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しおりを挟むふわふわと心地いい何かに包まれる感覚に、世凪がゆっくりと目を覚ました。
自分はさっきまでようやくお城らしい食事にありついて、王子から褒められて、夢の中最高と思えるところに居たはずなのに、気づくと辺りは暗くなっていた。
「ここ……ベッド……?」
薄いカーテンが下ろされたベッドの向こうには、常夜灯代わりのランタンの明かりが揺らめいている。まだ夢の中なのか、と思い、世凪が体を起こそうとした、その時だった。
「目を覚ましたか? 世凪」
そんな声が近くからして、世凪が驚いてベッドの反対側を向く。すると、ベッドに腰かけ、本を開いているアドウェルがいた。
驚いて世凪が飛び起きる。けれど鈍器で内側から叩かれたような強い頭痛がして、世凪はそのまま体を前に倒すようにうずくまった。
「まだ深夜だが、二日酔いというものだろうな。大人しく横になれ」
アドウェルに言われ、すごすごと世凪は体を横にする。それからアドウェルを見上げ、首を傾げた。
「深夜……? 僕は、どうして、ここに……」
「俺と食事をしていたのは覚えているな? その後、ワインを飲みすぎたのか、テーブルに突っ伏して眠ったのは覚えているか?」
「……全く、記憶にございません……」
悪い大人が使いそうな言葉を告げ、世凪が大きく息を吐く。その息からアルコールの匂いがして、酔い潰れたのだと分かった。自分でも酒に弱いと分かっていたのに、アドウェルとの食事に緊張して飲みすぎたのだろう。
「そうだろうな」
言いながら、アドウェルがくすくすと笑い出す。そのくらい、自分はぐっすりと眠ってしまっていたのだろう。確かに記憶がないのだからその通りなのだ。
「ベッドに運んだが、少し心配で付いていた。大事ないようで安心したよ」
「本当に、すみません……」
横になったままで無礼だとは思ったが、動けないのでせめて言葉だけでも謝る。アドウェルは、構わない、と口の端を引き上げた。
「薄明りの中で見る世凪の寝顔は、絵画を眺めているようで飽きなかった」
「……よだれとか垂れてなかったですか?」
「いや。まあ、たとえそうだったとしても、それもまた可愛らしいのだろうな」
見上げたアドウェルの顔は優しくて、それこそ絵画の中の天使のようだった。キレイな造形の中に男らしさが見えて、夜の力も借りてとても妖艶に見える。まだアルコールが体に残っているのか、世凪の胸がドキドキとする。
「アド王子は、面倒見がいいのですね。僕のことなど、こんなに構う必要はないのに」
弟のことも溺愛しているようだったから、きっとそういう性分なのだろうと思った。この整った顔と短い言葉のせいで冷たいと思われているようだが、本当は優しい人なのだろう。
「そんなことはない。俺がなんと呼ばれているか、もう聞いてるのだろう?」
『氷の王子』――そんな異名をとるほど、普段は冷たいということなのだろう。ただ、世凪にはそう思えなかった。
「外側から見た人たちの話すことが真実かなんて分かりません。僕が、アド王子のことを優しいと感じたのなら、僕にとってのあなたは優しい人なんです」
「では、世凪の中の俺が崩れないようにしなきゃいけないな」
小さく笑ったアドウェルが世凪の前髪をさらりと梳く。それから額に唇を寄せて、ゆっくりとベッドを降りた。
「おやすみ、世凪。よい夢を」
穏やかな声でささやかれ、世凪は目を見開いたままアドウェルが部屋を出ていくまで何も出来なかった。本当に、呼吸すらも止まっていた。
「な、今の……キス……?」
子どもにするような額へのものだったけれど、間違いなく自分の肌にアドウェルの唇が触れた。
自分がまさか体験することになるとは思っていなかったけれど、漫画で読んでは悶えていた憧れの王子様のキスだ。
「もうきっと、これがいい夢だよ……」
こんな気持ちのまま現実に帰れたら幸せだなと思いながら、世凪はゆっくりと目を閉じた。
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