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しおりを挟む「かあさま! また会えて嬉しいです!」
翌日の朝、アドウェルと一緒に世凪の部屋へと駆け込んできたのは、レミウェルだった。そのまま世凪の脚に抱きつくと、こちらを見上げ微笑む。
愛らしい天使の笑顔に世凪の心臓が撃ち抜かれた。本当に可愛すぎる。
「かあさまではないけど、僕もまたお会いできて光栄ですよ、レミウェル様」
世凪がしゃがみ込み、レミウェルと同じ目線になる。すると、レミウェルの頬がぷう、と膨らんで、違う、と不機嫌にこちらを見つめた。
「レミって呼んで欲しいです。かあさまなのだから、様なんて付けないで」
「しかし……」
レミウェルの要求に、世凪は少し困って顔を上げた。すぐそこにアドウェルがいる。彼に助けを求めるように視線を向けると、いいんじゃないか、と口を開いた。
「この城でレミに逆らえる者はいないし、俺をはじめ、これだけの証人がいるのだから、世凪が勝手に『レミ』と呼んだなどという話にはならないだろう。安心していい、もう不敬罪になんてならないから」
確かにもうあの牢のような場所に入るのは嫌だし、命の終わらせ方の選択をさせられるのももう体験したくない。
「……分かりました。じゃあ、レミ。君も僕に敬語はなしだよ。あと、僕は君のかあさまではないから、世凪、と呼んで」
世凪がレミウェルに向かって告げると、彼の眉が下がる。それから、だって、とその小さな唇を開いた。
「ぼくのかあさまも『縁の泉』から来たって聞いていたから、かあさまが戻ってきたのかと……」
レミウェルの言葉が理解できず、世凪はアドウェルに顔を向けた。アドウェルがそんな世凪の視線に眉を下げる。
「レミ、それは後で俺が世凪に説明しておく。世凪は俺たちの母親ではないんだが……レミが世凪を『かあさま』と呼びたいなら、咎めない」
アドウェルがしゃがみ込み、レミウェルの目をまっすぐ見つめる。青い瞳同士が見つめあう姿は、とても似ていて、やはり兄弟なのだなと思った。
「分かりました、アド兄さま。世凪、でも……かあさまって呼んでもいい?」
レミウェルがアドウェルの服の端を掴みながら世凪を見つめる。このかわいらしさの暴力の前で、嫌だと言える人がいたら会ってみたい。
当然世凪はその言葉に頷いた。
「分かったうえでそう呼びたいのであれば、もちろん」
「ありがと、かあさま!」
こんな可愛らしい子に毎日『かあさま』などと呼ばれたら母性が目覚めてしまうかもしれないな、なんて思いながらレミウェルを見つめていると、隣にいたアドウェルが、食事にしようか、と立ち上がった。
今日からはレミウェルと共に新しいメニューで食事をしてもらうのだった、と思い出し、そうですね、と世凪も立ち上がる。
レミウェルと会話をしている間に食卓は既に整っていた。そこには野菜のスープにサラダ、ハムを挟んだパンとフルーツが並んでいる。昨日の朝の赤茶色の食卓とは見違えるほどカラフルだ。
「うわあ……絵本に出てくるご飯みたい」
食卓についたレミウェルが目を輝かせ、嬉しそうな顔をする。ちょっと涙ぐみそうになったが、世凪はそんなレミウェルに、食べられそう? と尋ねた。これまで肉の塊とパンだけの食事をしていたのなら、野菜に抵抗があるかもしれないと思ったのだ。
「美味しそう!」
その言葉と笑顔にほっとして、世凪も食卓につく。向かいにはアドウェルも座っていた。
めちゃくちゃなイケメンと、天使のように可愛らしい子。そんな二人と食卓を囲むなんて、やっぱりこれは世凪が作り出した夢なのだろう。こんなに長い夢を見ることはなかったから少し不思議ではあるが、もしかしたら死ぬ前に神様がくれた最後のギフトなのかもしれない。
そんなことを思いながら食事をしていたからだろう。うっかり水の入ったグラスを倒してしまった。
「あ、」
そのグラスを捉えようと手を伸ばし、それを掴んだが、華奢なグラスは世凪の手の中で割れてしまった。結局水も零れ、グラスまで破壊してしまったことに世凪が少し焦る。
「ごめんなさい、このグラス絶対高いヤツですよね……掴んだだけで割れるとか……」
丁寧に扱うことが前提の食器なのだろう。がさつな自分が使うようなものではないのかもしれない。
はあ、とため息を吐いた世凪の腕が、突然誰かに掴まれた。そのまま引かれ、世凪は驚いて立ち上がる。
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