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「アド王子?」
「こんな大事な物、世凪から貰うのではなく、俺が渡したかった」
ため息をついて少し拗ねたような顔をするアドウェルは年相応であどけなくも見える。世凪はそんなアドウェルも好きだなと思いながらその顔を見上げていると、アドウェルが再び口を開いた。
「世凪の分を出して」
アドウェルに手を差し出され、世凪は持っていた箱を手渡した。アドウェルが中の指輪を取り出す。
「右手を出して」
「右、ですか?」
一人でこっそり左手の薬指にしようと思っていたのだが、右とアドウェルに言われてしまっては右手を出すしかできない。
左手の薬指にはめる指輪を誰から貰うかはもう二択しかないからなのだろうと分かったが、少し胸が痛い。
それでも仕方なく、世凪が右手を差し出した。アドウェルがそれを優しく掴み、薬指に先ほど買った指輪をはめる。太陽の光でキラキラと輝く青いガラスはアドウェルの瞳に似ていた。
「世凪も俺に付けてくれないか」
アドウェルが世凪に指輪を差し出す。世凪は頷いてアドウェルの右手を取った。するとアドウェルが、こちらだ、と左手の手袋を外してこちらに差し出した。
「え……いや、そういうわけには……」
「俺は、この先この指に一切指輪をする気はない……世凪と揃いのこの指輪以外」
それはまるで告白のようだった。いや、アドウェルの精一杯の告白で違いないのだろう。ただ『好き』という気持ちを言葉にできる立場ではないから、これしか言えないのだ。世凪も同じ気持ちだから、その言葉が本当に嬉しかった。
視界が潤んでぼやけていく。
「そんなこと、言わないでください……こんなチープな指輪じゃなくて、いつかはもっと素敵な指輪をつけて、幸せになってください」
世凪がゆっくりとアドウェルの指に指輪を付ける。その長い指に雫が落ちた。
「あ、ごめんなさい……せっかくアド王子と居るのに、泣くとか失礼ですよね」
頬を伝う涙を世凪が笑いながら自身で拭うと、その手をアドウェルが取る。それからアドウェルの指が頬に触れ、残っていた雫を拭ってくれた。
「世凪は泣き顔もキレイだ。どんな表情の世凪も俺にとっては宝物だ」
そんなことを言われたら世凪の瞳はまた潤んでしまった。
もう溢れ出してしまいそうなほど大きく育ってしまったこの気持ちを心の中に溜めておくことはできない。
「好き……あなたが好きです、アド王子」
世凪が思わずその言葉を零してしまったその時だった。世凪の肩が誰かに掴まれる。同時にアドウェルも護衛の男性に肩を掴まれていた。
「これ以上は一緒にお過ごしにはなれません。ご容赦ください」
振り返ると護衛の一人が眉を下げて世凪の肩を支えていた。それだけで世凪は状況を理解した。
世凪が告げた言葉は終わりの呪文だったのだ。こちらに来て一番世話になった人と最後のお出かけならば、護衛も多少目をつぶっていたのだろう。毎日一緒にいたのだから、『いい友達』になっていて当然だし、エスコートとして傍に居るのは不自然ではない。
でもこれが『デート』なら、恋愛感情を伴っているのなら、許されることではない。
「まだ、日も落ちてません……! 一日っていう約束なのに」
「申し訳ありません、世凪様。世凪様のお気持ちが分かるからこそ、ここで別れるのがお互いにとって最良なのです。どうか、アドウェル様のことはお忘れになってください」
そんな言葉を聞きながらアドウェルを見ると、彼も悔しそうな顔でこちらを見ていた。このままもう会えなくなってしまうのか――そう思うとまた涙が溢れてくる。
「世凪」
下を向きかけた世凪にアドウェルの声がかかる。顔を上げるがアドウェルは何も話さなかった。ただ、唇だけが動く。
『好きだ』
そう形どられた気がして世凪が驚いてアドウェルを見つめる。アドウェルは笑顔で頷くと、護衛の腕を解き、自分で世凪に背を向けて歩き出した。
勘違いか、自分の希望でそう読み取れただけかもしれない。それでも、この一瞬だけでも気持ちが通じたと思えるだけで、今の世凪には十分だった。
世凪は去っていくアドウェルの背中を見送りながら両足に力を入れて頬を拭った。
「……取り乱してすみません。もう、大丈夫です」
帰りましょう、と護衛の男性に告げると、彼は少し眉を下げて小さく息を吐いた。
「はい、世凪様。この決断があなたの幸せに繋がることを、私も願っています」
「うん、ありがとう」
世凪が少しだけ微笑み、歩き出す。護衛がその傍を歩き、口を開いた。
「あちらの通りに馬車をご用意しています。私は馬で並走しますので、車内は世凪様お一人です。城に着いたら誰にも会わないようにお部屋までご案内いたします」
護衛がそっとハンカチを世凪に差し出す。
城に着くまでの間なら、泣きたいだけ泣いていいということだろう。世凪がどれだけ苦しい思いで冷静さを保っているのかを察してくれたのだろう。
「……ありがとう……これは遠慮なく借ります」
世凪がハンカチを受け取る。護衛は小さく頷いてから、参りましょう、と世凪を促した。
「こんな大事な物、世凪から貰うのではなく、俺が渡したかった」
ため息をついて少し拗ねたような顔をするアドウェルは年相応であどけなくも見える。世凪はそんなアドウェルも好きだなと思いながらその顔を見上げていると、アドウェルが再び口を開いた。
「世凪の分を出して」
アドウェルに手を差し出され、世凪は持っていた箱を手渡した。アドウェルが中の指輪を取り出す。
「右手を出して」
「右、ですか?」
一人でこっそり左手の薬指にしようと思っていたのだが、右とアドウェルに言われてしまっては右手を出すしかできない。
左手の薬指にはめる指輪を誰から貰うかはもう二択しかないからなのだろうと分かったが、少し胸が痛い。
それでも仕方なく、世凪が右手を差し出した。アドウェルがそれを優しく掴み、薬指に先ほど買った指輪をはめる。太陽の光でキラキラと輝く青いガラスはアドウェルの瞳に似ていた。
「世凪も俺に付けてくれないか」
アドウェルが世凪に指輪を差し出す。世凪は頷いてアドウェルの右手を取った。するとアドウェルが、こちらだ、と左手の手袋を外してこちらに差し出した。
「え……いや、そういうわけには……」
「俺は、この先この指に一切指輪をする気はない……世凪と揃いのこの指輪以外」
それはまるで告白のようだった。いや、アドウェルの精一杯の告白で違いないのだろう。ただ『好き』という気持ちを言葉にできる立場ではないから、これしか言えないのだ。世凪も同じ気持ちだから、その言葉が本当に嬉しかった。
視界が潤んでぼやけていく。
「そんなこと、言わないでください……こんなチープな指輪じゃなくて、いつかはもっと素敵な指輪をつけて、幸せになってください」
世凪がゆっくりとアドウェルの指に指輪を付ける。その長い指に雫が落ちた。
「あ、ごめんなさい……せっかくアド王子と居るのに、泣くとか失礼ですよね」
頬を伝う涙を世凪が笑いながら自身で拭うと、その手をアドウェルが取る。それからアドウェルの指が頬に触れ、残っていた雫を拭ってくれた。
「世凪は泣き顔もキレイだ。どんな表情の世凪も俺にとっては宝物だ」
そんなことを言われたら世凪の瞳はまた潤んでしまった。
もう溢れ出してしまいそうなほど大きく育ってしまったこの気持ちを心の中に溜めておくことはできない。
「好き……あなたが好きです、アド王子」
世凪が思わずその言葉を零してしまったその時だった。世凪の肩が誰かに掴まれる。同時にアドウェルも護衛の男性に肩を掴まれていた。
「これ以上は一緒にお過ごしにはなれません。ご容赦ください」
振り返ると護衛の一人が眉を下げて世凪の肩を支えていた。それだけで世凪は状況を理解した。
世凪が告げた言葉は終わりの呪文だったのだ。こちらに来て一番世話になった人と最後のお出かけならば、護衛も多少目をつぶっていたのだろう。毎日一緒にいたのだから、『いい友達』になっていて当然だし、エスコートとして傍に居るのは不自然ではない。
でもこれが『デート』なら、恋愛感情を伴っているのなら、許されることではない。
「まだ、日も落ちてません……! 一日っていう約束なのに」
「申し訳ありません、世凪様。世凪様のお気持ちが分かるからこそ、ここで別れるのがお互いにとって最良なのです。どうか、アドウェル様のことはお忘れになってください」
そんな言葉を聞きながらアドウェルを見ると、彼も悔しそうな顔でこちらを見ていた。このままもう会えなくなってしまうのか――そう思うとまた涙が溢れてくる。
「世凪」
下を向きかけた世凪にアドウェルの声がかかる。顔を上げるがアドウェルは何も話さなかった。ただ、唇だけが動く。
『好きだ』
そう形どられた気がして世凪が驚いてアドウェルを見つめる。アドウェルは笑顔で頷くと、護衛の腕を解き、自分で世凪に背を向けて歩き出した。
勘違いか、自分の希望でそう読み取れただけかもしれない。それでも、この一瞬だけでも気持ちが通じたと思えるだけで、今の世凪には十分だった。
世凪は去っていくアドウェルの背中を見送りながら両足に力を入れて頬を拭った。
「……取り乱してすみません。もう、大丈夫です」
帰りましょう、と護衛の男性に告げると、彼は少し眉を下げて小さく息を吐いた。
「はい、世凪様。この決断があなたの幸せに繋がることを、私も願っています」
「うん、ありがとう」
世凪が少しだけ微笑み、歩き出す。護衛がその傍を歩き、口を開いた。
「あちらの通りに馬車をご用意しています。私は馬で並走しますので、車内は世凪様お一人です。城に着いたら誰にも会わないようにお部屋までご案内いたします」
護衛がそっとハンカチを世凪に差し出す。
城に着くまでの間なら、泣きたいだけ泣いていいということだろう。世凪がどれだけ苦しい思いで冷静さを保っているのかを察してくれたのだろう。
「……ありがとう……これは遠慮なく借ります」
世凪がハンカチを受け取る。護衛は小さく頷いてから、参りましょう、と世凪を促した。
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