愛い……。
 あああ、泣いてしまう。

「ほーら、よちよち。泣かない泣かない。で……どうするかな。『絶対圏』でオレたちの世界に帰れそうか?」
 そうだ、泣いている場合ではなかった、私は涙を拭いた。

「うう。うーん、テレポートする時は、一応跳ぶ先の場所が頭に浮かんでるんだけど、全然元の世界の映像が視えない……。異界の中の移動(テレポート)はいけそうだけど……。『絶対圏』て結構想像力いるんだよね。ひょっとしたら元いた場所にひょこっと出る方法思いついたりするかもしれないけど」

 それにしても、『絶対圏』の接続を切るわけにいかないな。
 アドルフさんの安全のためにも……。

「聖書にはたしか神の力が弱まる場所、とか書いてた気がするなー。だから他の属性のルールが通るかわからんが、魔属性で溢れてるここは『絶対圏』の力も多少弱いかもな。……うーん、ゲートを探してみるか」
「ゲート? 魔物たちがでてくるやつ?」
「そうそう。ただ、どこに出るかはわからないけどな。とりあえずこの世界から出れるならまあ、なんとなかるだろ……早めに脱出しないと、あれだ。飯とか水がな……」

「……」
「……」
 いやああああ!ライフラインが皆無うううう!!

「大変じゃないですか!!」
「しーっ。静かに。そうなんだよ」

「なんでそんな、いや、慌てるでしょう!?」
「だから静かに。…慌てても仕方ないしな。数日なら大丈夫だぞ。おじさん錬金術でなんとかしてみる」
「有能!?」
「静かにしてほしいんだが、もっと褒めてくれていいぞ」

 数日、しかし数日か。

「じゃあ……私はこの世界を視て、ゲートを探してみようかな……」
「頼む。ああ、そうだ。何か食べれそうなもの見つけても、すぐに口にするなよ。実とか。この世界特有っぽそうなやつ」
「え、なんで? そりゃ得体はしれないけれど……試すくらいはいいのでは」

「聖書の一節にあるんだよ。 異界の食べ物を口にした人間は、魔王の所有物になってゲートがあっても帰れなくなる話なんだけどな」

「絶望しかない……」
「安心しろ。魔物はいけるはずだ。食ったことある」

「―――!!」
 いやああ!と叫ぼうとする前にアドルフさんに口をふさがれた。

「こらこら、もう、さっきから静かにしなさいって何度も言ってるでしょ? いい加減、お母さん怒るわよ? 魔物に気づかれちゃうんだから」
めっ、てされた。

 私はコクコクと頷いた。ごめんなさい、おとかーさん。

「……まあ、元気になってよかった」
 アドルフさんは優しく微笑んだ。
 その瞳はブラウニーと同じだから余計に安心する。

 ……そういえば、いつも思ってる事……二人がそっくりだってこと。
 今二人きりだし、聞いてみようかな……?
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