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「服なら、充分過ぎるほど用意していただいてます。これ以上は贅沢です」
部屋のクローゼットには、シャツやパンツだけではなく、着心地のいい夜着や暖かな上着も用意されている。こちらから言わなくても、季節や都合に合わせて準備してくれているのだろう。最近はリゲルのところへ通っているためか、丈の長いジャケットが追加されていた。リゲルのいる棟に行く途中の渡り廊下は室温の調整がされていないので朝は少し冷えるからとても重宝していた。
「贅沢、か……じゃあ、俺が服を贈っても着てくれないか?」
「何かのお祝いとしてのプレゼントであれば、喜んで着ますよ。でも、意味も分からずこんなものを贈られたら着ようとは思いません」
世凪はアドウェルの腕に抱えられている箱に視線を向けた。だいたい、恋人でもない相手に下着を贈りつけるなんて、ちょっと気味が悪い。相手の立場が第一王子でなければ、世凪自ら突き返しに行っているところだ。
世凪の表情がよほど不機嫌になっていたのだろう。アドウェルが小さく笑ってから、分かった、と頷いた。
「では何か祝う事があった時に。そういえば、世凪の誕生日はいつだ?」
祝う、という言葉から連想したのだろう。アドウェルが優しい表情を取り戻して世凪に聞いた。
「同じ暦を使っているか分かりませんが、僕は夏生まれなので、誕生日は二か月前に済んだばかりです」
この国に季節の概念があるかも分からないまま答えると、アドウェルは、そうか、と少し眉を下げた。祝いたかったと思ってくれているのなら、それだけで嬉しい。
「アド王子のお誕生日はいつですか?」
「俺はひと月先だ」
自分の誕生日の話だというのに、アドウェルは小さくため息を吐きながら答えた。世凪はその表情が気になって質問を重ねる。
「お誕生日が来ると、何かあるんですか?」
「……二十二歳は、兄が結婚した歳だ。父に至っては既に結婚して正室のお腹には兄がいたんだ。だから、俺の誕生日に開かれる祝賀会は、実質壮大な見合いになるだろう」
今から気が重いんだ、とアドウェルが再びため息を吐く。
立場が立場なだけに、結婚や世継ぎを早くと望まれるのだろう。王族として未来を繋ぐことは生まれながらの義務のようなものだとすれば少し可哀そうな気もするが、アドウェルほどの魅力ある人なら、絶世の美女だって選べるはずだ。そこにアドウェルにとってのシンデレラがいるかもしれないと思えば、そこまで悲観することではないようにも思える。
その選択肢の中に世凪が入るなんてやっぱりおこがましいにも程があるので、アドウェルに抱くこの感情はいつかちゃんと捨てなければいけないだろう。
あの日のキスについて弁明もしないのなら、油断しているとこんなことをされてしまう、という演技の一部で、他意はなかったということだ。気にしている世凪のほうが自意識過剰なのかもしれない。
「きっと、アド王子にお似合いの方が現れますよ。僕がアド王子に贈る最初のプレゼントはお誕生日とご婚約、両方のお祝いになりそうですね」
世凪が微笑むと、アドウェルは表情を無に戻し世凪から視線を逸らした。
「……似合うとか似合わないではない。俺は、世凪からのそんなプレゼントは貰うつもりはないからな」
覚えておけ、とアドウェルは低く告げると、そのまま世凪の顔を見ることもなく部屋を出ていった。少し乱暴にドアが閉まる。
「……何か、地雷踏んだかな……?」
アドウェルが婚約者探しに乗り気ではなかったから励まそうとしただけだったのに、どうやらアドウェルにはそのまま伝わらなかったらしい。ちゃんといい人が現れて幸せになれると伝えたかったのだが、何か言葉を間違えたようだ。
次に会った時に謝ろう――そう思って、世凪はリゲルのところへと行くべく、準備を再開した。
部屋のクローゼットには、シャツやパンツだけではなく、着心地のいい夜着や暖かな上着も用意されている。こちらから言わなくても、季節や都合に合わせて準備してくれているのだろう。最近はリゲルのところへ通っているためか、丈の長いジャケットが追加されていた。リゲルのいる棟に行く途中の渡り廊下は室温の調整がされていないので朝は少し冷えるからとても重宝していた。
「贅沢、か……じゃあ、俺が服を贈っても着てくれないか?」
「何かのお祝いとしてのプレゼントであれば、喜んで着ますよ。でも、意味も分からずこんなものを贈られたら着ようとは思いません」
世凪はアドウェルの腕に抱えられている箱に視線を向けた。だいたい、恋人でもない相手に下着を贈りつけるなんて、ちょっと気味が悪い。相手の立場が第一王子でなければ、世凪自ら突き返しに行っているところだ。
世凪の表情がよほど不機嫌になっていたのだろう。アドウェルが小さく笑ってから、分かった、と頷いた。
「では何か祝う事があった時に。そういえば、世凪の誕生日はいつだ?」
祝う、という言葉から連想したのだろう。アドウェルが優しい表情を取り戻して世凪に聞いた。
「同じ暦を使っているか分かりませんが、僕は夏生まれなので、誕生日は二か月前に済んだばかりです」
この国に季節の概念があるかも分からないまま答えると、アドウェルは、そうか、と少し眉を下げた。祝いたかったと思ってくれているのなら、それだけで嬉しい。
「アド王子のお誕生日はいつですか?」
「俺はひと月先だ」
自分の誕生日の話だというのに、アドウェルは小さくため息を吐きながら答えた。世凪はその表情が気になって質問を重ねる。
「お誕生日が来ると、何かあるんですか?」
「……二十二歳は、兄が結婚した歳だ。父に至っては既に結婚して正室のお腹には兄がいたんだ。だから、俺の誕生日に開かれる祝賀会は、実質壮大な見合いになるだろう」
今から気が重いんだ、とアドウェルが再びため息を吐く。
立場が立場なだけに、結婚や世継ぎを早くと望まれるのだろう。王族として未来を繋ぐことは生まれながらの義務のようなものだとすれば少し可哀そうな気もするが、アドウェルほどの魅力ある人なら、絶世の美女だって選べるはずだ。そこにアドウェルにとってのシンデレラがいるかもしれないと思えば、そこまで悲観することではないようにも思える。
その選択肢の中に世凪が入るなんてやっぱりおこがましいにも程があるので、アドウェルに抱くこの感情はいつかちゃんと捨てなければいけないだろう。
あの日のキスについて弁明もしないのなら、油断しているとこんなことをされてしまう、という演技の一部で、他意はなかったということだ。気にしている世凪のほうが自意識過剰なのかもしれない。
「きっと、アド王子にお似合いの方が現れますよ。僕がアド王子に贈る最初のプレゼントはお誕生日とご婚約、両方のお祝いになりそうですね」
世凪が微笑むと、アドウェルは表情を無に戻し世凪から視線を逸らした。
「……似合うとか似合わないではない。俺は、世凪からのそんなプレゼントは貰うつもりはないからな」
覚えておけ、とアドウェルは低く告げると、そのまま世凪の顔を見ることもなく部屋を出ていった。少し乱暴にドアが閉まる。
「……何か、地雷踏んだかな……?」
アドウェルが婚約者探しに乗り気ではなかったから励まそうとしただけだったのに、どうやらアドウェルにはそのまま伝わらなかったらしい。ちゃんといい人が現れて幸せになれると伝えたかったのだが、何か言葉を間違えたようだ。
次に会った時に謝ろう――そう思って、世凪はリゲルのところへと行くべく、準備を再開した。
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