4 / 73
1-3
しおりを挟む
「足は痛む? 一人で歩けるかな?」
「……かあさまと一緒がいい」
世凪が男の子の近くにしゃがみ込むと、小さな手が世凪のシャツの袖をぎゅっと掴んだ。その仕草はとても可愛いのだが、世凪はそれに眉を下げた。
一緒と言われても、そもそも彼の『かあさま』ではないし、ここがどこか分からないから、どこに行くこともできない。とはいえ、怪我をしている小さな子を放っておくこともできなかった。
「分かった。じゃあ、一緒に頼れる大人を探しに行こう」
世凪は小さく息を吐いてから、男の子の手を掴んだ。それからその体を抱き上げて立ち上がる。その次の瞬間だった。
「レミウェル様!」
遠くからそんな太い声が響いて世凪が驚いて辺りを見回す。芝の先には、また石畳があり、そこから重たい足音が聞こえてくる。次第に見えたその姿は、銀の鎧を着た男性たちだった。世凪から見えたのは三人ほどで、手には槍のような長細いものを持っている。
これが世凪の夢ならば、ここで彼らにこの男の子を引き渡して、その代わりこの世界から抜け出す方法を教えてもらえるはずだ。世凪の夢なんて、そのくらい都合よく出来ているに違いない。
「あの、この子、怪我をしてて……」
世凪が駆け寄ってきた男たちに声を掛けようとすると、手を離しなさい! と鋭い声が返ってきた。誘拐犯とでも思われてしまったのか。まあ敷地内に知らない男が紛れ込んで、小さな子を抱き上げていたら、警戒したくなるのも分かる。しかも、どうやら彼は、大事に育てられているらしい。大人に『様』と敬称をつけて呼ばれる子どもなんて、それだけいいところのご子息ということだろう。
犯人扱いされても無理はない。
「レミウェル様を離しなさい、従うなら、すぐに命は取らない」
槍の先を目の前に突き出され、世凪が息をのむ。目の前にある切っ先はおもちゃなんかではない、本物の質感だった。触ったら切れそうなそれを避けて、世凪はゆっくりと男の子を地面に下ろした。
「一人で立てる?」
男の子に小さく聞くと、彼が頷く。するとすぐに男の一人が男の子を抱き上げ、同時に別の男が世凪の背中から腕を取った。
「痛っ……! 急に、なんですか!」
振り返ると、男が眉根を寄せて怪訝そうに口を開いた。
「どうやってここに入った?」
「そう言われても……気づいたら、ここにいて……」
どうやって、なんて世凪の方が知りたい。けれど目の前の男たちにそんな世凪の気持ちは届いていないようだった。
「気づいたらレミウェル様を誘拐しようとしていたのか? そんな言い訳通用するか」
「誘拐なんて、そんなつもりないです! ここがどこだかも分からないのに」
絶対に信じてもらえないと思いながらも、とにかくその槍で一突きにされたくなくて、世凪が訴える。夢とはいえ、槍で刺されて起きるのは気分がいいものではない。
「分からない? 大人のように見えるが、迷子なのか? どこから入ったんだ?」
世凪の言葉に嘘を感じなかったのか、鎧を着た男は槍は突きつけたまま、それでも少し口調が優しくなる。
「プールに落ちたと思って……気づいたら、あの池に座ってて……それ以上は分かりません」
世凪が、傍にある池を指さす。青い空が映るその池は小さくて浅いのに、その水はとても澄んでいた。
「もしかして……泉が呼んだ者、か?」
「……かあさまと一緒がいい」
世凪が男の子の近くにしゃがみ込むと、小さな手が世凪のシャツの袖をぎゅっと掴んだ。その仕草はとても可愛いのだが、世凪はそれに眉を下げた。
一緒と言われても、そもそも彼の『かあさま』ではないし、ここがどこか分からないから、どこに行くこともできない。とはいえ、怪我をしている小さな子を放っておくこともできなかった。
「分かった。じゃあ、一緒に頼れる大人を探しに行こう」
世凪は小さく息を吐いてから、男の子の手を掴んだ。それからその体を抱き上げて立ち上がる。その次の瞬間だった。
「レミウェル様!」
遠くからそんな太い声が響いて世凪が驚いて辺りを見回す。芝の先には、また石畳があり、そこから重たい足音が聞こえてくる。次第に見えたその姿は、銀の鎧を着た男性たちだった。世凪から見えたのは三人ほどで、手には槍のような長細いものを持っている。
これが世凪の夢ならば、ここで彼らにこの男の子を引き渡して、その代わりこの世界から抜け出す方法を教えてもらえるはずだ。世凪の夢なんて、そのくらい都合よく出来ているに違いない。
「あの、この子、怪我をしてて……」
世凪が駆け寄ってきた男たちに声を掛けようとすると、手を離しなさい! と鋭い声が返ってきた。誘拐犯とでも思われてしまったのか。まあ敷地内に知らない男が紛れ込んで、小さな子を抱き上げていたら、警戒したくなるのも分かる。しかも、どうやら彼は、大事に育てられているらしい。大人に『様』と敬称をつけて呼ばれる子どもなんて、それだけいいところのご子息ということだろう。
犯人扱いされても無理はない。
「レミウェル様を離しなさい、従うなら、すぐに命は取らない」
槍の先を目の前に突き出され、世凪が息をのむ。目の前にある切っ先はおもちゃなんかではない、本物の質感だった。触ったら切れそうなそれを避けて、世凪はゆっくりと男の子を地面に下ろした。
「一人で立てる?」
男の子に小さく聞くと、彼が頷く。するとすぐに男の一人が男の子を抱き上げ、同時に別の男が世凪の背中から腕を取った。
「痛っ……! 急に、なんですか!」
振り返ると、男が眉根を寄せて怪訝そうに口を開いた。
「どうやってここに入った?」
「そう言われても……気づいたら、ここにいて……」
どうやって、なんて世凪の方が知りたい。けれど目の前の男たちにそんな世凪の気持ちは届いていないようだった。
「気づいたらレミウェル様を誘拐しようとしていたのか? そんな言い訳通用するか」
「誘拐なんて、そんなつもりないです! ここがどこだかも分からないのに」
絶対に信じてもらえないと思いながらも、とにかくその槍で一突きにされたくなくて、世凪が訴える。夢とはいえ、槍で刺されて起きるのは気分がいいものではない。
「分からない? 大人のように見えるが、迷子なのか? どこから入ったんだ?」
世凪の言葉に嘘を感じなかったのか、鎧を着た男は槍は突きつけたまま、それでも少し口調が優しくなる。
「プールに落ちたと思って……気づいたら、あの池に座ってて……それ以上は分かりません」
世凪が、傍にある池を指さす。青い空が映るその池は小さくて浅いのに、その水はとても澄んでいた。
「もしかして……泉が呼んだ者、か?」
126
あなたにおすすめの小説
給餌行為が求愛行動だってなんで誰も教えてくれなかったんだ!
永川さき
BL
魔術教師で平民のマテウス・アージェルは、元教え子で現同僚のアイザック・ウェルズリー子爵と毎日食堂で昼食をともにしている。
ただ、その食事風景は特殊なもので……。
元教え子のスパダリ魔術教師×未亡人で成人した子持ちのおっさん魔術教師
まー様企画の「おっさん受けBL企画」参加作品です。
他サイトにも掲載しています。
勇者になるのを断ったらなぜか敵国の騎士団長に溺愛されました
雪
BL
「勇者様!この国を勝利にお導きください!」
え?勇者って誰のこと?
突如勇者として召喚された俺。
いや、でも勇者ってチート能力持ってるやつのことでしょう?
俺、女神様からそんな能力もらってませんよ?人違いじゃないですか?
【完結】※セーブポイントに入って一汁三菜の夕飯を頂いた勇者くんは体力が全回復します。
きのこいもむし
BL
ある日突然セーブポイントになってしまった自宅のクローゼットからダンジョン攻略中の勇者くんが出てきたので、一汁三菜の夕飯を作って一緒に食べようねみたいなお料理BLです。
自炊に目覚めた独身フリーターのアラサー男子(27)が、セーブポイントの中に入ると体力が全回復するタイプの勇者くん(19)を餌付けしてそれを肴に旨い酒を飲むだけの逆異世界転移もの。
食いしん坊わんこのローグライク系勇者×料理好きのセーブポイント系平凡受けの超ほんわかした感じの話です。
【完結】おじさんダンジョン配信者ですが、S級探索者の騎士を助けたら妙に懐かれてしまいました
大河
BL
世界を変えた「ダンジョン」出現から30年──
かつて一線で活躍した元探索者・レイジ(42)は、今や東京の片隅で地味な初心者向け配信を続ける"おじさん配信者"。安物機材、スポンサーゼロ、視聴者数も控えめ。華やかな人気配信者とは対照的だが、その真摯な解説は密かに「信頼できる初心者向け動画」として評価されていた。
そんな平穏な日常が一変する。ダンジョン中層に災厄級モンスターが突如出現、人気配信パーティが全滅の危機に!迷わず単身で救助に向かうレイジ。絶体絶命のピンチを救ったのは、国家直属のS級騎士・ソウマだった。
冷静沈着、美形かつ最強。誰もが憧れる騎士の青年は、なぜかレイジを見た瞬間に顔を赤らめて……?
若き美貌の騎士×地味なおじさん配信者のバディが織りなす、年の差、立場の差、すべてを越えて始まる予想外の恋の物語。
捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~
水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。
死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!?
「こんなところで寝られるか!」
極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く!
ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。
すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……?
「……貴様、私を堕落させる気か」
(※いいえ、ただ快適に寝たいだけです)
殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。
捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!
《本編 完結 続編 完結》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。
かざみはら まなか
BL
24歳の英雄公爵✕29歳の日本に帰りたい異世界転移した青年
異世界転移してΩになった俺(アラフォーリーマン)、庇護欲高めα騎士に身も心も溶かされる
ヨドミ
BL
もし生まれ変わったら、俺は思う存分甘やかされたい――。
アラフォーリーマン(社畜)である福沢裕介は、通勤途中、事故により異世界へ転移してしまう。
異世界ローリア王国皇太子の花嫁として召喚されたが、転移して早々、【災厄のΩ】と告げられ殺されそうになる。
【災厄のΩ】、それは複数のαを番にすることができるΩのことだった――。
αがハーレムを築くのが常識とされる異世界では、【災厄のΩ】は忌むべき存在。
負の烙印を押された裕介は、間一髪、銀髪のα騎士ジェイドに助けられ、彼の庇護のもと、騎士団施設で居候することに。
「αがΩを守るのは当然だ」とジェイドは裕介の世話を焼くようになって――。
庇護欲高め騎士(α)と甘やかされたいけどプライドが邪魔をして素直になれない中年リーマン(Ω)のすれ違いラブファンタジー。
※Rシーンには♡マークをつけます。
【本編完結】最強魔導騎士は、騎士団長に頭を撫でて欲しい【番外編あり】
ゆらり
BL
帝国の侵略から国境を守る、レゲムアーク皇国第一魔導騎士団の駐屯地に派遣された、新人の魔導騎士ネウクレア。
着任当日に勃発した砲撃防衛戦で、彼は敵の砲撃部隊を単独で壊滅に追いやった。
凄まじい能力を持つ彼を部下として迎え入れた騎士団長セディウスは、研究機関育ちであるネウクレアの独特な言動に戸惑いながらも、全身鎧の下に隠された……どこか歪ではあるが、純粋無垢であどけない姿に触れたことで、彼に対して強い庇護欲を抱いてしまう。
撫でて、抱きしめて、甘やかしたい。
帝国との全面戦争が迫るなか、ネウクレアへの深い想いと、皇国の守護者たる騎士としての責務の間で、セディウスは葛藤する。
独身なのに父性強めな騎士団長×不憫な生い立ちで情緒薄めな甘えたがり魔導騎士+仲が良すぎる副官コンビ。
甘いだけじゃない、骨太文体でお送りする軍記物BL小説です。番外は日常エピソード中心。ややダーク・ファンタジー寄り。
※ぼかしなし、本当の意味で全年齢向け。
★お気に入りやいいね、エールをありがとうございます! お気に召しましたらぜひポチリとお願いします。凄く励みになります!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる