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しおりを挟む「世凪様、失礼を承知で申し上げますね。それは、世凪様が悪いです」
リゲルの執務室でいつものように作業をする中、リゲルとマリアに今朝のアドウェルとのやりとりを話すと、マリアはため息を吐いてそう返した。
「僕? 祝いたいって言っただけなのに」
「アドウェル様は祝われたくなかったんでしょう」
リゲルまで世凪の失言だったと言わんばかりの言葉を返してくるので、世凪は少し不機嫌に唇を尖らせた。
確かに気乗りしないというようなことを言っていたから、世凪には同意して欲しかったのかもしれない。別にアドバイスなんか求めていなかったのだろう。
「女子高生かよ……」
保健室で仕事をしていた時も相談に対して『こうしたらどうだろう』と言うと、『聞いてくれるだけでよかった』と言われたことがある。おかげでその見極めは上手くなったつもりだったが、まさかアドウェルまで聞いてくれるだけでいい派だとは想像もしなかったのだ。
「とにかく、『あの言葉は本意じゃない』ってお伝えした方がいいと思います」
マリアが優しく、けれどはっきりと言い、リゲルに視線を向けた。リゲルもそれに頷く。
「……世凪様は、その話を聞いてどうお感じになったんですか?」
リゲルに改めて聞かれ、世凪は今朝のことを思い出した。
実質壮大な見合いと聞いて、まずは大変だなと思った。そして、そこに自分がいないことが少し寂しいと感じた。心の底ではほんの少し、唇まで奪ったくせに、という気持ちもあったけれど、アドウェルにとっては警告のキスだったとしたら、そんなふうに考えることはおこがましいと思った。
「シンデレラが見つかればいいな、と……」
世凪の言葉にマリアが、シンデレラ? と返す。リゲルがそれに、童話ですね、と微笑んだ。
「母親や姉に虐げられていた女性が魔法使いの力を借りて行ったパーティーで王子に見初められて、最後は彼と結婚する話ですよ」
リゲルがざっと説明してくれる。マリアはそれを聞いて、素敵な話ですね、と少し興奮気味に目を輝かせた。
「よくご存じですね、リゲルさん」
「……ミシェル様から伺った話です。逆境から誰かに掬い上げられて幸せを掴むことを『シンデレラストーリー』と言うのだ、と」
「そうですね。ですから、その祝賀会でアド王子を幸せにしてくれるシンデレラが見つかればいいなと思いました」
「なるほど……アドウェル様が幸せになるお相手を見つけて欲しいと思ったんですね」
それは当然のことだろう。叶わないとしても恋をした相手には幸せになって欲しいと思う。隣に居るのが自分じゃなかったとしても、不幸でいてくれとは思わない。
「当然です」
「でしたら、『幸せになれる相手を選んで欲しい』――そうお伝えすればいいかと思いますよ」
リゲルが世凪に微笑む。その後で、そう思いますよね、とマリアに視線を移した。
「さすが、リゲル様です。私もその通りにお伝えすればいいと思います」
頑張ってくださいね、とマリアになぜか励まされ、世凪は曖昧なまま頷くことしかできなかった。
そんな世凪にリゲルが、世凪様、と呼びかける。世凪がリゲルに視線を向けると彼はとても真剣な表情をしていた。
「世凪様は、まだアドウェル様があなたにミシェル様を重ねて懐いてると思ってらっしゃいますか?」
「それしかない、と思ってますが......」
世凪が少し首を傾げると、リゲルは大きなため息をついた。
「世凪様は、頭はいいですが少し鈍感ですよね。アドウェル様が言葉にできないことを、汲み取って差し上げてください」
いささかバカにされた気がしないでもないが、それよりもリゲルの真剣さに世凪が怪訝な顔をする。
「言葉にできないこと?」
「......あの方の立場だからこそ伝えたくても伝えられないこともあります。でも言葉ではなく表情や態度で伝えているはずです」
世凪はその言葉に鼓動が少しづつ速くなる感覚がした。思い返せば、あの日のキスも、フェルジェからの贈り物に対する態度だって、世凪のことを特別に思っていると仮定すれば、とても自然な行動に思える。
「そんな......自惚れていいんでしょうか......?」
「世凪様は、自分の気持ちが伝わったほうがいいと思いませんか?」
もちろん、それはその通りだ。伝えても受け取って貰えないのは辛い。もし、アドウェルがそう思っているのなら世凪はとても残酷なことをしているのかもしれない。
「......身分が違っても想うことは罪じゃないですよね」
世凪がつぶやくとリゲルは優しくうなづいた。
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