天使のような子の怪我の手当てをしたら氷の王子に懐かれました

藤吉めぐみ

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「今着てるシャツを脱いで……と、言いたいところだが、できるところまでは自分で着てもらえるか。俺は、こっちで待っている」
 アドウェルが世凪に着替えを持たせてから部屋のソファに腰掛ける。こちらに背を向けて配置されいるので、当然アドウェルの視線も向こうの壁に向いていた。男同士だから特に見られることに抵抗はないのだが、アドウェルの方がこんな男の体を見てもつまらないのだろう。見て欲しいわけでもないので、世凪は言われるがままに着替えを進め、シャツの背中のボタンだけを残してアドウェルに声をかけた。
「あの、アド王子……ボタン、お願いしてもいいですか?」
 世凪がアドウェルの傍に近づくと、アドウェルがこちらを見上げた。シャツがずり落ちないように手で押さえていたが、どうしても肩が出てしまう。王子になんて無様な姿を見せてるのだろう、と恥ずかしくなるが、これもまた自分の深層心理なのだろうかと思う。
 羞恥で興奮するようなタイプではなかったと思うのだが、夢にこうして出てきてしまっている以上、そういう癖も持っているのかもしれない。
「もちろんだ。むこうを向いて」
 立ち上がったアドウェルに言われ、世凪が背中を向ける。背中の下半分ほどは自分で留められたのだが、上の方は手が届かず自分では留められなかった。
「世凪は肌がきれいだな」
 するりとシャツに触れたアドウェルが呟くように告げる。その言葉で、今自分の肌が見られているのだと分かり、世凪の心臓がドキドキと鼓動を速める。さっきは男同士なんだから、なんて思っていたがこうやって全て見られていたら心臓が仕事をし過ぎて倒れていたかもしれない。
「そ、そうでしょう、か……女性に比べたら、僕なんて岩肌みたいなものでしょう」
 きっと『王子』という立場なのだろうから、それなりに女性との経験は積んでいるはずだ。だってまずこの美貌だ、虫だって恋をしてしまうだろう。
「さあ……比べるような記憶がないし、この国に性別の概念はないから」
「概念がない、とは?」
 世凪が驚いて振り返ろうとすると、まだだ、と肩に手を置かれた。長い指がちらりと見え、世凪は黙って体の向きを戻す。
「もちろん、男女の差はあるがそれは姿かたちの話で、必ずしも異性と恋をするとは限らない」
「でも、それだと国は途絶えてしまうんじゃないですか?」
 確かに世凪も恋愛は自由だと思っているが、生物学的に男女でなければ子は成せない。医学が発展すれば何か方法も出てくるのだろうが、自然に命を繋ぐことは同性同士では無理な話だ。
「魔法使いの洗礼を受ければ、同性同士でも子どもを作ることは可能だ」
 その言葉を聞いて世凪は思わず、え、と振り返ってしまった。まだボタンを留め切っていなかったのか、アドウェルが怪訝な顔をしたが、世凪はその表情に問いかけた。
「魔法使いってことは、魔法が存在するってことですか……?」
「数は少ないが、居る。世凪がいた世界にはないのか?」
 世凪はアドウェルの問いかけに頷きながら、心の中でため息を吐いた。
 自分はもっと現実的な思考を持っていると思っていたのに、夢とはいえ魔法だなんてチートアイテムを持って来るとは、やっぱり心のずっと奥では『魔法があれば楽なのに』なんて思っていたのかもしれない。世凪は授業をしない先生だから試験問題や授業の資料を作る仕事は少ないが、その分校内の雑用を任されがちだし、実は校外での仕事も割とあって、そこそこ忙しいのだ。たまにどこでも行けるピンクのドアがあればいいのに、と思うこともあったし、そういう気持ちが反映されてしまってるのかもしれない。
「魔法使いにもそのうち会うことになるだろう。今はまだ、休んでいていい」
 世凪が自身に呆れている様子を見て、何か不安を感じたと思ったのか、アドウェルが優しく言い、世凪の肩に両腕を廻す。体の距離がぐっと近くなって世凪がぎゅっと目を瞑ると、ふわりと抱きしめられるように背中に腕を廻され、しばらくするとゆっくりと離された。
「これで全てのボタンが留められた……このシャツも似合っている」
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