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しおりを挟む「気にするな。俺も、世凪の判断が正しいと思っている。あんな牢に入れるようなことではない……もう、体は冷えていないか?」
アドウェルが世凪の肩から頬へと手を移す。世凪よりもアドウェルの指の方が冷たかった。
「僕より王子の方が冷たいみたいです」
世凪がアドウェルの手を取り、両手で温めるように握る。そうしてから、これも不敬罪になるのかもしれないと思い、あ、と声にしてアドウェルを見つめた。その顔がまた可笑しそうに笑い出す。
「そんな不安そうな顔をしなくていい。ここに咎める者はいないから安心しろ。それから……」
アドウェルがそこで言葉を一度切り、世凪の手を握った。
「よければ、『アド』と呼んで欲しい。王子と呼ぶと五人振り返るぞ」
アドウェルが少し眉を下げ小さく笑う。ここにアドウェルと同じ立場の方が他に四人もいるということだろう。世凪が頷くと、ゆっくりと名残惜しそうにアドウェルの長い指が世凪から離れる。
「……明日、また来る。今日はゆっくり休むといい……ベッドで跳ねるのはほどほどに」
ふ、と笑って立ち上がったアドウェルを見て、世凪の心臓がドキリと跳ねる。かあっと体温が上がる感覚を肌に感じながら世凪はアドウェルを見上げた。
「もうしませんから、あまりそのネタ擦らないでください……」
「ネタ? ああ、何度も話すなということか。それは約束できないな」
「アドウェル様……」
なんだか楽しそうな顔をするアドウェルに、眉を下げて世凪がその名を呼ぶ。ちょっとした出来心で飛び込んだだけなのにこんなことになるなんて、とため息を吐く。夢の中でもこんなに責められるなんて、実は自分の中にそんな願望でもあるのだろうか。
「アド、だ」
「アド、王子……で許してください」
強く返されたが、『王子』と聞かされてそのまま呼び捨てになんかできない。世凪が妥協案を提示するとアドウェルは少しだけ視線を逸らし黙ってから、まあいいか、と頷いた。
「おやすみ、世凪」
優しい言葉を置くと、アドウェルがそのまま部屋を出ていった。
それをベッドに座ったまま見送った世凪が、ふわっと重力に任せるようにベッドにあお向ける。
「僕の夢、妙にリアルすぎない……?」
確かに人一倍漫画を読んでいるし、王子様のようなイケメンヒーローやロマンチックな恋に憧れている。だからといって自分がヒロインになりたいと思ったことはなかった。
でも、今世凪の心臓はまだアドウェルとのやり取りの余韻にドキドキとせわしなく鼓動している。どんな名作を読んでもここまで胸が震えたことはない。
「実写版ガチ恋勢の気持ちがちょっとわかったかも……」
紙でも画面でもない、そこに居る王子様というものの破壊力は半端ないな、と世凪が大きく息を吐く。
「でも、これもきっとここまで、だな……」
体が重く、とても眠い。夢の中で眠るということはきっと現実の自分が起きるということだろう。とりあえずプールから脱出していたらいいな、と思いながら世凪は柔らかなベッドに手を引かれるようにまぶたを閉じた。
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