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しおりを挟む「夢、だからいいよね……」
世凪がぐっと脚に力を入れ、思い切り床を蹴った。絨毯敷なのでとても走りやすいのに足音が響かない。世凪はそのまま大きく床を蹴ってベッドへと飛び込んだ――と同時に、部屋のドアが開く音がして、世凪はベッドのスプリングで自身の体を跳ねさせながら驚いて振り返った。
そこに立っていたのは、アドウェルだった。
さっきは眉ひとつ動かさずにいたのに、今は目を見開いてとても驚いた顔をしている。
「お、うじ、様……こ、れは……」
ベッドは相当柔らかいらしく、まだトランポリンのようにふわふわと揺れながら世凪が慌てて正座をする。借り物のベッドの上で跳ねるなんて、幼児ではないか、と一瞬前の自分を叱りながら眉を下げアドウェルを見ると、ふ、と空気の漏れる音が聞こえたかと思ったら、すぐに彼から笑い声が響いた。
「ははは、随分跳ねたな」
天井に届くのかと思った、とまた笑い出す。
世凪は初めてアドウェルの感情のある顔を見て、少し呆然としていた。眉ひとつ動かない人形のような整った顔も漫画のヒーローみたいで素敵だが、笑った顔の方が何倍も魅力的だと思ったのだ。
けれどそんなことに気を取られている場合ではない。
「すみません、人様のお宅で、こんなこと……」
「気にするな。久々に笑わせてもらったから、見なかったことに……はできないな」
さっきの世凪の姿を思い出したのか、再びくすくすとアドウェルが笑い出す。あまり笑われるとこちらも恥ずかしくなってきてしまい、世凪は落ち着きなく下を向いた。手の甲まで赤くなっているのは恥ずかしさからか、王子の笑顔に惹かれたからなのか分からないが、とにかく心臓はドキドキしているし、体温が上がっている。まともにアドウェルの顔が見られないままでいると、世凪、と呼ばれ、ゆっくりと顔を上げる。アドウェルがゆったりとした仕草で世凪のいるベッドの端に腰かけた。
「名乗らずにいたと思い出して……アドウェル・ドーヴェルジュだ。父……国王から世凪について任された。何かあれば、俺を頼ってほしい」
わざわざ名乗るために戻ってきてくれたらしい。さっき衛兵から聞いたこの人の位は王子だった。しかも第二王子といえば、この国でもかなり位の高い人物になるだろう。そんな人が身元も怪しい突然現れた人物にこうして名乗りに来てくれたなんて、とても律儀な性格なのだろうと思った。
「ありがとうございます……」
「それと、弟の怪我の手当をしてくれたらしいな。幸いレミの怪我も悪化せずに済んでいた。そのことについても礼を言う。後日、本人からもお礼をさせるから」
アドウェルが軽く頭を下げる。世凪が慌てて、大丈夫です、と告げた。
「僕の、仕事みたいなものですから……放っておけなくて。僕こそすみません、あの子に触れてはいけないなんて、知らなくて」
世凪がアドウェルよりも深く頭を下げると、ふと肩に手を置かれ、ゆっくりと顔を上げた。とても近くにその顔がある。青い空を閉じ込めたビー玉のようなキラキラした瞳がとてもキレイだった。
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