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83 ■ The Contents of the Box 02 ■

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「ついて来るな!?」

 全裸に布一枚の男が後をついてくる……そして顔がオレだ!!

「いや、手伝うって。オレが困ってるのにオレが助けないなんてありえないだろ?」
「そもそも困ってる原因の一つがお前だ!?」
「はは、違いないな!それは解決してやれんが」

 茶番が続く。シリアスを返せ。

「なんぢゃ、騒がしいのう……」
「!」
 突如現れた魔族の爺にオレはダガーを構えた。
 しかし。

「爺さん、だれだ?」
 背後から屈託ない声が…気が抜ける!

「ワシはこの辺を根城にしとる、終活歴50年の爺じゃよ……」
 そのセリフに更に気が抜ける!

 プラム、お前がいないとこいつらのボケに付き合うヤツがいない!
 早く戻ってこい!!!
 オレはもう耐えられなくなって、その場で突っ伏した。

「ああ、泣いちまった」
「坊主、腹でも痛いんかー?」
「泣いてねえ!?腹も痛くねえ!」
「思春期かの……」
「思春期だな……」
「お前らのせいだよ!!」

 何故会ったばかりの奴らにこんなにいじられてるんだオレは。
 こんな所はプラムには見せられない。

「……というか、お前らそっくりじゃな。そして人間も久しぶりじゃ。…あ? 一体はドッペルゲンガーか?」
「おー。そうだぞ。こいつの魂半分もらったばっかりだ。よろしくな爺さん」

 返せ!

「そうか、ああ、あそこの館で眠ってた子じゃな。良かったな、やっと目覚める事ができたんじゃな。……で、いつ殺すんじゃ?この人間」

「は?」
 殺すだと?

「あー、それは。まだその時ではない……って感じだ」

 こいつ俺を殺すつもりなのか!
 屈託ない顔しやがってめちゃくちゃ邪悪じゃねえか!

「おい……。どういう事だ」
「どういう事もなにも。さっきも言ったけど、そういう生態だから、としか」
「まあまあ、落ち着きんさい、人間よ。殺すだけじゃない、お前に魂を返すこともある」
「なに?」

「ドッペルゲンガーは魔族じゃが、寿命はそんなに長くない。人間より短いんじゃないかのう。
その時がくればお前を殺すかお前に還るか決めるじゃろう」

「もう人間になったよ。元魔族だ。最後の仕上げにお前を殺す作業は残ってるけど」
「……なんで俺を殺す」
「オレがお前になるために」

 つまり、オレを乗っ取るってことか。

「オレが今お前を殺してもいいよな?」
 オレはダガーを手に迫った。

「やめとけ。オレが納得して魂を返す、としないと魂半分なくなったままになるぞ」
「それが何か問題あるのか」

 特に今、何も不自由を感じていない。
 オレはダガーを抜いた。

「ストップストップ人間! 問題おおありじゃ! 寿命が減っておるんじゃ! 減ったままになるんじゃ!」

 小さい爺が言い放った。
 なんだこの妙に親切な魔族は。

「あんた、妙に親切で怪しい爺さんだな」
「ああ~ワシ、魔族付き合い合わないんじゃよ。聞いてよ、心は人間なんじゃよ。この世界の人間じゃないんじゃが……人間が懐かしいんじゃよ。モリヤマさんとでも呼んでくれかの」

 ダガー持ったオレにストップストップとジェスチャーするモリヤマじいさん。
 オレは察した。

「……地球からの転生者か?」
「地球知ってるの!?」
「ちょっとだけな」
「え、嬉しい、ちょっとうちでゆっくり……」
「オレ急いでるんだよ!!!!」
「そう……カリカリすんなよ、オレ」

 オレがオレに肩ぽんしてきた。血管が切れそうだ。

「いけず……ワシ寂しい……」
「じいさん、オレでよかったら話きくぜ?」
 よし、まかせたドッペル。

「じゃあオレは行く。……ちなみに桃色の髪の少女と背の高い隻眼で銀髪の男は見なかったか?」
「知らないな……」
 ドッペルが答えた。

「お前に聞いてない!」
 ん? 二人を知らない? 記憶はコピーできないのか?

「人探しか?知らんのう……そこの赤土荒野ではぐれたんかの?」
「恐らくそうだ、モリヤマ」
「それなら多分会える確立はゼロにちかいぞい」
「は?」

「一度はぐれたら終わりじゃ。なぜなら、そこの赤土荒野は、常に時間が入れ替わっておる。
たとえばあっちの溶岩が流れとるあたり。あそこが10年前だとすると、こっちの何もないほうは、5年前とかな。それがもっと細かくてランダムなんじゃ。さっきまで隣に居たものが、違う時間帯にいきなり行ってしまったりするんじゃよ。何年経っても変わらない場所ってのもあるがの」

「……なんだそれは」
「神の世界からその眼に覗かれないために魔王様がやっとる、とか噂は聞いたの」
「探す方法はないのか」
「ないのう…そもそもお前が探しとる者達がこの時間軸におらんと思うしの」
「一旦帰るか。どっかゲートないのか」

「あるにはあるぞい。じゃが、そのゲートがお前のいた時間軸の同じ場所に出るとは限らんぞ」
「はあ!?」
「ひょっとしたら100年前にでるかもしれんし、10年前かもしれん」
「な……」
 なんだよ、それ……。

「なにか方法は……」
「魔王様に頼むしかないの」
「は?」

「人間の言う事なんぞ聞いてくれはせんと思うがの~。
じゃから、あれじゃ。ワシの家で一緒に暮らさない?とりあえずこの森から出ない限りは時間はまともな流れじゃし。」
「暮らさねえよ!! てか、お前らはどうしてんだよ! 違う時間軸へ行ったら自分が二人になったりしないのかよ!!」

「ワシら? ワシらは平気よ。あれは部外者に対する仕掛けじゃから。魔族はひっかからんように術を編んでいらっしゃる。ちなみに魔物はお前らとおなじ扱いじゃ。見分けつかんが、同じ個体が同じ時間軸におるかもしれんな~」

「おー。じゃあそれ、オレもうひっかかるな。人間になっちまったから」

 ドッペルの野郎、もといオレがのほほんと言う。
 なんかこいつ既視感あるな。……まあ、オレの魂を使っているんだから当然か。

「魔王はどこにいる」
「え、魔王様に会いに行くつもりか?そもそも会えないと思うぞ」
「それでも行く、場所を教えてくれ、モリヤマ」
「ん~まあ、場所は教えても構わんが……地図くらいは書いてやるか……」

 モリヤマは地図を描いてくれた。ついでにフルーツを少し切って食わせてくれた。
 人間世界で帰れなくなるとか言われてるが、これは大丈夫だ、といって。

「なんもお礼はできないが、サンキュ」
「まあええよ。まさか地球のことを知ってるヤツに会えるとは思わんかったしの」
「……とんにゅら」

「……!!!!!!」
「お、おまえ…それ……」

「オレが育った教会のシスターが地球からの転生者だ。そいつが言ってたらしい」
「う、うおおお…ワシ以外にも…おったのか…地球からの……転生者……うおおおお!!!」

 号泣している。
 ……すこしは礼になっただろうか。

 モリヤマの地図を見て、心の眼を異界に走らせる。
 ……なるほど、あそこか。
 オレの外套の裾をぎゅ、とドッペルが掴む。

「オレも行くぜ」
「お前なんかできんのかよ。ここにいろ」

 下手に死なれて寿命が減ったらプラムが泣く。

「お前ができることは大抵できるぞ、だってオレはお前だし」
 ……まじか。

「……じゃあ『絶対圏』には接続できるのか」

「ああ、これそういう名前の力なんだ」
 オレのツールバッグから力を使ってダガーを1本、空中に浮かせた。

「……なんだと……」

「まあ、それはともかくついて行く。なんだかお前を一人にできない」
 なんだコイツは……いちいち判断に悩むな。
 しかし、『絶対圏』に接続できるなら、置いて行っても付いてきちまうかもしれんな。
 オレはため息をついた。

「裏切るなよ……好きにしろ」
「おう!! オレはオレの味方してやるぞー」
 ホントかよ……。

「ところでお前、記憶はコピーしてるのか? プラムのこととか知らなさそうだけど」
「プラムってなんだ? 記憶は写せなかった。その、胸の銀色の光も。」
 ドッペルはオレの胸元を指さした。

 全てをコピーできるわけではないのか。
 そして、記憶がないから、そんなに純粋そうに見えるのか。
 ……オレは、オレの記憶がなければ、こいつみたいに笑えるのか? ふとそう思った。

「じゃあの~いつかまた会いたいの~」
「モリヤマ、世話になった」
 多分もう来ない。

 そしてオレたちは魔王の拠点へと身体を跳ばした。

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