天使のような子の怪我の手当てをしたら氷の王子に懐かれました

藤吉めぐみ

文字の大きさ
43 / 73

12-2

しおりを挟む
「揃ってるな――世凪、改めて紹介するからこちらへ」
 国王に呼ばれ、世凪が立ち上がる。その傍へと行くと、ふわりと肩を抱き寄せられた。一気に世凪の肌が粟立つ。これはきっと緊張というより嫌悪だ。
「石丸世凪という。しばらくアドウェルに任せていたが、本日付けで『泉に呼ばれた者』としてここでの暮らしを許可することとした。次の満月には儀式を行い、その後『相性』をみることにする。よいな、フェルジェ」
 世凪には国王の言っていることの半分も理解できないが、フェルジェは全てを理解しているようだ。少し怪訝な表情を見せ、国王を見上げた。
「しかし、父上……年齢的には、オレが最良だと思うのですが、本当に相性をみるのですか?」
「当然だろう? ミシェルはもう居ない。いつまでも側室を空にすることもできない」
 国王が世凪の肩を更に引き寄せる。強い力に抗えず、益々嫌悪感が増した世凪はぐっと唇を噛み締めた。やっぱり国王の強引な言動や雰囲気は苦手だ。
「……父上、レミがお腹を空かせています。そろそろ食事に」
 世凪が足元を見つめじっと耐えていると、そんな声が食堂に響いた。アドウェルの声だ。
 それを聞いた国王がレミウェルに視線を向ける。
「父さま、お食事はまだですか?」
 アドウェルの言葉に同調したのか、それとも本当にお腹が空いているのかは分からないが、レミウェルが眉を下げてこちらを見つめる。
「ああ、そうだな。すぐに食事にしよう」
 レミウェルに優しい笑顔と言葉をかけた国王が世凪から手を離す。世凪は逃げるようにその場から離れ、レミウェルの隣へと戻った。まだ指先が冷えて少し震えている。
「かあさま、大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ。ありがとう、レミ」
 レミウェルの下がった眉に触れて微笑むと、その眉がいつも通りに戻る。頷いたレミウェルを見てほっとして前を向くと、テーブルの向こうにいるアドウェルと目が合った。さっきとは違い、優しい表情になっている。きっと、食事にしようと声をかけたのは世凪の為だったのだろう。自分の小さな変化にも気づいてくれていたことがなにより嬉しい。
 そんな幸せな気持ちになっていると、傍にメイドが寄り、目の前のテーブルに料理の乗った皿が差し出された。
「これはなんだ?」
 その瞬間、そんな低い声が響いた。
 これまで当然のようにパンとステーキだけを食べていた国王の目の前にも色鮮やかな温野菜のサラダが差し出されているのだから、当然の反応だろう。メイドが叱られる前になんとかしなければと思い、世凪が立ち上がった。
「それは、僕が提案しているメニューのひとつです」
「……どういうことだ?」
 更に低い声と鋭い視線が世凪を射る。心臓がぎゅっとしぼんだような恐怖を感じたが、世凪は大きく呼吸をしてから口を開いた。
「僕は栄養学を学んだ経験があります。そうじゃなくても、肉とパンだけの食事は決して健康的とは言えないです。レミのように小さい子なら尚更……なので、僕が厨房の人たちに頼んで変えてもらいました」
「……今日、このメニューにして欲しいと言ったのは俺です。レミは最近怪我をしていないんです。食事の量も増えて、体調も崩してません。世凪の提案したメニューに変えてからです。世凪はきっとこの国を変える力を持っています」
 世凪の言葉を援護するように話してくれたのはアドウェルだった。きっと、今日このメニューにするように言ったのもアドウェルなのだろう。
 二人の言葉を聞いた国王がしばし黙り込む。
「……レミ、世凪のメニューと今までのメニュー、どちらが好きだ?」
 国王がレミウェルに視線を向ける。レミウェルはその言葉を受けて少しだけ首を傾げると、かあさまの! と笑顔を向けた。
「色んな味がして好きです。父さまにも食べてもらいたかったんです」
 レミウェルの言葉を聞いた国王は世凪に視線を移した。特別険しい表情をしているわけではないのに、その圧を感じて背筋が凍る。
 自分の考えを否定されることに怒りを覚える人だと、以前使用人から聞いていた。だからこそ、こっそりとメニューを変えていたのだが、アドウェルがこうして国王に同じメニューを出すということは、何か勝算があるのだろう。今の世凪はそれを信じるしかなかった。
 世凪がちらりとアドウェルに視線を向けると、その目が合う。まっすぐで力強いその目が世凪の背中を支えてくれているようだった。
「……確かに、久々に見たレミの顔色はとても良かった。それにレミがこちらがいいと言っているなら、これからはこういったものも食卓に乗せることを許可する」
 完全にレミウェルのおかげではあるが、上手くいったことに世凪はほっとして小さく息を吐いた。そんな世凪に国王が視線を向ける。
「レミに『かあさま』と呼ばれて情でも湧いたか」
「もちろん、レミは可愛いですが……初めて以前の食事を出された時に、毎食それを食べている人たちのことが心配になりました。当然、国王様もです」
 本当のことを言えば、大人などどうでもいいと思っている。食べたいものを食べる、それも大人の権利であると同時に責任だと思っているからだ。ただ、アドウェルが世凪を擁護してくれているので、国王のことを無下に扱うことはできない。
「なるほど……では、食事も検討しよう。明日からはここで世凪も夕食をとるように……いずれ家族になるのだから」
 最後の言葉に何かよくない含みを感じ、世凪の背中がすうっと冷えていく。フェルジェの嘲るような笑顔も少し怖くて、世凪は、はい、と返事だけをして席に着いた。
 いずれ家族に、という言葉が引っかかったが今ここで聞くべきことではないだろうと思い、世凪は黙って食事を始めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

給餌行為が求愛行動だってなんで誰も教えてくれなかったんだ!

永川さき
BL
 魔術教師で平民のマテウス・アージェルは、元教え子で現同僚のアイザック・ウェルズリー子爵と毎日食堂で昼食をともにしている。  ただ、その食事風景は特殊なもので……。  元教え子のスパダリ魔術教師×未亡人で成人した子持ちのおっさん魔術教師  まー様企画の「おっさん受けBL企画」参加作品です。  他サイトにも掲載しています。

勇者になるのを断ったらなぜか敵国の騎士団長に溺愛されました

BL
「勇者様!この国を勝利にお導きください!」 え?勇者って誰のこと? 突如勇者として召喚された俺。 いや、でも勇者ってチート能力持ってるやつのことでしょう? 俺、女神様からそんな能力もらってませんよ?人違いじゃないですか?

【完結】※セーブポイントに入って一汁三菜の夕飯を頂いた勇者くんは体力が全回復します。

きのこいもむし
BL
ある日突然セーブポイントになってしまった自宅のクローゼットからダンジョン攻略中の勇者くんが出てきたので、一汁三菜の夕飯を作って一緒に食べようねみたいなお料理BLです。 自炊に目覚めた独身フリーターのアラサー男子(27)が、セーブポイントの中に入ると体力が全回復するタイプの勇者くん(19)を餌付けしてそれを肴に旨い酒を飲むだけの逆異世界転移もの。 食いしん坊わんこのローグライク系勇者×料理好きのセーブポイント系平凡受けの超ほんわかした感じの話です。

【完結】おじさんダンジョン配信者ですが、S級探索者の騎士を助けたら妙に懐かれてしまいました

大河
BL
世界を変えた「ダンジョン」出現から30年── かつて一線で活躍した元探索者・レイジ(42)は、今や東京の片隅で地味な初心者向け配信を続ける"おじさん配信者"。安物機材、スポンサーゼロ、視聴者数も控えめ。華やかな人気配信者とは対照的だが、その真摯な解説は密かに「信頼できる初心者向け動画」として評価されていた。 そんな平穏な日常が一変する。ダンジョン中層に災厄級モンスターが突如出現、人気配信パーティが全滅の危機に!迷わず単身で救助に向かうレイジ。絶体絶命のピンチを救ったのは、国家直属のS級騎士・ソウマだった。 冷静沈着、美形かつ最強。誰もが憧れる騎士の青年は、なぜかレイジを見た瞬間に顔を赤らめて……? 若き美貌の騎士×地味なおじさん配信者のバディが織りなす、年の差、立場の差、すべてを越えて始まる予想外の恋の物語。

捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~

水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。 死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!? 「こんなところで寝られるか!」 極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く! ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。 すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……? 「……貴様、私を堕落させる気か」 (※いいえ、ただ快適に寝たいだけです) 殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。 捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!

《本編 完結 続編 完結》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。

かざみはら まなか
BL
24歳の英雄公爵✕29歳の日本に帰りたい異世界転移した青年

異世界転移してΩになった俺(アラフォーリーマン)、庇護欲高めα騎士に身も心も溶かされる

ヨドミ
BL
もし生まれ変わったら、俺は思う存分甘やかされたい――。 アラフォーリーマン(社畜)である福沢裕介は、通勤途中、事故により異世界へ転移してしまう。 異世界ローリア王国皇太子の花嫁として召喚されたが、転移して早々、【災厄のΩ】と告げられ殺されそうになる。 【災厄のΩ】、それは複数のαを番にすることができるΩのことだった――。 αがハーレムを築くのが常識とされる異世界では、【災厄のΩ】は忌むべき存在。 負の烙印を押された裕介は、間一髪、銀髪のα騎士ジェイドに助けられ、彼の庇護のもと、騎士団施設で居候することに。 「αがΩを守るのは当然だ」とジェイドは裕介の世話を焼くようになって――。 庇護欲高め騎士(α)と甘やかされたいけどプライドが邪魔をして素直になれない中年リーマン(Ω)のすれ違いラブファンタジー。 ※Rシーンには♡マークをつけます。

【本編完結】最強魔導騎士は、騎士団長に頭を撫でて欲しい【番外編あり】

ゆらり
BL
 帝国の侵略から国境を守る、レゲムアーク皇国第一魔導騎士団の駐屯地に派遣された、新人の魔導騎士ネウクレア。  着任当日に勃発した砲撃防衛戦で、彼は敵の砲撃部隊を単独で壊滅に追いやった。  凄まじい能力を持つ彼を部下として迎え入れた騎士団長セディウスは、研究機関育ちであるネウクレアの独特な言動に戸惑いながらも、全身鎧の下に隠された……どこか歪ではあるが、純粋無垢であどけない姿に触れたことで、彼に対して強い庇護欲を抱いてしまう。  撫でて、抱きしめて、甘やかしたい。  帝国との全面戦争が迫るなか、ネウクレアへの深い想いと、皇国の守護者たる騎士としての責務の間で、セディウスは葛藤する。  独身なのに父性強めな騎士団長×不憫な生い立ちで情緒薄めな甘えたがり魔導騎士+仲が良すぎる副官コンビ。  甘いだけじゃない、骨太文体でお送りする軍記物BL小説です。番外は日常エピソード中心。ややダーク・ファンタジー寄り。  ※ぼかしなし、本当の意味で全年齢向け。 ★お気に入りやいいね、エールをありがとうございます! お気に召しましたらぜひポチリとお願いします。凄く励みになります!

処理中です...