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しおりを挟む「かあさまは、赤い花とピンクの花、どっちが好き?」
芝生に座り込み、手にしていた花を世凪に見せるレミウェルはやっぱり天使の生まれ変わりなのだと確信してしまう。
城の中庭は、レミウェルにとって、唯一外を駆けまわれる場所だ。城壁で囲まれて空は四角く切り取られているのだが、それでも太陽の光を浴びないよりはましだと思い、世凪はこの日、レミウェルを庭へと連れ出した。当然のようにそこには衛兵と使用人もいて、世凪はその視線が監視されているようで痛いのだが、レミウェルはそれを気に留めることなく、世凪の傍で花を摘んでいる。これも雑草ではなく、レミウェルが摘んで楽しむために植えられているというのだから、それだけで父親の溺愛ぶりが窺える。
「僕はどっちもキレイだと思うな。一番可愛いのはレミだし」
隣に座っていた世凪がレミウェルの頭を撫でると、レミウェルは嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。
「じゃあ、かあさまには、どっちもあげるね!」
レミウェルが手にしていた花を差し出す。それを受け取ろうとすると、違うよ、とレミウェルは世凪の手を取った。
「ここに飾るの。もう一つはここね」
レミウェルが世凪の薬指に花の茎を巻きつける。もうひとつは世凪の髪に飾った。
「指輪みたいでしょう?」
ふふ、と笑うレミウェルを見てから、自身の手に視線を向けた世凪は、確かに花の指輪のようになっているそれを見て、ホントだね、と微笑んだ。
「指輪をくれたから、僕はレミのお嫁さんになるのかな?」
「ううん。かあさまは、ぼくのかあさまだから。かあさまは、一番大好きな人のお嫁さんになるんだよ」
あっさりと振られた世凪が、そうなんだ、と笑う。一番大好きな人と結ばれる、そんな結末の絵本をさっき一緒に読んだから、こんな話になっているのだろう。子どもは素直で、時に残酷だ。レミウェルの母親は、本当に一番大好きな人と結ばれたかなんて、分からない。彼のことを考えれば考えるほど本当に望んで国王の側室になったのか分からなくなったのだ。そもそも、こちらに来て一年足らずでアドウェルが生まれているということは、数カ月のうちに事を済ましているということだ。一週間も経たぬうちにアドウェルに惹かれた自分が言えることではないが、展開が早すぎるのではないかと思う。
恋に落ちるのは勝手だが、相手を巻き込むと話は変わってくる。
「かあさまは、誰が一番好き? アド兄さま?」
「どう、かな……レミのことは大好きだけど」
「ぼくは、アド兄さまも好きになってほしいな。兄さまはね、ぼくのかあさまの代わりをしてくれたんだって。だから、二人目の父さまみたいだから、かあさまが兄さまを大好きになってお嫁さんになったら、本当にかあさまになるでしょう?」
それを言うなら、国王の側室になってレミウェルを息子として引き取れば正式に親子になりうるのだろうけれど、レミウェルの中で父親は国王よりもアドウェルという認識が強いらしい。
ただ、ここでそんな話を世凪がしたら、すぐそこに居る使用人の耳に入り、瞬く間に『国を乗っ取りにきた』なんて噂になりかねないので、ここは黙っておくことにする。
それに世凪は会ったこともない国王になど興味すらなかった。
「レミはアド王子が大好きなんだね」
「うん、アド兄さまだけだから……ぼくの傍にちゃんといて、お話を聞いてくれるのは」
レミウェルの言葉の端からは、彼の寂しさが滲んでいた。
毎日キレイな服を着せてもらい、怪我をしないようにと城の廊下全てに絨毯が敷かれ、危険がないように手入れされた庭が用意され、常に誰かに見守られているレミウェルだが、そんな彼でも心の奥までは満たされていないのだろう。それを少しでもなんとかしてあげようとしているのが、アドウェルなんだと、その言葉だけで分かった。
「……僕も、レミの話、たくさん聞きたいな」
もしもこれもアドウェルの助けになるのなら、たくさんレミウェルと関わりたいと思う。それ以上に、世凪の言葉を聞いて顔を赤くするほど嬉しそうに笑ったレミウェルのためになるなら、本当に嬉しい。
「やっぱり、かあさまは、ぼくのかあさまなんだよ」
レミウェルに実の母の記憶はない。だからこそ、母親という存在を求める気持ちは強いのだろう。レミウェルはまだ五歳だ。世凪にその気持ちを託すことでレミウェルが満たされるのなら、それもいいだろうと思った。もしかしたら、『縁の泉』が世凪を呼んだのはレミウェルのためだったとも考えられる。
「じゃあ、レミ。次はかあさまと何がしたい? 今日はレミのために一日使えるんだよ」
「ホント? じゃあ、かけっこに付き合って。早くアド兄さまより速くなりたいんだ」
「かけっこか……いいよ」
よし、勝負だ、と立ち上がった世凪に倣い、レミウェルが嬉しそうに立ち上がり、走り出す。その姿は、本当に嬉しそうで、それだけで自分がここに来た意味があるような気さえした。
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