天使のような子の怪我の手当てをしたら氷の王子に懐かれました

藤吉めぐみ

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 その日以降、アドウェルとは本当に会えなくなってしまった。夕飯時に会えるかと思っていたが、アドウェルが同席することはなく、世凪にとってその時間は苦痛以外のなにものでもなくなっていた。今日は国王も仕事で同席していないので、せっかくシェフが世凪の好物を食卓に並べてくれているのに、どうしても胃に入っていかない。
「世凪、また残すつもりか?」
 手元の皿を眺めるだけでカトラリーすら手に取らない世凪を見て、向かいに座っていたフェルジェが声を掛ける。世凪が顔を上げ、すみません、とフォークを取るがやっぱり食べたいと思えない。原因は分かっている。人生の中でこんなに辛い失恋をしたことがなかったから、きっと心が弱っているのだ。死ぬ方がましなのではないかと考えるくらいには世凪の心は傷ついてひとつも回復していなかった。
 そしてそれを慰めてくれる人もいない。
 今の世凪は国王とフェルジェ以外の未婚者と会うことを禁止されていた。レミウェルは例外だが、リゲルやマリアにも会うことはできなかったし、当然保健室の真似事もできていない。
「確かに自分より重い奴は好きではないが、抱き心地が悪くなるほど痩せているのも好みではない。これ以上痩せるな」
 きちんと食え、とフェルジェがため息を吐く。別にフェルジェの好みなんてどうでもいいが、目の前に出された食事は自分が食べなければ捨てられると分かっているので食べなければとは思うのだが、やはり体が受け付けない。
「かあさま……大丈夫?」
 隣で不安そうにこちらを見上げるレミウェルに、世凪が柔らかく微笑む。この子だけには心配させたくなかった。
「うん、大丈夫。昼にお菓子を食べ過ぎたのかも」
「もしかして、ぼくに隠れてたくさん食べた?」
 ここ数日、世凪はレミウェルと遊んでいなかった。ひどく落ち込んで食事もまともにしていない世凪の体調を考慮しているのもあるが、レミウェルが午後も習い事を入れ始めたためだ。おそらく数週間後にあるアドウェルの誕生日か、もしくは婚姻の祝賀会、どちらかの為にマナーやダンスを教えられているのだろう。五歳ならそろそろそういった場所にも顔を出す頃だ。
「ふふ、ごめんね。もしかしたらレミの分も食べちゃったかも。だからこれ以上食べられないみたい」
 世凪はレミウェルに告げるとゆっくりと席を立った。使用人の一人がそんな世凪の傍に寄る。
「食事の途中ですみません……部屋に戻ります」
 世凪が頭を下げてから食堂を後にする。その後を使用人が付いてきた。
「後ほど、何かお飲み物をお持ちしましょう。明日の儀式が不安なのは分かりますが、このままでは倒れてしまいます」
「あ、それもいいかもね。倒れたら儀式もできないだろうし」
「世凪様……」
 心配させているのは分かっている。でもアドウェルと離されたこと、明日自分の体が作り変えられてしまうこと、それにこれからのことを考えると、自分の体がどうなろうとどうでもよくなっていた。死ぬことでで逃げられるならその方がいい。
 でも、とても悲しそうな顔をしている使用人の姿を見るとそんなことを言えなかった。
「冗談です。ホントにこのところお腹が空かなくて。見た目より元気だから心配ないよ。あ、でも持ってきてくれるなら何かフルーツの果汁がいいかな」
 ふふ、と笑うと、使用人が幾分ほっとした顔をして、手配します、と頷いた。

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