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しおりを挟む翌日から、世凪は部屋からの外出を禁じられ、同時に誰との面会もできなくなっていた。いつも世話をしてくれていた男性も役を外されて今はマリアがその役を引き継いでいる。おそらく世凪が儀式を経たことによって子どもを宿せる体になったことになっているからだろう。男性よりは女性の方が世凪の世話に適していると判断されたらしい。
儀式を終えたふりをしたリゲルの疲労困憊という様は名演技だったし、世凪も精一杯気だるげな演技をしたので今のところ儀式をしていないことは誰にもバレていないようだった。
これで一週間は考える時間が出来た。それは良かったが、どのみち一週間後には答えを出さなければいけない。
「城から出てこの世界の一人として暮らすか、元の世界に戻ってまた教師として暮らすか、か……」
もちろんアドウェルの隣で暮らせるのが一番の幸せだ。けれどそれを選択肢に入れられないのは分かっている。だから、世凪は悩んでいた。
この世界にとどまれば、アドウェルに会うことはできなくても、姿を見ることが出来るかもしれない。この国の第二王子なのだから国の祭事などの時は国民の前に出ることもあるだろう。そんな時に遠くから見れたらそれだけで嬉しいと思えるかもしれない。
ただ、その場合はアドウェルの結婚を知って悲しくなることや、フェルジェや国王に見つかって連れ戻されるというリスクもある。
元の世界に戻ればそのリスクはなくなるが、もう二度とアドウェルには会えない。
世凪にとっては、どちらも辛い選択だが、このままここに居て、好きでもない相手と結婚するくらいならどちらかを選んだほうがいいのは明らかだった。
リゲルは朝、マリアと共に様子を見に来てくれたが、今日は一日一人で考えた方がいいでしょう、と特に何か話すこともなく部屋を出ていった。とはいえ、一人で考えても答えは出ない。
世凪が座っていたソファに倒れ込み大きなため息を吐いた、その時だった。
「フェルジェ様! 今はこの部屋は立ち入り禁止です!」
ドアの向こうからそんな声と大きな音がして、世凪が驚いて体を少し起こす。するとすぐに部屋のドアが開き、フェルジェが部屋に入ってきた。その後ろには衛兵が一人立っている。
「世凪、儀式は上手くいったのか? もう孕める体になったか?」
大股でこちらに近づくフェルジェに世凪は怪訝な表情を見せながら、滞りなく、とそっけなく答える。
「どうした? 直接会いに来たというのにそんな態度で……照れているのか?」
「相変わらずめでたい人……」
「ん?」
「いえ、独り言です。僕には一週間休養が必要だと、リゲルさんからお聞きになっているはずです。特別な理由がないのならお引き取り願えますか?」
世凪が体を起こしため息を吐いてフェルジェを見上げる。今度はフェルジェが怪訝な顔をした。
「オレが会いに来たのに嬉しくないのか?」
「……あなたが僕の旦那様と決まったわけではありません。それに嬉しいと思うほど、あなたのことを存じ上げておりませんので」
また相手の気持ちを決めつけるような発言をするので、世凪は思わずはっきりと今の気持ちを伝えてしまった。勘違いされたままなのはやっぱり嫌だったのだ。
「……なるほど、一理ある。では、もっと深く知り合おう」
フェルジェが口の端を引き上げ、世凪の隣に勝手に座る。それから肩に手を伸ばした。
「いけません、フェルジェ様!」
けれど突然飛び込んできたその声に、フェルジェの手が止まった。開いたままのドアを見ると、そこには息を切らせたリゲルが立っていた。その後ろには同じように息を切らせた衛兵がいたので、状況を察してすぐにリゲルを呼んできてくれたのだろう。
「今、世凪様に触れてはいけません。儀式は一晩で終わりますが、体の機能を安定させるために一週間必要なのです。今、世凪様に触れてしまったら世凪様の命の保証は出来ません」
リゲルの言葉がとてもリアルに感じたのだろう。フェルジェは差し出していた手を引き、分かった、と意外と素直に頷いた。
その様子を見ていた世凪が小さく息を吐く。
「……フェルジェ様、何も互いを知るのに体に触れることはないと思います。お話をするだけでも分かることは多いです。少し、お話しませんか? もちろん、リゲルさんの同席の元になりますが」
「話、か……まあ、いいだろう」
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