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「ここに父が居たら首が飛ぶぞ、世凪」
「え、この部屋の会話聞かれたりとか……」
フェルジェに言われ慌てて世凪が周りを見渡すがリゲルがいるだけで変わったところはない。
「そんなことさせるか。ただ、世凪の見解はおそらく正しい。オレはずっと父から愛情を貰えないことが辛かったんだと思う。それで弟に当たるとか、まあ、今考えると恥ずかしいな」
フェルジェがふいに視線を逸らす。その頬が赤くなっているのを見ると、きっと初めて他人から指摘されたのだろう。もしかしたらこうして自分のもやもやした気持ちと向き合うのも初めてなのかもしれない。
「フェルジェ様自身でも苛立ちの正体が分からなかったのかもしれませんよ」
「確かに……父に対する思いなど、考えたこともなかった。あの人の考えていることを知ろうともしていなかったから。でも……自分が結婚をしてから初めて父のことを理解した。オレの母と父、そしてオレと妻は政略結婚だ。加えてオレたちは白い結婚でもある」
好きだという感情を持つ前に関係だけが結ばれる契約のようなものなのだろう。相手の立場は分からないが、政治的意味合いが強いのは明らかだ。だから夫婦としての関係を持たない、白い結婚であることも十分に考えられることではあった。
「だから、本当に好ましいと思った相手と本当の意味での夫婦生活をしたいと思うのは当然だと思う。父にとってのミシェルがそれだったように、オレにとっては世凪だ。だから、父ではなく、オレを選んで欲しい」
言っていることが分からないわけではない。けれどそれに世凪が頷くことはできなかった。
「……僕がフェルジェ様を選んだとしても、僕も白い結婚を要求します。僕には、他に好きな人がいるので」
「だったらそいつを殺してくるから、誰か教えろ」
そうすれば未練はないだろう、とフェルジェが低い声で告げる。その瞳の奥に深い闇を見た世凪が首を振った。
「どんなことをされてもお教えしません。それよりも、フェルジェ様は奥様との関係を変えるべきです。白い結婚を撤回することはできないんですか?」
「それは……というか、世凪にそんなことを話しても仕方ないだろう」
「僕がリゲルさんの執務室で使用人たちの相談を受けていたことはご存じないんですか? 僕、話を聞くの得意なんです」
世凪がフェルジェに微笑みかけると、フェルジェがしばらく考えてからゆっくりと口を開いた。
「……もう結婚して一年だ。顔を合わせるのは晩餐の時だけ、会話もほぼないのに、いまさらどうしろと……向こうだってオレには興味ないはずだからいい」
嘲るように小さく鼻を鳴らしたフェルジェが世凪から視線を逸らす。その態度だけで、世凪の好きな人を殺すなんて微塵も考えていないこと、本当は妻との関係を気にしていることが分かった。
高校生の相談を受けていた時も、ケンカしてる友達に対して『あいつだって俺のことが嫌いなはずだからもういいんだ』と言いながら世凪に話すという矛盾した行動をとる生徒がいた。世凪にはそれが『先生どうしよう、助けて』と聞こえていた。
きっとフェルジェも妻との関係を変えたいと思っているのだろう。
「僕にしたような贈り物を奥様にもしてみてはいかがですか? いきなり下着とか媚薬効果のある香炉は若干ひきましたが、お菓子やアクセサリーなどなら、会話のきっかけにもなりますし……僕が思うに、きっと奥様はフェルジェ様のことを好いておいでですよ」
フェルジェの妻には晩餐の時に数回会った程度だが、フェルジェが世凪に興味を向けていることをよく思っていないようだった。きっときっかけさえあれば本来の夫婦になれるような気がする。
「贈り物、か……そういえば結婚指輪以外、オレからは何も贈っていないな。好きな物を買うようには言っているから不自由はさせてないはずだが、たまにはオレが選んだものを贈るか」
「どんなにセンスの悪いものでも、気持ちがあればきっと喜んでくださいますよ」
「……オレのセンスがないと言いたげだな」
「初めての贈り物にピンクの下着を贈る人にセンスがあると思う方が不思議です」
こちらを鋭く眇めた目で見るフェルジェに世凪が呆れたように返す。すると今まで黙っていたリゲルがくすくすと笑い出した。
「失礼しました……フェルジェ様が言い負けているところを初めて拝見したので、つい」
リゲルの言葉に大きな息を吐いたフェルジェはしばらく不機嫌な表情でリゲルを眺めてから世凪に視線を戻した。
「……世凪の言う通りにまずは菓子から贈ってみる。ただ、オレは世凪を側室に入れることを諦めたわけではないからな」
フェルジェはそう言い放つとそのまま立ち上がり部屋のドアへと向かった。その背中はなんだか少しすっきりしたように見えた。
「……よろしいんですか、世凪様。あんなに好感度上げて……絶対諦めませんよ」
フェルジェが部屋を去った後、レゲルは椅子を元の位置に戻しながらため息がちに世凪に告げた。世凪がそれに、大丈夫です、と笑う。
「フェルジェ様は僕にミシェル様を重ねてるだけです。初めは暇つぶしのナンパのようなものだったのかもしれませんが、国王様が僕に執着したから奪いたいだけです。好きとか嫌いとか、そんな感情はないはずですよ」
「これまではそうだったとしても、今日何か変わったかもしれませんよ」
リゲルが世凪の前に立ち、ため息をつく。世凪はそれを見あげて笑った。
「リゲルさん、なんだかお母さんみたいですね」
「世凪様が楽観的過ぎて余計に心配してるだけです」
目を眇め、怪訝な表情になるリゲルに世凪は、違うんです、と微笑んだ。
「ちょっと吹っ切れたというか......フェルジェ様と話をしていて、気持ちが固まったというか」
「それって......」
驚いた表情のリゲルに世凪が微笑む。
「はい。僕、元の世界に帰ります」
「え、この部屋の会話聞かれたりとか……」
フェルジェに言われ慌てて世凪が周りを見渡すがリゲルがいるだけで変わったところはない。
「そんなことさせるか。ただ、世凪の見解はおそらく正しい。オレはずっと父から愛情を貰えないことが辛かったんだと思う。それで弟に当たるとか、まあ、今考えると恥ずかしいな」
フェルジェがふいに視線を逸らす。その頬が赤くなっているのを見ると、きっと初めて他人から指摘されたのだろう。もしかしたらこうして自分のもやもやした気持ちと向き合うのも初めてなのかもしれない。
「フェルジェ様自身でも苛立ちの正体が分からなかったのかもしれませんよ」
「確かに……父に対する思いなど、考えたこともなかった。あの人の考えていることを知ろうともしていなかったから。でも……自分が結婚をしてから初めて父のことを理解した。オレの母と父、そしてオレと妻は政略結婚だ。加えてオレたちは白い結婚でもある」
好きだという感情を持つ前に関係だけが結ばれる契約のようなものなのだろう。相手の立場は分からないが、政治的意味合いが強いのは明らかだ。だから夫婦としての関係を持たない、白い結婚であることも十分に考えられることではあった。
「だから、本当に好ましいと思った相手と本当の意味での夫婦生活をしたいと思うのは当然だと思う。父にとってのミシェルがそれだったように、オレにとっては世凪だ。だから、父ではなく、オレを選んで欲しい」
言っていることが分からないわけではない。けれどそれに世凪が頷くことはできなかった。
「……僕がフェルジェ様を選んだとしても、僕も白い結婚を要求します。僕には、他に好きな人がいるので」
「だったらそいつを殺してくるから、誰か教えろ」
そうすれば未練はないだろう、とフェルジェが低い声で告げる。その瞳の奥に深い闇を見た世凪が首を振った。
「どんなことをされてもお教えしません。それよりも、フェルジェ様は奥様との関係を変えるべきです。白い結婚を撤回することはできないんですか?」
「それは……というか、世凪にそんなことを話しても仕方ないだろう」
「僕がリゲルさんの執務室で使用人たちの相談を受けていたことはご存じないんですか? 僕、話を聞くの得意なんです」
世凪がフェルジェに微笑みかけると、フェルジェがしばらく考えてからゆっくりと口を開いた。
「……もう結婚して一年だ。顔を合わせるのは晩餐の時だけ、会話もほぼないのに、いまさらどうしろと……向こうだってオレには興味ないはずだからいい」
嘲るように小さく鼻を鳴らしたフェルジェが世凪から視線を逸らす。その態度だけで、世凪の好きな人を殺すなんて微塵も考えていないこと、本当は妻との関係を気にしていることが分かった。
高校生の相談を受けていた時も、ケンカしてる友達に対して『あいつだって俺のことが嫌いなはずだからもういいんだ』と言いながら世凪に話すという矛盾した行動をとる生徒がいた。世凪にはそれが『先生どうしよう、助けて』と聞こえていた。
きっとフェルジェも妻との関係を変えたいと思っているのだろう。
「僕にしたような贈り物を奥様にもしてみてはいかがですか? いきなり下着とか媚薬効果のある香炉は若干ひきましたが、お菓子やアクセサリーなどなら、会話のきっかけにもなりますし……僕が思うに、きっと奥様はフェルジェ様のことを好いておいでですよ」
フェルジェの妻には晩餐の時に数回会った程度だが、フェルジェが世凪に興味を向けていることをよく思っていないようだった。きっときっかけさえあれば本来の夫婦になれるような気がする。
「贈り物、か……そういえば結婚指輪以外、オレからは何も贈っていないな。好きな物を買うようには言っているから不自由はさせてないはずだが、たまにはオレが選んだものを贈るか」
「どんなにセンスの悪いものでも、気持ちがあればきっと喜んでくださいますよ」
「……オレのセンスがないと言いたげだな」
「初めての贈り物にピンクの下着を贈る人にセンスがあると思う方が不思議です」
こちらを鋭く眇めた目で見るフェルジェに世凪が呆れたように返す。すると今まで黙っていたリゲルがくすくすと笑い出した。
「失礼しました……フェルジェ様が言い負けているところを初めて拝見したので、つい」
リゲルの言葉に大きな息を吐いたフェルジェはしばらく不機嫌な表情でリゲルを眺めてから世凪に視線を戻した。
「……世凪の言う通りにまずは菓子から贈ってみる。ただ、オレは世凪を側室に入れることを諦めたわけではないからな」
フェルジェはそう言い放つとそのまま立ち上がり部屋のドアへと向かった。その背中はなんだか少しすっきりしたように見えた。
「……よろしいんですか、世凪様。あんなに好感度上げて……絶対諦めませんよ」
フェルジェが部屋を去った後、レゲルは椅子を元の位置に戻しながらため息がちに世凪に告げた。世凪がそれに、大丈夫です、と笑う。
「フェルジェ様は僕にミシェル様を重ねてるだけです。初めは暇つぶしのナンパのようなものだったのかもしれませんが、国王様が僕に執着したから奪いたいだけです。好きとか嫌いとか、そんな感情はないはずですよ」
「これまではそうだったとしても、今日何か変わったかもしれませんよ」
リゲルが世凪の前に立ち、ため息をつく。世凪はそれを見あげて笑った。
「リゲルさん、なんだかお母さんみたいですね」
「世凪様が楽観的過ぎて余計に心配してるだけです」
目を眇め、怪訝な表情になるリゲルに世凪は、違うんです、と微笑んだ。
「ちょっと吹っ切れたというか......フェルジェ様と話をしていて、気持ちが固まったというか」
「それって......」
驚いた表情のリゲルに世凪が微笑む。
「はい。僕、元の世界に帰ります」
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