天使のような子の怪我の手当てをしたら氷の王子に懐かれました

藤吉めぐみ

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 食堂へ着くと、既にフェルジェとその妻だろう女性、そしてレミウェルが席に着いていた。世凪の姿を見たレミウェルが嬉しそうな顔をして、椅子から降りる。
「かあさま! かあさまの席はぼくの隣だよ」
 父さまにお願いしたの、とレミウェルが世凪の傍に駆け寄る。世凪の服の袖を引いてこちらを見上げるレミウェルも今日は薄いブルーのスーツを着ていた。七五三のようで可愛らしい。
「席まで案内しよう」
 アドウェルが世凪の手を取り直し、半歩先を歩く。世凪はアドウェルにエスコートされるままに席に着いた。
 長方形のダイニングテーブルには、白いクロスが掛けられていて、中央に燭台と花を生けた花瓶が置かれている。手元には皿とカトラリーが既に並んでいて、あとは国王を待つだけという形になっているようだ。いわゆる誕生日席にあるひときわ豪華な彫刻が施された椅子が国王の席なのだろう。そこだけが空いていた。
「世凪、言ってくれたらもっと豪華な衣装を手配したのに」
 その国王の席から直角になる席にいたフェルジェが、斜め向かいに座った世凪の着ているスーツを見て口の端を引き上げた。
 このスーツはアドウェルが選んでくれたものだ。これ以上ないほど世凪にとっては嬉しいものだが、そう答えるわけにはいかないので世凪は首を振るだけにした。
「そこまでしていただく必要はないです」
「オレがそうしたいと思った。世凪はそれを受け取るだけでいい。贈り物は気に入ってもらえたんだろう?」
 フェルジェが満足そうに世凪を見つめる。
 ちゃんと受け取ったのは今朝の焼き菓子くらいだが、突き返さなかったからそれは気に入っているということに変換されているらしい。
「今朝頂いたお菓子は、レミと一緒に頂きました」
「口にあったなら良かったよ。……昨日の夜は、眠れたか?」
 フェルジェの笑顔が含みのあるものに変わる。昨日の香炉のことを言っているのだとすぐに分かった。使用人たちとため息を吐きながら水を掛けて火を消したからどんな香りだったかも分からないが、フェルジェの問いに答えるなら肯定しかない。
「はい、いつも通りに」
 世凪が微笑むと、フェルジェが少し驚いた表情を見せた。その効能から、いつも通りにぐっすり眠れるとは想像していなかったのだろう。
「一人で我慢することはなかったんだ。今夜も同じ物を贈るから、遠慮なくオレを呼べ」
 その言葉を聞きながら、世凪はフェルジェの隣に座る女性をちらりと盗み見た。下を向いているのでその表情までは分からないが、肩に力が入っているのは分かる。おそらく何かを堪えているのだろう。怒りか、悲しみか、その両方か。
 正室である自分の前で『いつでも夜這いに行く』と夫が宣言しているのだ、そりゃ傷つくだろう。
「……今夜はご遠慮いたします。レミと夜更かしをする予定なのです」
 え、と声を上げたのは隣に座っていたレミウェルだった。夜更かしの予定など今世凪が勝手に決めたのだから驚くのも当然だ。
「今日は僕のいた国のゲームを教えてあげる。眠くなったら僕と一緒に休もう」
 改めてレミウェルに提案すると、レミウェルはその大きな瞳を輝かせて大きく頷いた。世凪がそれに頷いてから向かい側に視線を向ける。フェルジェは少しつまらなさそうな顔をしていたが、その隣の女性の体からは少し力が抜けたように見えた。安心してくれたのならこちらも少しほっとする。更にその隣に座るアドウェルの表情は読めなかったが、世凪と目が合ってもすぐに逸らされてしまった。
 何か気に障ることをしてしまったか、と世凪が声を掛けようとしたその時、食堂のドアが開き、国王がその姿を見せた。すぐに世凪と目が合う。
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