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「……確かに、世凪を『世凪』として見ている者は少ないと思う。『縁の泉』は王族にとって特別で、その泉に呼ばれた者は今の王家を救うと言われているから」
「僕には、そんな力なんてないです。きっと間違えて呼ばれたんだと思いますよ」
「いや……世凪には、現状を変える力があると思う。現に、レミの食事を変えただろう? だから世凪はこれからも自由に思うままに過ごして欲しい。俺がサポートする」
そうか、これはアドウェルにとってビジネスなのだ、と思った。『縁の泉』から来た者が動きやすいように配慮することで、王家がいい方向に変わる――それが言い伝えられているのなら、アドウェルにその仕事が回ってきたと考えているのかもしれない。
ここに居るのが世凪でもそうでなくても、アドウェルはきっと同じ表情で同じ言葉を紡ぐのだろう。
どんなに気持ちを重ねても、世凪がアドウェルの気持ちを受け取ることは絶対にない。アドウェルは二番目といえ、王子だ。こんな、異世界からきた貧相な男が隣に立てるわけはない。まだ、この気持ちが積もる前でよかった。今なら、少しずつこの気持ちを友人としてのそれに変えていけるだろう。
そうすれば、こんなことで傷つくこともなくなるのだ。それが、おそらく世凪にとっても幸せな事だろう。
「……分かりました。僕でお役に立てるのなら、頑張ります」
この世界にこの立場で来てしまった以上、帰ることもできないし、無職の自分が城を出て一人で生きていけるかなんて分からない。だったら、この人の役に立ちたいと思った。アドウェルにとってどんな意味でも特別な人になれるのなら、それもまた幸せだろう。
世凪が微笑んでアドウェルを見上げると、穏やかに表情を変えたアドウェルが世凪の手を掴んだ。
「戻ろうか。今日はレミが世凪と遊ぶと勝手に予定を立てていたし」
「それは大事な予定ですね」
世凪がくすくすと笑うと、アドウェルは世凪の手をひいて歩き出した。もう怪我は治ったというのにこの優しさに今度は心臓が痛んだ。この優しさは世凪じゃなくても与えられていたものなのだろう。そう思うとやっぱり少し寂しかった。
「アド王子……お母さまって、どんな方でした? 男性、だったんですよね?」
「そうだ。どんな、か……穏やかで優しく、美しい人だったよ。でも怒ると父よりも怖くて、そんな父はいつも怒られていたな。でも、おかげで父の機嫌ひとつで変わっていたその日の城の予定が、毎日きちんと変わらず進むようになって。あれは、母のおかげだと思っている」
「それは、国王様がお母さまを愛してらっしゃったから、お母さまの言うことを聞いて変わられたんでしょうね」
優しく穏やかなのに、悪いことは悪いと言える、そんな強い人だったのだろうと察する。その上美人だったなんて、世凪にはとても遠い存在のように思えた。そんな人と重ねられているのだと思うと、なんだか荷が重い気さえする。
でも、少しでも近づきたいという気持ちはあった。アドウェルに愛されることはなくても、傍に居て心地いい存在くらいにはなっていたい。
「そう、かもしれないな……」
少し寂しそうな声が聞こえ、世凪は首を傾げたが、ぎゅっと強く握られた手が熱くて、どうしたのかと聞けず、ただアドウェルの隣を歩いて行った。
「僕には、そんな力なんてないです。きっと間違えて呼ばれたんだと思いますよ」
「いや……世凪には、現状を変える力があると思う。現に、レミの食事を変えただろう? だから世凪はこれからも自由に思うままに過ごして欲しい。俺がサポートする」
そうか、これはアドウェルにとってビジネスなのだ、と思った。『縁の泉』から来た者が動きやすいように配慮することで、王家がいい方向に変わる――それが言い伝えられているのなら、アドウェルにその仕事が回ってきたと考えているのかもしれない。
ここに居るのが世凪でもそうでなくても、アドウェルはきっと同じ表情で同じ言葉を紡ぐのだろう。
どんなに気持ちを重ねても、世凪がアドウェルの気持ちを受け取ることは絶対にない。アドウェルは二番目といえ、王子だ。こんな、異世界からきた貧相な男が隣に立てるわけはない。まだ、この気持ちが積もる前でよかった。今なら、少しずつこの気持ちを友人としてのそれに変えていけるだろう。
そうすれば、こんなことで傷つくこともなくなるのだ。それが、おそらく世凪にとっても幸せな事だろう。
「……分かりました。僕でお役に立てるのなら、頑張ります」
この世界にこの立場で来てしまった以上、帰ることもできないし、無職の自分が城を出て一人で生きていけるかなんて分からない。だったら、この人の役に立ちたいと思った。アドウェルにとってどんな意味でも特別な人になれるのなら、それもまた幸せだろう。
世凪が微笑んでアドウェルを見上げると、穏やかに表情を変えたアドウェルが世凪の手を掴んだ。
「戻ろうか。今日はレミが世凪と遊ぶと勝手に予定を立てていたし」
「それは大事な予定ですね」
世凪がくすくすと笑うと、アドウェルは世凪の手をひいて歩き出した。もう怪我は治ったというのにこの優しさに今度は心臓が痛んだ。この優しさは世凪じゃなくても与えられていたものなのだろう。そう思うとやっぱり少し寂しかった。
「アド王子……お母さまって、どんな方でした? 男性、だったんですよね?」
「そうだ。どんな、か……穏やかで優しく、美しい人だったよ。でも怒ると父よりも怖くて、そんな父はいつも怒られていたな。でも、おかげで父の機嫌ひとつで変わっていたその日の城の予定が、毎日きちんと変わらず進むようになって。あれは、母のおかげだと思っている」
「それは、国王様がお母さまを愛してらっしゃったから、お母さまの言うことを聞いて変わられたんでしょうね」
優しく穏やかなのに、悪いことは悪いと言える、そんな強い人だったのだろうと察する。その上美人だったなんて、世凪にはとても遠い存在のように思えた。そんな人と重ねられているのだと思うと、なんだか荷が重い気さえする。
でも、少しでも近づきたいという気持ちはあった。アドウェルに愛されることはなくても、傍に居て心地いい存在くらいにはなっていたい。
「そう、かもしれないな……」
少し寂しそうな声が聞こえ、世凪は首を傾げたが、ぎゅっと強く握られた手が熱くて、どうしたのかと聞けず、ただアドウェルの隣を歩いて行った。
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