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「揃ってるな――世凪、改めて紹介するからこちらへ」
国王に呼ばれ、世凪が立ち上がる。その傍へと行くと、ふわりと肩を抱き寄せられた。一気に世凪の肌が粟立つ。これはきっと緊張というより嫌悪だ。
「石丸世凪という。しばらくアドウェルに任せていたが、本日付けで『泉に呼ばれた者』としてここでの暮らしを許可することとした。次の満月には儀式を行い、その後『相性』をみることにする。よいな、フェルジェ」
世凪には国王の言っていることの半分も理解できないが、フェルジェは全てを理解しているようだ。少し怪訝な表情を見せ、国王を見上げた。
「しかし、父上……年齢的には、オレが最良だと思うのですが、本当に相性をみるのですか?」
「当然だろう? ミシェルはもう居ない。いつまでも側室を空にすることもできない」
国王が世凪の肩を更に引き寄せる。強い力に抗えず、益々嫌悪感が増した世凪はぐっと唇を噛み締めた。やっぱり国王の強引な言動や雰囲気は苦手だ。
「……父上、レミがお腹を空かせています。そろそろ食事に」
世凪が足元を見つめじっと耐えていると、そんな声が食堂に響いた。アドウェルの声だ。
それを聞いた国王がレミウェルに視線を向ける。
「父さま、お食事はまだですか?」
アドウェルの言葉に同調したのか、それとも本当にお腹が空いているのかは分からないが、レミウェルが眉を下げてこちらを見つめる。
「ああ、そうだな。すぐに食事にしよう」
レミウェルに優しい笑顔と言葉をかけた国王が世凪から手を離す。世凪は逃げるようにその場から離れ、レミウェルの隣へと戻った。まだ指先が冷えて少し震えている。
「かあさま、大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ。ありがとう、レミ」
レミウェルの下がった眉に触れて微笑むと、その眉がいつも通りに戻る。頷いたレミウェルを見てほっとして前を向くと、テーブルの向こうにいるアドウェルと目が合った。さっきとは違い、優しい表情になっている。きっと、食事にしようと声をかけたのは世凪の為だったのだろう。自分の小さな変化にも気づいてくれていたことがなにより嬉しい。
そんな幸せな気持ちになっていると、傍にメイドが寄り、目の前のテーブルに料理の乗った皿が差し出された。
「これはなんだ?」
その瞬間、そんな低い声が響いた。
これまで当然のようにパンとステーキだけを食べていた国王の目の前にも色鮮やかな温野菜のサラダが差し出されているのだから、当然の反応だろう。メイドが叱られる前になんとかしなければと思い、世凪が立ち上がった。
「それは、僕が提案しているメニューのひとつです」
「……どういうことだ?」
更に低い声と鋭い視線が世凪を射る。心臓がぎゅっとしぼんだような恐怖を感じたが、世凪は大きく呼吸をしてから口を開いた。
「僕は栄養学を学んだ経験があります。そうじゃなくても、肉とパンだけの食事は決して健康的とは言えないです。レミのように小さい子なら尚更……なので、僕が厨房の人たちに頼んで変えてもらいました」
「……今日、このメニューにして欲しいと言ったのは俺です。レミは最近怪我をしていないんです。食事の量も増えて、体調も崩してません。世凪の提案したメニューに変えてからです。世凪はきっとこの国を変える力を持っています」
世凪の言葉を援護するように話してくれたのはアドウェルだった。きっと、今日このメニューにするように言ったのもアドウェルなのだろう。
二人の言葉を聞いた国王がしばし黙り込む。
「……レミ、世凪のメニューと今までのメニュー、どちらが好きだ?」
国王がレミウェルに視線を向ける。レミウェルはその言葉を受けて少しだけ首を傾げると、かあさまの! と笑顔を向けた。
「色んな味がして好きです。父さまにも食べてもらいたかったんです」
レミウェルの言葉を聞いた国王は世凪に視線を移した。特別険しい表情をしているわけではないのに、その圧を感じて背筋が凍る。
自分の考えを否定されることに怒りを覚える人だと、以前使用人から聞いていた。だからこそ、こっそりとメニューを変えていたのだが、アドウェルがこうして国王に同じメニューを出すということは、何か勝算があるのだろう。今の世凪はそれを信じるしかなかった。
世凪がちらりとアドウェルに視線を向けると、その目が合う。まっすぐで力強いその目が世凪の背中を支えてくれているようだった。
「……確かに、久々に見たレミの顔色はとても良かった。それにレミがこちらがいいと言っているなら、これからはこういったものも食卓に乗せることを許可する」
完全にレミウェルのおかげではあるが、上手くいったことに世凪はほっとして小さく息を吐いた。そんな世凪に国王が視線を向ける。
「レミに『かあさま』と呼ばれて情でも湧いたか」
「もちろん、レミは可愛いですが……初めて以前の食事を出された時に、毎食それを食べている人たちのことが心配になりました。当然、国王様もです」
本当のことを言えば、大人などどうでもいいと思っている。食べたいものを食べる、それも大人の権利であると同時に責任だと思っているからだ。ただ、アドウェルが世凪を擁護してくれているので、国王のことを無下に扱うことはできない。
「なるほど……では、食事も検討しよう。明日からはここで世凪も夕食をとるように……いずれ家族になるのだから」
最後の言葉に何かよくない含みを感じ、世凪の背中がすうっと冷えていく。フェルジェの嘲るような笑顔も少し怖くて、世凪は、はい、と返事だけをして席に着いた。
いずれ家族に、という言葉が引っかかったが今ここで聞くべきことではないだろうと思い、世凪は黙って食事を始めた。
国王に呼ばれ、世凪が立ち上がる。その傍へと行くと、ふわりと肩を抱き寄せられた。一気に世凪の肌が粟立つ。これはきっと緊張というより嫌悪だ。
「石丸世凪という。しばらくアドウェルに任せていたが、本日付けで『泉に呼ばれた者』としてここでの暮らしを許可することとした。次の満月には儀式を行い、その後『相性』をみることにする。よいな、フェルジェ」
世凪には国王の言っていることの半分も理解できないが、フェルジェは全てを理解しているようだ。少し怪訝な表情を見せ、国王を見上げた。
「しかし、父上……年齢的には、オレが最良だと思うのですが、本当に相性をみるのですか?」
「当然だろう? ミシェルはもう居ない。いつまでも側室を空にすることもできない」
国王が世凪の肩を更に引き寄せる。強い力に抗えず、益々嫌悪感が増した世凪はぐっと唇を噛み締めた。やっぱり国王の強引な言動や雰囲気は苦手だ。
「……父上、レミがお腹を空かせています。そろそろ食事に」
世凪が足元を見つめじっと耐えていると、そんな声が食堂に響いた。アドウェルの声だ。
それを聞いた国王がレミウェルに視線を向ける。
「父さま、お食事はまだですか?」
アドウェルの言葉に同調したのか、それとも本当にお腹が空いているのかは分からないが、レミウェルが眉を下げてこちらを見つめる。
「ああ、そうだな。すぐに食事にしよう」
レミウェルに優しい笑顔と言葉をかけた国王が世凪から手を離す。世凪は逃げるようにその場から離れ、レミウェルの隣へと戻った。まだ指先が冷えて少し震えている。
「かあさま、大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ。ありがとう、レミ」
レミウェルの下がった眉に触れて微笑むと、その眉がいつも通りに戻る。頷いたレミウェルを見てほっとして前を向くと、テーブルの向こうにいるアドウェルと目が合った。さっきとは違い、優しい表情になっている。きっと、食事にしようと声をかけたのは世凪の為だったのだろう。自分の小さな変化にも気づいてくれていたことがなにより嬉しい。
そんな幸せな気持ちになっていると、傍にメイドが寄り、目の前のテーブルに料理の乗った皿が差し出された。
「これはなんだ?」
その瞬間、そんな低い声が響いた。
これまで当然のようにパンとステーキだけを食べていた国王の目の前にも色鮮やかな温野菜のサラダが差し出されているのだから、当然の反応だろう。メイドが叱られる前になんとかしなければと思い、世凪が立ち上がった。
「それは、僕が提案しているメニューのひとつです」
「……どういうことだ?」
更に低い声と鋭い視線が世凪を射る。心臓がぎゅっとしぼんだような恐怖を感じたが、世凪は大きく呼吸をしてから口を開いた。
「僕は栄養学を学んだ経験があります。そうじゃなくても、肉とパンだけの食事は決して健康的とは言えないです。レミのように小さい子なら尚更……なので、僕が厨房の人たちに頼んで変えてもらいました」
「……今日、このメニューにして欲しいと言ったのは俺です。レミは最近怪我をしていないんです。食事の量も増えて、体調も崩してません。世凪の提案したメニューに変えてからです。世凪はきっとこの国を変える力を持っています」
世凪の言葉を援護するように話してくれたのはアドウェルだった。きっと、今日このメニューにするように言ったのもアドウェルなのだろう。
二人の言葉を聞いた国王がしばし黙り込む。
「……レミ、世凪のメニューと今までのメニュー、どちらが好きだ?」
国王がレミウェルに視線を向ける。レミウェルはその言葉を受けて少しだけ首を傾げると、かあさまの! と笑顔を向けた。
「色んな味がして好きです。父さまにも食べてもらいたかったんです」
レミウェルの言葉を聞いた国王は世凪に視線を移した。特別険しい表情をしているわけではないのに、その圧を感じて背筋が凍る。
自分の考えを否定されることに怒りを覚える人だと、以前使用人から聞いていた。だからこそ、こっそりとメニューを変えていたのだが、アドウェルがこうして国王に同じメニューを出すということは、何か勝算があるのだろう。今の世凪はそれを信じるしかなかった。
世凪がちらりとアドウェルに視線を向けると、その目が合う。まっすぐで力強いその目が世凪の背中を支えてくれているようだった。
「……確かに、久々に見たレミの顔色はとても良かった。それにレミがこちらがいいと言っているなら、これからはこういったものも食卓に乗せることを許可する」
完全にレミウェルのおかげではあるが、上手くいったことに世凪はほっとして小さく息を吐いた。そんな世凪に国王が視線を向ける。
「レミに『かあさま』と呼ばれて情でも湧いたか」
「もちろん、レミは可愛いですが……初めて以前の食事を出された時に、毎食それを食べている人たちのことが心配になりました。当然、国王様もです」
本当のことを言えば、大人などどうでもいいと思っている。食べたいものを食べる、それも大人の権利であると同時に責任だと思っているからだ。ただ、アドウェルが世凪を擁護してくれているので、国王のことを無下に扱うことはできない。
「なるほど……では、食事も検討しよう。明日からはここで世凪も夕食をとるように……いずれ家族になるのだから」
最後の言葉に何かよくない含みを感じ、世凪の背中がすうっと冷えていく。フェルジェの嘲るような笑顔も少し怖くて、世凪は、はい、と返事だけをして席に着いた。
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