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世凪の手を引きながら、リゲルの元を後にしたアドウェルは、渡り廊下に差し掛かった時、ふう、と深く息を吐いて、世凪を振り返った。少し弱ったような顔をするアドウェルに世凪が口を開く。
「アド王子……お母さまのお話をされてから、顔色が戻りませんね」
元気なふうを装っていたが、何か触れて欲しくないものに触れられたような、そんな様子が世凪にも分かっていた。ただ、リゲルの前では何も話すつもりはなさそうだったので、世凪は何も言えなかったのだ。
「……世凪には、母のことを話しておく必要があるな」
アドウェルはそっと世凪の手を離すと、渡り廊下の途中にある窓辺に寄り添った。遠くを見つめるように体を預け、桟に肘をつく。そんな姿すら、絵になるほどカッコいい。
「俺とレミの母は、世凪と同じように『縁の泉』から来た人だったんだ。父は彼に一目惚れをしたらしい。既に正室がいたのだが、構わず彼を側室に迎え入れて、一年足らずで俺が生まれた。その後、正室の機嫌をとるように言った母の言葉を受けて、弟が二人生まれた。その間も父は母に会いに来ていたよ。それでも、きっと子をもうけるようなことはさせてもらえなかったんだろう。俺の記憶では、母は毎晩俺と同じ部屋で眠っていたから」
この国の王室のことは分からないけれど、一夫多妻制というのはどんな気持ちで受け入れるものなのだろう、と思った。世凪は、やっぱり愛する人には自分だけ愛して欲しいと思う。少し悲しい話だな、と思いながら世凪はアドウェルの隣に立って、黙って言葉の続きを待った。
「今から六年前……母が体調を崩したんだ。それを機に父は再び、母に付きっきりになっていたらしい。俺はその頃全寮制の学校へ行っていたから周りから聞いた話だが……リゲルが治癒魔法をかけてくれていたから調子のいい日もあったんだろう。そのうち、レミを身ごもって、出産の三日後に息を引き取ったんだ」
きっと体調を崩していたところに妊娠出産の負荷がかかり、体が耐え切れなくなったのだろう。『縁の泉』から来た、ということだからこちらの空気や食べ物が合わなかったということも考えられるし、何よりアドウェルは母のことを『彼』と言った。この国の人ならともかく、世凪のように他所から来た人の体は、いくら受胎出来るようになったとしても、耐えられるという保証はないだろう。
「そう、だったんですね。それを聞いて、レミが僕を『かあさま』と呼ぶのも、リゲルさんがアド王子のお母さんの話に敏感になったのも、使用人さんたちが僕に『様』をつけて呼ぶのも、理由が分かりました」
きっとこの城の全ての人が世凪をアドウェルの母と重ねて見ているのだ。みな、世凪を見ているわけではない。もしかしたら、目の前のアドウェルだって、母親と同じ境遇だから、こんなに優しくしてくれているのかもしれない――そう思うと世凪の胸はちくりと痛んだ。
たった数日、夢だと思っていたのに、その夢の中で王子様に惹かれていたなんて、世凪じゃなくても気づかないと思う。こんなふうに小さなことで傷つかない限り。
思えば初めてアドウェルに会った時から、他の人とは違う気持ちを抱いていた。これまではっきりと好きだと思って誰かと付き合ったことがなかったから、これが人を好きになる気持ちだと気づかなかったのだろう。今思えば出会った時、既に世凪は彼に惹かれていた。
いくら相手が王子だとしても、普通、人があんなにキラキラと光って見えるわけないのだ。
だからこそアドウェルが世凪を通して別の人を見ていると気づいて悲しくなったのだろう。
「アド王子……お母さまのお話をされてから、顔色が戻りませんね」
元気なふうを装っていたが、何か触れて欲しくないものに触れられたような、そんな様子が世凪にも分かっていた。ただ、リゲルの前では何も話すつもりはなさそうだったので、世凪は何も言えなかったのだ。
「……世凪には、母のことを話しておく必要があるな」
アドウェルはそっと世凪の手を離すと、渡り廊下の途中にある窓辺に寄り添った。遠くを見つめるように体を預け、桟に肘をつく。そんな姿すら、絵になるほどカッコいい。
「俺とレミの母は、世凪と同じように『縁の泉』から来た人だったんだ。父は彼に一目惚れをしたらしい。既に正室がいたのだが、構わず彼を側室に迎え入れて、一年足らずで俺が生まれた。その後、正室の機嫌をとるように言った母の言葉を受けて、弟が二人生まれた。その間も父は母に会いに来ていたよ。それでも、きっと子をもうけるようなことはさせてもらえなかったんだろう。俺の記憶では、母は毎晩俺と同じ部屋で眠っていたから」
この国の王室のことは分からないけれど、一夫多妻制というのはどんな気持ちで受け入れるものなのだろう、と思った。世凪は、やっぱり愛する人には自分だけ愛して欲しいと思う。少し悲しい話だな、と思いながら世凪はアドウェルの隣に立って、黙って言葉の続きを待った。
「今から六年前……母が体調を崩したんだ。それを機に父は再び、母に付きっきりになっていたらしい。俺はその頃全寮制の学校へ行っていたから周りから聞いた話だが……リゲルが治癒魔法をかけてくれていたから調子のいい日もあったんだろう。そのうち、レミを身ごもって、出産の三日後に息を引き取ったんだ」
きっと体調を崩していたところに妊娠出産の負荷がかかり、体が耐え切れなくなったのだろう。『縁の泉』から来た、ということだからこちらの空気や食べ物が合わなかったということも考えられるし、何よりアドウェルは母のことを『彼』と言った。この国の人ならともかく、世凪のように他所から来た人の体は、いくら受胎出来るようになったとしても、耐えられるという保証はないだろう。
「そう、だったんですね。それを聞いて、レミが僕を『かあさま』と呼ぶのも、リゲルさんがアド王子のお母さんの話に敏感になったのも、使用人さんたちが僕に『様』をつけて呼ぶのも、理由が分かりました」
きっとこの城の全ての人が世凪をアドウェルの母と重ねて見ているのだ。みな、世凪を見ているわけではない。もしかしたら、目の前のアドウェルだって、母親と同じ境遇だから、こんなに優しくしてくれているのかもしれない――そう思うと世凪の胸はちくりと痛んだ。
たった数日、夢だと思っていたのに、その夢の中で王子様に惹かれていたなんて、世凪じゃなくても気づかないと思う。こんなふうに小さなことで傷つかない限り。
思えば初めてアドウェルに会った時から、他の人とは違う気持ちを抱いていた。これまではっきりと好きだと思って誰かと付き合ったことがなかったから、これが人を好きになる気持ちだと気づかなかったのだろう。今思えば出会った時、既に世凪は彼に惹かれていた。
いくら相手が王子だとしても、普通、人があんなにキラキラと光って見えるわけないのだ。
だからこそアドウェルが世凪を通して別の人を見ていると気づいて悲しくなったのだろう。
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