天使のような子の怪我の手当てをしたら氷の王子に懐かれました

藤吉めぐみ

文字の大きさ
35 / 73

10-2

しおりを挟む
「かあさま、どうかしたの?」
 可愛らしい声が傍で響いて、世凪は驚いて目を開けた。目の前には首を傾げこちらを見ているレミウェルがいて、その後ろにはアドウェルも立っている。
 先日、キスをされてから初めて顔を合わせるので、世凪はなんだか恥ずかしくてまともにアドウェルの顔を見られなかった。鼓動が駆け足になる。
「な、なんでもない。ちょっと考え事してただけ、だから」
「元気がないわけじゃない?」
「うん。レミの顔を見たらもう大丈夫。ありがとう」
 ご飯にしようか、と世凪がレミウェルに微笑みかけると、レミウェルは嬉しそうに頷いて自分の席へ着いた。それを見て世凪も席に着く。今日も食卓は彩り豊かで、レミウェルが初めて口にした時から気に入っている野菜とミルクのスープも並んでいて、レミウェルの機嫌はとてもよさそうだ。
 一方でその隣に座ったアドウェルの表情は少し険しくなっている。使用人たちにとってはその表情はデフォルトなのか、特に気に留めることもなくいつも通り仕事をしている。世凪だけが違和感を抱きながら、それでもそれを表に出すことなくいつも通り朝食をとることにした。
 ーーのだけれど。
 世凪の違和感は当たっていたというか、やっぱりいつも通りなどではなかったらしい。それが分かったのは、食事を終え、使用人とレミウェルが部屋を出ていった後だった。
 なぜかアドウェルだけが部屋に残り、世凪を呼び止めた。元々低めの声だが、その時の声は更に低く、世凪でなくとも機嫌が良くないと分かっただろう。
「世凪に聞きたいことがある」
「聞きたいこと、ですか?」
 朝食が終わったのでリゲルのところへと行こうと準備をしていた世凪がアドウェルに聞き返す。使用人まで下がらせてから話すことなのだからよほど大事な話なのだろう。
 今彼から話す大事な話といえば、先日のキスのことだろうか。忘れて欲しいというなら、それに従おうと思い、世凪はアドウェルの傍に寄って、彼の言葉を待った。
「これは、世凪が自分で頼んだもの、か?」
 アドウェルがベッドの上を視線で指す。予想とは違う言葉に、世凪は首を傾げてからベッドに近づいた。アドウェルの視線の先には、放置したままだった下着のような衣装が転がっていた。
 世凪が、違います、と慌ててその服を箱にしまいこむ。
「これは、僕が着たいわけじゃなくて、フェルジェ様から贈られたもので……」
「……フェルジェから?」
 世凪が素直に本当のことを告げると、アドウェルの眉が動き、眉間に皺を作った。その表情が怪訝そうに歪む。
「兄に会ったのか?」
 続けざまに聞かれ、世凪は頷いた。アドウェルの周りの空気が冷えていくのを感じ、嘘は吐けないと思った。
「中庭でレミと遊んでいる時に通りかかったようで、その時に顔を合わせました」
「そうか……同じ建物で過ごしていればいつか会うこともあるか……」
 その口ぶりから、フェルジェには世凪を会わせたくなかったのだろうと分かった。未だに国王にも王妃にも他の兄弟にも会えていないのは、アドウェルが会わせたくないと思っているからかもしれない。
 それは前回の『泉に呼ばれた者』であるミシェルに比べ、世凪が劣っているからだろう。何の役に立つのかも分からない世凪がそんな特別なものであるはずがないと国王に断定されてしまったら、世凪のこの先が分からなくなる。
 アドウェルはきっとそこまで考えてくれているのだろう。
「こんなものを贈ってくるなんて、からかわれたんだと思います。レミにも子どもっぽい苛めをすると聞いたし」
 きっとそれと同じでしょう、と世凪は笑うが、アドウェルの表情は険しいままだった。
「兄に、何かされたか? 言われたか?」
「何かってほどのことは……側室にならないか、なんて言うので、丁重にお断りしたくらいです」
「それで、これか……」
 世凪の言葉を聞いてアドウェルの中で何かが繋がったらしい。アドウェルは世凪に手を差し出し、更に言葉を繋いだ。
「それは俺が処分しておく。着たいものではないんだろう?」
「え、あ、はい……では、お願いします……」
 世凪が素直に箱をアドウェルに手渡す。アドウェルは一度箱のふたを開けて中身を見てから、ため息をついて再びふたを閉めた。
「服なら、俺が用意する。だから、誰からも受け取るな」
 アドウェルがこちらをまっすぐに見つめる。もう周りを凍らせるような空気は纏っていないけれど、その目は真剣だった。世凪はその目を見つめ、頷いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

給餌行為が求愛行動だってなんで誰も教えてくれなかったんだ!

永川さき
BL
 魔術教師で平民のマテウス・アージェルは、元教え子で現同僚のアイザック・ウェルズリー子爵と毎日食堂で昼食をともにしている。  ただ、その食事風景は特殊なもので……。  元教え子のスパダリ魔術教師×未亡人で成人した子持ちのおっさん魔術教師  まー様企画の「おっさん受けBL企画」参加作品です。  他サイトにも掲載しています。

勇者になるのを断ったらなぜか敵国の騎士団長に溺愛されました

BL
「勇者様!この国を勝利にお導きください!」 え?勇者って誰のこと? 突如勇者として召喚された俺。 いや、でも勇者ってチート能力持ってるやつのことでしょう? 俺、女神様からそんな能力もらってませんよ?人違いじゃないですか?

【完結】※セーブポイントに入って一汁三菜の夕飯を頂いた勇者くんは体力が全回復します。

きのこいもむし
BL
ある日突然セーブポイントになってしまった自宅のクローゼットからダンジョン攻略中の勇者くんが出てきたので、一汁三菜の夕飯を作って一緒に食べようねみたいなお料理BLです。 自炊に目覚めた独身フリーターのアラサー男子(27)が、セーブポイントの中に入ると体力が全回復するタイプの勇者くん(19)を餌付けしてそれを肴に旨い酒を飲むだけの逆異世界転移もの。 食いしん坊わんこのローグライク系勇者×料理好きのセーブポイント系平凡受けの超ほんわかした感じの話です。

【完結】おじさんダンジョン配信者ですが、S級探索者の騎士を助けたら妙に懐かれてしまいました

大河
BL
世界を変えた「ダンジョン」出現から30年── かつて一線で活躍した元探索者・レイジ(42)は、今や東京の片隅で地味な初心者向け配信を続ける"おじさん配信者"。安物機材、スポンサーゼロ、視聴者数も控えめ。華やかな人気配信者とは対照的だが、その真摯な解説は密かに「信頼できる初心者向け動画」として評価されていた。 そんな平穏な日常が一変する。ダンジョン中層に災厄級モンスターが突如出現、人気配信パーティが全滅の危機に!迷わず単身で救助に向かうレイジ。絶体絶命のピンチを救ったのは、国家直属のS級騎士・ソウマだった。 冷静沈着、美形かつ最強。誰もが憧れる騎士の青年は、なぜかレイジを見た瞬間に顔を赤らめて……? 若き美貌の騎士×地味なおじさん配信者のバディが織りなす、年の差、立場の差、すべてを越えて始まる予想外の恋の物語。

捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~

水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。 死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!? 「こんなところで寝られるか!」 極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く! ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。 すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……? 「……貴様、私を堕落させる気か」 (※いいえ、ただ快適に寝たいだけです) 殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。 捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!

《本編 完結 続編 完結》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。

かざみはら まなか
BL
24歳の英雄公爵✕29歳の日本に帰りたい異世界転移した青年

異世界転移してΩになった俺(アラフォーリーマン)、庇護欲高めα騎士に身も心も溶かされる

ヨドミ
BL
もし生まれ変わったら、俺は思う存分甘やかされたい――。 アラフォーリーマン(社畜)である福沢裕介は、通勤途中、事故により異世界へ転移してしまう。 異世界ローリア王国皇太子の花嫁として召喚されたが、転移して早々、【災厄のΩ】と告げられ殺されそうになる。 【災厄のΩ】、それは複数のαを番にすることができるΩのことだった――。 αがハーレムを築くのが常識とされる異世界では、【災厄のΩ】は忌むべき存在。 負の烙印を押された裕介は、間一髪、銀髪のα騎士ジェイドに助けられ、彼の庇護のもと、騎士団施設で居候することに。 「αがΩを守るのは当然だ」とジェイドは裕介の世話を焼くようになって――。 庇護欲高め騎士(α)と甘やかされたいけどプライドが邪魔をして素直になれない中年リーマン(Ω)のすれ違いラブファンタジー。 ※Rシーンには♡マークをつけます。

【本編完結】最強魔導騎士は、騎士団長に頭を撫でて欲しい【番外編あり】

ゆらり
BL
 帝国の侵略から国境を守る、レゲムアーク皇国第一魔導騎士団の駐屯地に派遣された、新人の魔導騎士ネウクレア。  着任当日に勃発した砲撃防衛戦で、彼は敵の砲撃部隊を単独で壊滅に追いやった。  凄まじい能力を持つ彼を部下として迎え入れた騎士団長セディウスは、研究機関育ちであるネウクレアの独特な言動に戸惑いながらも、全身鎧の下に隠された……どこか歪ではあるが、純粋無垢であどけない姿に触れたことで、彼に対して強い庇護欲を抱いてしまう。  撫でて、抱きしめて、甘やかしたい。  帝国との全面戦争が迫るなか、ネウクレアへの深い想いと、皇国の守護者たる騎士としての責務の間で、セディウスは葛藤する。  独身なのに父性強めな騎士団長×不憫な生い立ちで情緒薄めな甘えたがり魔導騎士+仲が良すぎる副官コンビ。  甘いだけじゃない、骨太文体でお送りする軍記物BL小説です。番外は日常エピソード中心。ややダーク・ファンタジー寄り。  ※ぼかしなし、本当の意味で全年齢向け。 ★お気に入りやいいね、エールをありがとうございます! お気に召しましたらぜひポチリとお願いします。凄く励みになります!

処理中です...