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しおりを挟むアドウェルに会ったら、ちゃんと謝って思っていることを伝えようと思っていたのに、そういう時に限って会えないのはどうしてなのだろう。
結局昨日の夜アドウェルは部屋に来なかったし、今朝も食事は別にとるからと、現れなかった。
意図的に避けられてるのかもしれないと思うと少し悲しいが、アドウェルも何か思うことがあるのかもしれないと思えば怒ることは出来なかった。そもそも機嫌を悪くさせてしまったのは世凪の方だ。
「かあさま、元気?」
天気の良い午後、いつもの中庭でレミウェルとボール遊びをしていると、突然レミウェルがそんなことを言った。考え事をしていたのがレミウェルにも分かったのだろうかと思い、世凪が微笑む。
「元気だけど、どうしたの?」
急だね、と笑うと、アド兄さまが聞いてって言ったから、とレミウェルがこちらを見上げる。
「アド王子が?」
「しばらく会えないから、元気がなさそうだったら教えてって言われたんだ」
しばらく会えないのは、仕事が忙しいからか、世凪に対して怒っているからかは分からないけれど、少なくとも気にしてくれているというのは分かって、世凪はほっとした。あのまま嫌われてしまうのはやっぱり寂しい。
「そっか……レミ、もし、アド王子に会うことがあったら、元気だよっていうのと、お話したいから会いに来てって伝えてくれる?」
ゆっくり丁寧に話すと、レミウェルはこちらを見たままそれを聞き、うん、と頷いた。
「今日の夜、アド兄さまのところに行ってくるね。その時かあさまが会いたいって言ってたって話すから、きっと会いに来てくれるよ。すぐ仲直りできるよ、かあさま」
レミウェルが可愛らしい顔で、にこりと微笑む。甘やかされているせいか年齢よりも幼く見えるレミウェルだが、頭はいいのだろう。世凪の言葉から二人の状況をすぐに理解したようだ。
「ありがとう、レミ」
世凪がレミウェルに微笑む。けれど、その視線は世凪の後方へと向いていて、さっきよりも表情が輝いている。後ろに誰かいるのだろうか、と世凪が振り返る。
「お父さま!」
世凪の視界にレミウェルが駆けていく後ろ姿が見え、その奥には一人の男性の姿があった。黒いスーツを着たその男性は四十代半ばほどだろうか。レミウェルよりも少し濃いブロンドの髪と大柄な体躯が印象的だった。
「世凪様、国王陛下です」
近くに居たメイドが、呆けたままの世凪に声を掛ける。世凪は慌ててその場にひざまずいて頭を下げた。
あれが国王で、アドウェルたちの父親らしい。確かにその風格は王様然としている。
「レミウェル、今日はここにいたのか」
その声は少しアドウェルに似ているだろうか。低めの声が中庭に響いた。
「かあさまが来てからは、いつもここで遊んでます」
「かあさま?」
レミウェルと国王の声が響き、その視線が自分に向けられていると感じた世凪は、ごくりと息を飲み込んだ。目も合わせていないのに既に圧を感じる。
「陛下、彼が『縁の泉』から来た者です。それで、レミウェル様がミシェル様と重ねて『かあさま』とお呼びになっているようです」
国王の傍に付いていた男性が軽く説明をしてくれたようだ。しばらくの沈黙の後、国王の声が再び響いた。
「顔を見せよ」
こちらに向かって言っているのが分かり、世凪はゆっくりと顔を上げた。見上げた国王は年齢相応に渋さがあったが、やはり整った顔立ちをしていた。その腕に抱いているレミウェルとは雰囲気が違うが、アドウェルとは似ている気がする。
「名は?」
「い、石丸、世凪、と申します」
緊張して声が上擦る。このまま国王の顔を見ていてもいいものかと不安になり、視線を泳がせると、小さな笑い声が聞こえ、国王がしゃがみ込んだ。その視線が同じ高さになる。
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