天使のような子の怪我の手当てをしたら氷の王子に懐かれました

藤吉めぐみ

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 世凪が座り込んでいるのは、人工的に作られた小さな池のようなところだった。深さもなく、水面は世凪の腰ほどだ。周りには、白い石畳が敷かれ、そこから先は芝になっていて、ところどころに低い木が植えられ、鮮やかな花を咲かせている。アニメや漫画で見る西洋の城の中庭のような場所で世凪は呆然としながら、自らの手を見つめた。
「生きて、る……?」
 今の状況が全く飲み込めないが、とりあえず今、世凪は息をしているし、手も正常に動くようだ。とはいえ、ここがプールではない以上、助かったというわけではなさそうだ。これが、天国へ行く前に通る場所というのも考えられるし、ただ夢を見ているだけかもしれない。
「……かあさま?」
 どうしたものかと水の中で座り込んだままでいると、そんな声が聞こえ、世凪が顔を上げる。低い木の陰から小さな男の子が顔を覗かせていた。おそらく幼稚園くらいの子だろう。透き通るような白い肌に、ブロンドの髪は長いのか走ると後ろで束ねられているのが分かる。身に着けた白いシャツにはレースやフリルがついていて、黒いパンツは柔らかな素材のようだが、靴は固いらしい。足元が芝から石畳に変わったところで、彼はつまずいてしまった。世凪が慌てて立ち上がり、地面に伏せてしまった子に近づく。
「大丈夫? 怪我はないかな?」
 世凪が近づき、傍に座り込んで彼の手を取った。その瞬間、男の子は顔を上げてもう一度、かあさま、と口を開いた。
「ごめん、君の『かあさま』ではないけど、足見せてもらえる?」
 つまずいた時に少し捻ったように見えていた。職業柄、怪我は放っておけない。
 男の子が世凪に頷き、その場に座り込む。手やシャツに砂埃はついているが、怪我はないようだ。そのまま靴を脱がし、パンツの裾を少しまくり上げる。やはり、足首が少し赤くなっていた。
「冷やしたほうがいいね。待ってて」
 世凪はそう告げると、さっきの池に戻り、自分のパンツのポケットからハンカチを取り出した。それを水に浸し、男の子の元へ戻る。池の水が随分冷たかったので、きっと冷却効果があるだろうと思ったのだ。男の子の足首にハンカチを巻いてから、世凪はあたりを見渡した。
 ここがどこだかは分からないが、すぐそこに白い壁が見えるので、建物は近くにあるのだろう。そこまで彼を運んで、ついでにここがどこか聞こうか、と思って、男の子に視線を向けた。整った顔立ちだから将来モテるんだろうな、なんて余計な事を思いながら世凪が口を開く。
「誰か……保護者とか大人の人と一緒じゃないの?」
「ほご……? ここ、ぼくの家だから……」
 男の子がたどたどしく言葉にする。家、ということはここが自宅の敷地内ということなのだろう。益々自分がどうしてここに居るのか分からない。
「……まあ、夢ならそういうこともなくはない、か……」
 夢は多分、自分の知識や深層心理で構成されるはずだ。世凪の密かな趣味は、ティーンズラブ漫画を読むことだ。だからこんな突拍子もない、脈絡もないことが起きているのだろう。小さな子が登場したのは、子どもを持ってみたかったという願望が結びついたのかもしれない。だいたい、夢っていつも脈絡はないから、この不思議な状況もなんとなく受け入れられた。
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