天使のような子の怪我の手当てをしたら氷の王子に懐かれました

藤吉めぐみ

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 あんなにはっきりと断ったのに、まさかそれすら通用していなかったとは驚いた。ここまで超解釈されるなんて、どれだけ彼は自己肯定感が高いのだろう。
「かあさま……ごめんなさい……ぼく……」
 大きくため息を吐いてしまった世凪の足元に、レミウェルが抱きつく。世凪が視線を下に向けると、レミウェルは大きな瞳に大海を湛えていた。
「え、どうしたの? レミ。謝ることなんて、何もないよ」
 そんなレミウェルを見て驚いた世凪が彼の目線までしゃがみ込んだ。
「ぼく、かあさまを守れなかったから……」
 レミウェルの頬を雫が転がっていく。なんて愛らしい理由で泣いているのだろう。世凪は思わずレミウェルを抱きしめていた。
「大丈夫。お兄さんと少し話してただけでしょう」
 どうして守れなかったと泣くのか不思議に思いつつも、世凪はレミウェルの髪を撫でてあやしながら、傍に居たメイドに視線を向けた。
「……お茶、淹れ直しましょうか、世凪様、レミウェル様」
 メイドが気分を変えるように、ぱん、と手を鳴らしてから笑顔で告げる。顔を上げたレミウェルがゆっくりと頷いた。
 世凪はそんなレミウェルを抱き上げてから、椅子に座らせ、その前にしゃがみ込む。ようやく涙は止まったようだが、その目は赤くなっていた。
「レミは、お兄さんが苦手なの?」
「少し……」
 レミウェルが視線を自身の膝に向ける。あまり話したくないのかと思い、そうか、とだけ言って世凪は席に着いた。
「……フェルジェ様は、アドウェル様とレミウェル様を自分の兄弟だとお認めになっていないようで、時々あんなふうに声を掛けては、おもちゃを取り上げたり、絵本を隠したりして弄んで帰っていくので、レミウェル様は少し身構えてしまうようです」
 レミウェルの目には、世凪がフェルジェにいじめられているように見えたのかもしれない。だから、守れなかったという言葉が出たのだろう。
   それよりも、アドウェルの兄ということは、少なくとも二十一歳より上の年齢の兄が小さな弟にそんな低俗ないたずらをしているなんて呆れる話だ。どんな不満や確執があるのかは知らないが、大人、しかも順当にいけば次期国王がそんなことをしていていいはずがない。
「次に会ったら文句言わなきゃ」
「そ、そんなことしたら、かあさまが苛められちゃうから……」
 レミウェルが再び瞳に涙を浮かべる。そんなレミウェルに世凪はできるだけ優しく微笑んで、大丈夫だよ、と答えた。
「僕はこう見えて強いからね」
 世凪が笑うと、レミウェルがようやく笑顔を向けてくれた。その姿に世凪がほっとして微笑む。アドウェルには信用されない『大丈夫』という言葉だが、まだレミウェルには使えるようだ。
「じゃあ、お茶の続きにしようか、レミ」
 ちょうど新しい紅茶が目の前に差し出されたのを見て世凪が言うと、レミウェルがいつもの可愛らしい笑顔で頷いた。
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