天使のような子の怪我の手当てをしたら氷の王子に懐かれました

藤吉めぐみ

文字の大きさ
17 / 73

5-1

しおりを挟む

「かあさま! また会えて嬉しいです!」
 翌日の朝、アドウェルと一緒に世凪の部屋へと駆け込んできたのは、レミウェルだった。そのまま世凪の脚に抱きつくと、こちらを見上げ微笑む。
 愛らしい天使の笑顔に世凪の心臓が撃ち抜かれた。本当に可愛すぎる。
「かあさまではないけど、僕もまたお会いできて光栄ですよ、レミウェル様」
 世凪がしゃがみ込み、レミウェルと同じ目線になる。すると、レミウェルの頬がぷう、と膨らんで、違う、と不機嫌にこちらを見つめた。
「レミって呼んで欲しいです。かあさまなのだから、様なんて付けないで」
「しかし……」
 レミウェルの要求に、世凪は少し困って顔を上げた。すぐそこにアドウェルがいる。彼に助けを求めるように視線を向けると、いいんじゃないか、と口を開いた。
「この城でレミに逆らえる者はいないし、俺をはじめ、これだけの証人がいるのだから、世凪が勝手に『レミ』と呼んだなどという話にはならないだろう。安心していい、もう不敬罪になんてならないから」
 確かにもうあの牢のような場所に入るのは嫌だし、命の終わらせ方の選択をさせられるのももう体験したくない。
「……分かりました。じゃあ、レミ。君も僕に敬語はなしだよ。あと、僕は君のかあさまではないから、世凪、と呼んで」
 世凪がレミウェルに向かって告げると、彼の眉が下がる。それから、だって、とその小さな唇を開いた。
「ぼくのかあさまも『縁の泉』から来たって聞いていたから、かあさまが戻ってきたのかと……」
 レミウェルの言葉が理解できず、世凪はアドウェルに顔を向けた。アドウェルがそんな世凪の視線に眉を下げる。
「レミ、それは後で俺が世凪に説明しておく。世凪は俺たちの母親ではないんだが……レミが世凪を『かあさま』と呼びたいなら、咎めない」
 アドウェルがしゃがみ込み、レミウェルの目をまっすぐ見つめる。青い瞳同士が見つめあう姿は、とても似ていて、やはり兄弟なのだなと思った。
「分かりました、アド兄さま。世凪、でも……かあさまって呼んでもいい?」
 レミウェルがアドウェルの服の端を掴みながら世凪を見つめる。このかわいらしさの暴力の前で、嫌だと言える人がいたら会ってみたい。
 当然世凪はその言葉に頷いた。
「分かったうえでそう呼びたいのであれば、もちろん」
「ありがと、かあさま!」
 こんな可愛らしい子に毎日『かあさま』などと呼ばれたら母性が目覚めてしまうかもしれないな、なんて思いながらレミウェルを見つめていると、隣にいたアドウェルが、食事にしようか、と立ち上がった。
 今日からはレミウェルと共に新しいメニューで食事をしてもらうのだった、と思い出し、そうですね、と世凪も立ち上がる。
 レミウェルと会話をしている間に食卓は既に整っていた。そこには野菜のスープにサラダ、ハムを挟んだパンとフルーツが並んでいる。昨日の朝の赤茶色の食卓とは見違えるほどカラフルだ。
「うわあ……絵本に出てくるご飯みたい」
 食卓についたレミウェルが目を輝かせ、嬉しそうな顔をする。ちょっと涙ぐみそうになったが、世凪はそんなレミウェルに、食べられそう? と尋ねた。これまで肉の塊とパンだけの食事をしていたのなら、野菜に抵抗があるかもしれないと思ったのだ。
「美味しそう!」
 その言葉と笑顔にほっとして、世凪も食卓につく。向かいにはアドウェルも座っていた。
 めちゃくちゃなイケメンと、天使のように可愛らしい子。そんな二人と食卓を囲むなんて、やっぱりこれは世凪が作り出した夢なのだろう。こんなに長い夢を見ることはなかったから少し不思議ではあるが、もしかしたら死ぬ前に神様がくれた最後のギフトなのかもしれない。
 そんなことを思いながら食事をしていたからだろう。うっかり水の入ったグラスを倒してしまった。
「あ、」
 そのグラスを捉えようと手を伸ばし、それを掴んだが、華奢なグラスは世凪の手の中で割れてしまった。結局水も零れ、グラスまで破壊してしまったことに世凪が少し焦る。
「ごめんなさい、このグラス絶対高いヤツですよね……掴んだだけで割れるとか……」
 丁寧に扱うことが前提の食器なのだろう。がさつな自分が使うようなものではないのかもしれない。
 はあ、とため息を吐いた世凪の腕が、突然誰かに掴まれた。そのまま引かれ、世凪は驚いて立ち上がる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

《本編 完結 続編 完結》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。

かざみはら まなか
BL
24歳の英雄公爵✕29歳の日本に帰りたい異世界転移した青年

転生先のぽっちゃり王子はただいま謹慎中につき各位ご配慮ねがいます!

梅村香子
BL
バカ王子の名をほしいままにしていたロベルティア王国のぽっちゃり王子テオドール。 あまりのわがままぶりに父王にとうとう激怒され、城の裏手にある館で謹慎していたある日。 突然、全く違う世界の日本人の記憶が自身の中に現れてしまった。 何が何だか分からないけど、どうやらそれは前世の自分の記憶のようで……? 人格も二人分が混ざり合い、不思議な現象に戸惑うも、一つだけ確かなことがある。 僕って最低最悪な王子じゃん!? このままだと、破滅的未来しか残ってないし! 心を入れ替えてダイエットに勉強にと忙しい王子に、何やらきな臭い陰謀の影が見えはじめ――!? これはもう、謹慎前にののしりまくって拒絶した専属護衛騎士に守ってもらうしかないじゃない!? 前世の記憶がよみがえった横暴王子の危機一髪な人生やりなおしストーリー! 騎士×王子の王道カップリングでお送りします。 第9回BL小説大賞の奨励賞をいただきました。 本当にありがとうございます!! ※本作に20歳未満の飲酒シーンが含まれます。作中の世界では飲酒可能年齢であるという設定で描写しております。実際の20歳未満による飲酒を推奨・容認する意図は全くありません。

勇者になるのを断ったらなぜか敵国の騎士団長に溺愛されました

BL
「勇者様!この国を勝利にお導きください!」 え?勇者って誰のこと? 突如勇者として召喚された俺。 いや、でも勇者ってチート能力持ってるやつのことでしょう? 俺、女神様からそんな能力もらってませんよ?人違いじゃないですか?

処刑エンドの悪役公爵、隠居したいのに溺愛されてます

ひなた翠
BL
目が覚めたら、やり込んだBLゲームの悪役公爵になっていた。 しかも手には鞭。目の前には涙を浮かべた美少年。 ——このままじゃ、王太子に処刑される。 前世は冴えない社畜サラリーマン。今世は冷徹な美貌を持つ高位貴族のアルファ。 中身と外見の落差に戸惑う暇もなく、エリオットは処刑回避のための「隠居計画」を立てる。 囚われのオメガ・レオンを王太子カイルに引き渡し、爵位も領地も全部手放して、ひっそり消える——はずだった。 ところが動くほど状況は悪化していく。 レオンを自由にしようとすれば「傍にいたい」と縋りつかれ、 カイルに会えば「お前の匂いは甘い」と迫られ、 隠居を申し出れば「逃げるな」と退路を塞がれる。 しかもなぜか、子供の頃から飲んでいた「ビタミン剤」を忘れるたび、身体がおかしくなる。 周囲のアルファたちの視線が絡みつき、カイルの目の色が変わり—— 自分でも知らなかった秘密が暴かれたとき、逃げ場はもう、どこにもなかった。 誰にも愛されなかった男が、異世界で「本当の自分」を知り、運命の番と出会う—— ギャップ萌え×じれったさ×匂いフェチ全開の、オメガバース転生BL。

異世界で王子様な先輩に溺愛されちゃってます

野良猫のらん
BL
手違いで異世界に召喚されてしまったマコトは、元の世界に戻ることもできず異世界で就職した。 得た職は冒険者ギルドの職員だった。 金髪翠眼でチャラい先輩フェリックスに苦手意識を抱くが、元の世界でマコトを散々に扱ったブラック企業の上司とは違い、彼は優しく接してくれた。 マコトはフェリックスを先輩と呼び慕うようになり、お昼を食べるにも何をするにも一緒に行動するようになった。 夜はオススメの飲食店を紹介してもらって一緒に食べにいき、お祭りにも一緒にいき、秋になったらハイキングを……ってあれ、これデートじゃない!? しかもしかも先輩は、実は王子様で……。 以前投稿した『冒険者ギルドで働いてたら親切な先輩に恋しちゃいました』の長編バージョンです。

【完結】異世界転移で落ちて来たイケメンからいきなり嫁認定された件

りゆき
BL
俺の部屋の天井から降って来た超絶美形の男。 そいつはいきなり俺の唇を奪った。 その男いわく俺は『運命の相手』なのだと。 いや、意味分からんわ!! どうやら異世界からやって来たイケメン。 元の世界に戻るには運命の相手と結ばれないといけないらしい。 そんなこと俺には関係ねー!!と、思っていたのに… 平凡サラリーマンだった俺の人生、異世界人への嫁入りに!? そんなことある!?俺は男ですが!? イケメンたちとのわちゃわちゃに巻き込まれ、愛やら嫉妬やら友情やら…平凡生活からの一転!? スパダリ超絶美形×平凡サラリーマンとの嫁入りラブコメ!! メインの二人以外に、 ・腹黒×俺様 ・ワンコ×ツンデレインテリ眼鏡 が登場予定。 ※R18シーンに印は入れていないのでお気をつけください。 ※前半は日本舞台、後半は異世界が舞台になります。 ※こちらの作品はムーンライトノベルズにも掲載中。 ※完結保証。 ※ムーンさん用に一話あたりの文字数が多いため分割して掲載。 初日のみ4話、毎日6話更新します。 本編56話×分割2話+おまけの1話、合計113話。

魔王に転生したら幼馴染が勇者になって僕を倒しに来ました。

なつか
BL
ある日、目を開けると魔王になっていた。 この世界の魔王は必ずいつか勇者に倒されるらしい。でも、争いごとは嫌いだし、平和に暮らしたい! そう思って魔界作りをがんばっていたのに、突然やってきた勇者にあっさりと敗北。 死ぬ直前に過去を思い出して、勇者が大好きだった幼馴染だったことに気が付いたけど、もうどうしようもない。 次、生まれ変わるとしたらもう魔王は嫌だな、と思いながら再び目を覚ますと、なぜかベッドにつながれていた――。 6話完結の短編です。前半は受けの魔王視点。後半は攻めの勇者視点。 性描写は最終話のみに入ります。 ※注意 ・攻めは過去に女性と関係を持っていますが、詳細な描写はありません。 ・多少の流血表現があるため、「残酷な描写あり」タグを保険としてつけています。

異世界転移してΩになった俺(アラフォーリーマン)、庇護欲高めα騎士に身も心も溶かされる

ヨドミ
BL
もし生まれ変わったら、俺は思う存分甘やかされたい――。 アラフォーリーマン(社畜)である福沢裕介は、通勤途中、事故により異世界へ転移してしまう。 異世界ローリア王国皇太子の花嫁として召喚されたが、転移して早々、【災厄のΩ】と告げられ殺されそうになる。 【災厄のΩ】、それは複数のαを番にすることができるΩのことだった――。 αがハーレムを築くのが常識とされる異世界では、【災厄のΩ】は忌むべき存在。 負の烙印を押された裕介は、間一髪、銀髪のα騎士ジェイドに助けられ、彼の庇護のもと、騎士団施設で居候することに。 「αがΩを守るのは当然だ」とジェイドは裕介の世話を焼くようになって――。 庇護欲高め騎士(α)と甘やかされたいけどプライドが邪魔をして素直になれない中年リーマン(Ω)のすれ違いラブファンタジー。 ※Rシーンには♡マークをつけます。

処理中です...