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しおりを挟む起きたらプールサイド、または病院か、最悪天国かなと思っていた世凪だが、目覚めた場所は予想に反して、昨日と同じベッドの上だった。しかも、ここ数年で一番すっきりと目覚めている。質のいいベッドで眠ったからか、なんて思いながら世凪が体を起こすと、ドアを叩く音が響いた。思わず、はい、と答えると静かに部屋のドアが開く。おはようございます、昨日の男性が部屋に入ってきた。
「お召し替えのお手伝いをさせていただきますね」
男性がこちらに近づき世凪のいるベッドの上に白い布を広げた。シルクのシャツのようだ。男性の手がこちらに伸びたところで、世凪はその手を掴んだ。
「大丈夫です、一人で着替えられます、ので……」
ベッドの上の服は特に着替えが難しいものではなさそうだ。そもそも成人男性が着替えの手伝いなんか、される方が恥ずかしい。
「ですが……」
男性が困ったように眉を下げた、その時、ノックの音と共にドアが開き、今度はアドウェルが部屋に入ってきた。すぐに彼と目が合う。
「あ、アド王子……おはようございます」
世凪が男性の手を掴んだまま朝の挨拶をする。しかしアドウェルはそれに言葉を返すことなくこちらに近づき、男性に向き合った。
「さがりなさい。あとは俺がやる」
「やるって……アドウェル様にそんなこと……」
「同じことは二度も言わない」
低い声で告げられた男性は、世凪の手から即座に腕を抜いて、アドウェルの鋭い視線に射貫かれながら、そそくさと部屋を出ていった。それに関してはほっとしたのだが、今この部屋の空気は、アドウェルを中心に凍り付きそうになっている。機嫌が悪いのか怒っているのか、とにかく昨日あんなに大笑いしたアドウェルとは別人だった。まさにこれが『氷の王子』なのだろう。
「怪我はないか、世凪。何か、意に沿わないことでもされたか?」
そんなアドウェルがこちらに視線を戻した途端、空気が溶けたようにその温度を取り戻す。世凪はアドウェルを見上げ、大丈夫です、と微笑んだ。
「しかし、世凪は、あの者の手を拒んでいるように見えた」
アドウェルがベッドの端に腰かけ、眉を下げて世凪を見つめる。心配だと顔に書いてあるような表情を見て、世凪が少し困った顔を見せた。
「子どもじゃないので、着替えの手伝いを断っただけです。少なくとも、僕の常識の中では、健康な成人男性はひとりで着替えるのが一般的です」
「なるほど……だったら、俺の手も必要ないか? このシャツはボタンが背中側にあるのだが」
アドウェルに言われ、ベッドの上のシャツを手に取る。広げると、たしかに後ろにボタンがあるデザインのものだった。これは確かに助けが要るかもしれない。
「……次からは、簡単に着られるシャツを用意してくださると助かります……」
「仕立屋に伝えておこう。ほら、着替えるならベッドから降りて」
アドウェルがベッドから立ち上がりこちらに手を差し出す。この状況でその手を拒むのも少し大人げないような気がして、世凪は素直にその手を借りてベッドから降りる。
アドウェルの手は昨日と同じで冷たいのに、世凪の体温は掴まれた指の先から少しずつ上がっていくように感じた。
この夢の中で唯一自分に優しくしてくれたからだろうか。それとも漫画の中のヒーローのようだからだろうか。とにかくアドウェルといると、世凪はなんだか落ち着かない気分になる。
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