天使のような子の怪我の手当てをしたら氷の王子に懐かれました

藤吉めぐみ

文字の大きさ
45 / 73

13-2

しおりを挟む

 その日の夜、いつもなら一人で訪ねてくるアドウェルが、使用人と共に世凪の部屋にやってきた。誰かを連れて歩いているのはいつものことなのだが、部屋の中まで入ってくるのは稀だったので、よほど大事な用事なのかと思い、世凪は座っていたソファから立ち上がった。
「もう、儀式について誰かから聞いたか? 世凪」
 世凪の背中に手を廻し、アドウェルが世凪をソファへと座らせる。同時に隣に座ったアドウェルだったが、使用人に、アドウェル様、と小さく咎められ、アドウェルは世凪から少し距離を取って座り直した。やっぱりいつもと様子が違う。
「リゲルさんからざっくりと……決まり事とはいえ、僕は納得していませんが」
「そう言うだろうなと思っていた」
 アドウェルが世凪の言葉を聞いて小さく笑う。それから表情を戻してまっすぐに世凪を見つめた。
「二週間後の満月の夜に、洗礼が行われる。それから一週間世凪の療養を経て、その後フェルジェと国王、それぞれとの相性をみることになっている。婚姻の儀は早ければその翌週だ」
 アドウェルがこれから世凪にまっていることをゆっくりと説明してくれる。けれど、それはほとんど頭に入ってこなかった。やっぱりこれは決定事項になっているのだろう。世凪がどれだけ嫌だと言っても変わらないのかもしれない。
「だから……俺とこうして会えるのは、あと二週間だけだ。さらに言えば、もう二人きりで会うことはできない」
「……え?」
 アドウェルの言葉が信じられず、世凪が思わずアドウェルに詰め寄る。するとその分アドウェルは距離を取った。
「世凪の婚姻相手の候補に俺は入っていない。俺はいずれ王宮を出ていく立場だから、『縁の泉』から来た者と結ばれることはない。だからこれ以上世凪の傍に居ることはできないんだ」
 アドウェルが眉を下げ、弱い笑みを浮かべる。こんなに辛そうな表情をこれまで見たことはなかった。胸がきゅっと痛みを覚えるのと同時に、世凪の中にひとつの確証が生まれる。
 アドウェルが世凪と会えなくなることを悲しんでくれているのは明らかだ。悲しいということは、アドウェルも世凪のことを憎からず思ってくれているのだろう。
 告げられた現実は悲しいけれど、それだけは嬉しかった。
「アド王子と僕の間に何かあっては困るから、という配慮なのは分かります。でも、二週間は会えるんですよね」
「他に人がいて、距離もこのくらい離れてしまうが、会うことはできる」
 そう言われて世凪は部屋の壁際に立っている使用人の男性に視線を向けた。遠くを見ていて目が合うことはないが、視界の端には常にアドウェルと世凪がいるのだろう。触れようとすればきっとさっきのように咎められる。本当に会うことしかできないのだと思った。
「だったら……アド王子のお休みを一日僕にいただくことはできませんか?」
「それは構わないが……何かしたいことがあるのか?」
「アド王子と過ごしたいだけです。できれば城の外に出たいですが、無理ならどこでも構いません」
 もうこの恋は叶わないと分かっている。思うだけは自由、とはいえこの先どうしても他の誰かと交わり、好きでもない人の子を産み育てなければいけないのだとしたら、せめて思い出が欲しかった。辛くなったら時々取り出して浸れるくらい、幸せな思い出が欲しい。
「……分かった。調整してみよう。護衛が増えることにはなるが街へ行けるかもしれない」
「本当ですか? それは楽しみです」
 最初で最後のデート。それが叶うだけでも嬉しい。見たことのない街並みをアドウェルと歩けるだけでもきっと一生分の幸せを得られるだろう。
 世凪が微笑むと、アドウェルが優しく頷いた。
「予定が決まったらまた話しに来る。その時に何をするか決めよう」
「はい!」
 きっと二週間なんてあっという間だ。でも、その後のことはその時にまた考えればいい。今はただ、アドウェルと過ごせる時間を大事にしたいと思った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

給餌行為が求愛行動だってなんで誰も教えてくれなかったんだ!

永川さき
BL
 魔術教師で平民のマテウス・アージェルは、元教え子で現同僚のアイザック・ウェルズリー子爵と毎日食堂で昼食をともにしている。  ただ、その食事風景は特殊なもので……。  元教え子のスパダリ魔術教師×未亡人で成人した子持ちのおっさん魔術教師  まー様企画の「おっさん受けBL企画」参加作品です。  他サイトにも掲載しています。

勇者になるのを断ったらなぜか敵国の騎士団長に溺愛されました

BL
「勇者様!この国を勝利にお導きください!」 え?勇者って誰のこと? 突如勇者として召喚された俺。 いや、でも勇者ってチート能力持ってるやつのことでしょう? 俺、女神様からそんな能力もらってませんよ?人違いじゃないですか?

【完結】※セーブポイントに入って一汁三菜の夕飯を頂いた勇者くんは体力が全回復します。

きのこいもむし
BL
ある日突然セーブポイントになってしまった自宅のクローゼットからダンジョン攻略中の勇者くんが出てきたので、一汁三菜の夕飯を作って一緒に食べようねみたいなお料理BLです。 自炊に目覚めた独身フリーターのアラサー男子(27)が、セーブポイントの中に入ると体力が全回復するタイプの勇者くん(19)を餌付けしてそれを肴に旨い酒を飲むだけの逆異世界転移もの。 食いしん坊わんこのローグライク系勇者×料理好きのセーブポイント系平凡受けの超ほんわかした感じの話です。

【完結】おじさんダンジョン配信者ですが、S級探索者の騎士を助けたら妙に懐かれてしまいました

大河
BL
世界を変えた「ダンジョン」出現から30年── かつて一線で活躍した元探索者・レイジ(42)は、今や東京の片隅で地味な初心者向け配信を続ける"おじさん配信者"。安物機材、スポンサーゼロ、視聴者数も控えめ。華やかな人気配信者とは対照的だが、その真摯な解説は密かに「信頼できる初心者向け動画」として評価されていた。 そんな平穏な日常が一変する。ダンジョン中層に災厄級モンスターが突如出現、人気配信パーティが全滅の危機に!迷わず単身で救助に向かうレイジ。絶体絶命のピンチを救ったのは、国家直属のS級騎士・ソウマだった。 冷静沈着、美形かつ最強。誰もが憧れる騎士の青年は、なぜかレイジを見た瞬間に顔を赤らめて……? 若き美貌の騎士×地味なおじさん配信者のバディが織りなす、年の差、立場の差、すべてを越えて始まる予想外の恋の物語。

捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~

水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。 死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!? 「こんなところで寝られるか!」 極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く! ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。 すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……? 「……貴様、私を堕落させる気か」 (※いいえ、ただ快適に寝たいだけです) 殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。 捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!

《本編 完結 続編 完結》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。

かざみはら まなか
BL
24歳の英雄公爵✕29歳の日本に帰りたい異世界転移した青年

異世界転移してΩになった俺(アラフォーリーマン)、庇護欲高めα騎士に身も心も溶かされる

ヨドミ
BL
もし生まれ変わったら、俺は思う存分甘やかされたい――。 アラフォーリーマン(社畜)である福沢裕介は、通勤途中、事故により異世界へ転移してしまう。 異世界ローリア王国皇太子の花嫁として召喚されたが、転移して早々、【災厄のΩ】と告げられ殺されそうになる。 【災厄のΩ】、それは複数のαを番にすることができるΩのことだった――。 αがハーレムを築くのが常識とされる異世界では、【災厄のΩ】は忌むべき存在。 負の烙印を押された裕介は、間一髪、銀髪のα騎士ジェイドに助けられ、彼の庇護のもと、騎士団施設で居候することに。 「αがΩを守るのは当然だ」とジェイドは裕介の世話を焼くようになって――。 庇護欲高め騎士(α)と甘やかされたいけどプライドが邪魔をして素直になれない中年リーマン(Ω)のすれ違いラブファンタジー。 ※Rシーンには♡マークをつけます。

【本編完結】最強魔導騎士は、騎士団長に頭を撫でて欲しい【番外編あり】

ゆらり
BL
 帝国の侵略から国境を守る、レゲムアーク皇国第一魔導騎士団の駐屯地に派遣された、新人の魔導騎士ネウクレア。  着任当日に勃発した砲撃防衛戦で、彼は敵の砲撃部隊を単独で壊滅に追いやった。  凄まじい能力を持つ彼を部下として迎え入れた騎士団長セディウスは、研究機関育ちであるネウクレアの独特な言動に戸惑いながらも、全身鎧の下に隠された……どこか歪ではあるが、純粋無垢であどけない姿に触れたことで、彼に対して強い庇護欲を抱いてしまう。  撫でて、抱きしめて、甘やかしたい。  帝国との全面戦争が迫るなか、ネウクレアへの深い想いと、皇国の守護者たる騎士としての責務の間で、セディウスは葛藤する。  独身なのに父性強めな騎士団長×不憫な生い立ちで情緒薄めな甘えたがり魔導騎士+仲が良すぎる副官コンビ。  甘いだけじゃない、骨太文体でお送りする軍記物BL小説です。番外は日常エピソード中心。ややダーク・ファンタジー寄り。  ※ぼかしなし、本当の意味で全年齢向け。 ★お気に入りやいいね、エールをありがとうございます! お気に召しましたらぜひポチリとお願いします。凄く励みになります!

処理中です...