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しおりを挟む「と、いうわけで、僕はここにいます。……ご理解、いただけました、か?」
アドウェルが案内してくれた部屋で着替えとタオルを借りて、ようやく体温を取り戻した世凪は、部屋のソファに座るアドウェルの前に立ったまま、ここまでの経緯を話した。
上手く伝わったか、何か勘違いをされるようなことを話してはいないかと、ドキドキしながら世凪が両手の指をせわしなく絡める。アドウェルはその様子を少し厳しい表情のまま見つめていた。
「……まずはゆっくり体を休めるといい。こちらの話は明日だ」
しばらく黙り込んでいたアドウェルだったが、そう呟くように言うと、すぐに立ち上がった。そしてそのまま部屋を出ていく。残ったのは、一人のスーツ姿の男性だった。おそらくこの家……いや城の使用人なのだろう。
「こちらのお部屋は世凪様のお部屋です。ご自由にお使いください。何かご用があればベルを鳴らしてください」
そう言われ、改めて世凪は部屋を眺めた。
さっきアドウェルが座っていたソファの前には石天板のテーブルがあり、小さなリビングのようだった。そこから振り返ると、大きな天蓋付きのベッドが鎮座している。泊ったことはないのだが、ホテルのスイートルームのような作りになっているのだろう。世凪が着替えをしたのも部屋についているバスルームだった。
「まさに夢って感じだな……」
確かに時々動画を見ていたら流れてくる広告を見て、こんなところに泊ってみたいなとは思っていた。今日の世凪の夢は、次々にやりたいことを叶えていく仕様なのかもしれない。
「世凪様?」
「あ、はい。大丈夫です。です、けど……あの、僕、王子様のこと、怒らせましたか、ね?」
事情を全て信じたというわけでもなく、全く信じないという態度でもなかった。ただ、その表情から喜怒哀楽が読めなくて不安だった。
「アドウェル様は……元々、表情をあまり変える方ではありません。きっと、世凪様のお話をきちんと聞いていかれたと思いますよ。聡明な方なので、不確かな発言を避けて、一晩精査するおつもりなのでしょう」
「そう、ですか……」
それが本当のことなのか、この男性に庇われているのかは分からないけれど、自分にできることはきっとやりつくしたのだろう。あとは、アドウェルの判断を待つしかない。
「とはいえ……『氷の王子』と呼ばれているくらい、本当に冷静な、時に冷酷な判断をされる方です。それで、あの方の縁談もこれまで全て破談になっていて……」
はあ、とため息を吐く様子を見ると、破談になったことは一度や二度ではないのだろう。けれどそれは、この男性の言葉を信じるのなら、王子の冷静な判断からの結果なのだろう。
「……王子様は、まだお若いように見えましたが……」
「二十一歳になられます。ですから、そろそろ正室くらいは持っていただきたいのです」
どうやらこの国では結婚する年齢が世凪の常識よりも早いようだ。二十五歳の世凪なんて、もしかしたらこの国では余りもの扱いを受けるのかもしれない。
自分の夢なのにそんな設定にしているなんて、追い込まれたい願望でもあるのだろうか。確かに、そういうマイノリティな立場から逆転していくドラマチックな話は好きだが、それは夢ではなくてできれば漫画で見たい。
「すみません、お客様に話すことではないですね。では、これで下がらせていただきます。ごゆっくりおやすみください」
世凪が黙ったので答えにくい話をしてしまったとでも思ったのだろう。男性がそそくさと告げ、頭を下げて部屋を出ていく。世凪もそれに頭を下げ、彼を見送った。それからそっと大きなベッドに視線を向ける。そこで世凪はいつかやってみたかったことを思い出した。
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