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しおりを挟む「……それでは聞いてください。『僕はここでは無職です』」
「……ですねえ」
「というか、存在自体がお仕事という感じがしますけど」
リゲルとマリアが世凪の言葉に眉を下げて微笑む。それから、それがどうかしましたか? と優しくリゲルが聞いた。
いつもと変わらないリゲルの執務室で、今日も世凪はリゲルとマリアを相手に愚痴を零している。相談に来る人たちは増えたものの、怪我や病気が減ったのですごく忙しいということはなかった。なのでこんなふうに二人に話を聞いてもらえたりする。
「今度、アド王子と街まで出掛けることになったんですが……その時、アド王子にプレゼントを買いたいと思ったんです。でも今の僕、なんでも支給してもらえる代わりに金銭は全く持ってない事に気づいて……」
今のところ世凪は仕事らしい仕事をしていないのだから、衣食住を与えられているだけでもありがたいことなのだろうけれど、外で何かを手に入れるにはやはり対価が必要だろう。
「世凪様なら、城に請求して、と言えばなんでも買えそうですが、そういうことではないんですよね」
プレゼントという話をしたからだろう、リゲルが世凪の気持ちを理解して微笑む。世凪はそれに頷いた。
「僕が贈りたいので、やはり僕のお金で買いたいんです」
「その気持ちは分かりますし、私もお給金を出せたらいいのですが……あいにく私も世凪様と同じ境遇なので」
どうやらリゲルも現物支給という形で生活しているようだった。リゲルの場合城から出ることが出来ないから、それで不便な事はないのだろう。きっとこの先の世凪も同じようなものだ。ただ、今だけは現物ではないものが欲しい。
「だったら、私がお貸ししましょうか? 私たちはお給金を頂いてるので」
マリアが二人のやりとりを見てそう進言する。けれど世凪はそれに首を振った。
「気持ちはとても嬉しいけど、返せる当てがないから」
世凪がそれを断ると、不意に部屋のドアが開き、あの、という控えめな声が届いた。
「立ち聞きをするつもりはなかったんですが……」
そう言いながらドアを開けてこちらに入ってきたのは、いつか相談を受けたメイドだった。その後ろには衛兵の男性もいる。
「外に響くまで騒いでしまってごめん……でも、気にしないで忘れていいから」
今日はどうしたの? と世凪が気持ちを切り替え、仕事モードになる。するとメイドの女性が口を開いた。
「実は……私たち、お付き合いを始めたんです。きっかけは世凪様に話を聞いてもらったからで……だから、私たちお礼がしたくてここまで来たんですが、よかったら私たちから相談料を受け取ってもらえませんか?」
「相談料?」
メイドの言葉に世凪が首を傾げると今度は衛兵が言葉を返した。
「金額はささやかになってしまうんですが、ドアの前で聞いていて二人とも世凪様のお気持ちに感動したので、どうか僕らに相談料として協力させてもらえませんか?」
その気持ちはとても嬉しかった。二人が世凪のためになればと厚意で言ってくれているのも分かる。
「でも、ここは無償でってことになってるからなあ……」
さすがに城の中で商売をするわけにはいかないので、あくまでもボランティア、もっといえば世凪の暇つぶしで保健室の真似事をしているのだ。しかもノリノリで聞いた恋バナに相談料を貰うなんて、飲食店で美味しいご飯を食べてお金をもらってくるようなものだ。
「確かにそうですね。でも、お礼の手紙を受け取ることはできますよ。封筒の中に入っているものが本当に手紙だけかなんて、渡した方と受け取った方しかわかりませんが」
うーん、と頭を悩ませていると、後ろからリゲルの言葉が響いた。それを聞いて世凪が怪訝な顔で振り返る。
「それ、僕の国では『黄金色のお菓子』っていうやつで、悪い大人の考えることですよ、リゲルさん」
「でも、この場合は世凪様の正当な報酬ですからね」
リゲルが優しく微笑み、マリアも、いいと思います、とリゲルに加勢する。世凪は少し悩んだが二人の言葉に背中を押され頷いた。
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