62 / 73
20-3
しおりを挟む
世凪がはっきりと答えると、リゲルがくすくすと笑い出した。それから背後を振り返る。
「だそうですよ、アドウェル様」
その言葉に世凪が、え、と驚いて振り返る。そこには息を切らせたアドウェルが立っていた。いつもよりもきっちりと髪を整え、金糸で刺繍の入った黒いスーツを着た彼は、月明りでも華やかに見えた。キラキラと輝いて見えるのはその衣装のせいなのか、世凪の気持ちのせいなのかは分からない。
「世凪」
「アド、王子……」
驚いたまま固まる世凪に駆け寄ったアドウェルは、そのまま腕を広げて世凪を抱きしめた。驚きで呼吸さえも止まる。
「俺も愛している。この先も、永遠にだ」
耳元で低い声が響く。幻聴かと思うような言葉に、世凪は、え、とアドウェルの胸に包まれたまま小さく驚いた。
「世凪が先にこの言葉をくれたのだろう? 何を驚いている」
くすりと笑ったアドウェルが世凪の体を少し離し、目を見つめた。透き通るような青い瞳が嬉しそうに輝いている。
「確かに、僕から好きだとは言いましたが……」
愛してるなんて大それたことは口にしていない。
するとアドウェルは手にしていたものをそっと世凪の前に差し出した。それは、リゲルに預けた、アドウェル宛の手紙だった。
「これ……え、リゲルさん?」
どうしてアドウェルが既に読んでいるのだ、しかも世凪のことを忘れていないのだ、と思い、怪訝な表情でリゲルに視線を向けると、リゲルが楽しそうに笑った。
「すみません、間違えてその手紙には書いた人が今どこにいるのか分かる魔法をかけてしまいました」
「どんな間違い方をしたら、そうなるんですか……?」
もう会うことはないからこそ、更にすぐに忘れてもらえるからこそ書けた言葉だ。こうして目の前で、読んだよ、と見せられるならこんな恥ずかしい言葉など書かない。
「世凪様が思うよりも魔法は難しいんですよ。それに、ちゃんと素直に書いた手紙なら、何も困らないじゃないですか」
にこにこと満面の笑みでそんなことを言われても世凪には響かない。むしろ、わざとやりました、と言われているようだった。いや、おそらくそういうことなのだろう。
「……何を企んでるんですか……?」
「そんな企むなんて。ただ、私もシンデレラの魔法使いになってみたかっただけです」
リゲルが笑顔を崩さずに告げると、世凪、とアドウェルが世凪の手を握った。世凪がアドウェルに視線を向ける。
「俺と一緒に来て欲しい。俺が一緒に居たいと思うシンデレラは一人しかいない。今日、必ず世凪に伝えようと心に決めていた」
「……僕を選んでくれるんですか?」
アドウェルの言葉は、世凪がアドウェルにとってのシンデレラだと言っているようだった。思わず聞いてしまうと、アドウェルは小さく首を振った。
「選ぶとかそんな次元ではない。きっと世凪は、俺に会うためにここに来てくれたんだ。俺はそう信じている」
まっすぐにこちらを見つめるアドウェルの言葉を聞いて、世凪はアドウェルと出会った時のことを思い出していた。見知らぬ場所に来て、突然不審者扱いされて不安で怖かった時、アドウェルの言葉とその小さな笑みに救われ、心を奪われた。彼を知れば知るほどにその魅力に気づいて、もう戻れないところまで好きになっていた。
もしアドウェルも同じだったのなら、それは運命と呼んでいいのではないだろうか。
「……僕も、信じたいです」
世凪が答えると、アドウェルは優しい笑みを浮かべ、世凪の手を強く握った。
「だったら付いてきて欲しい」
世凪が、どこへ、と訪ねる暇なく、アドウェルはそのまま世凪の手を引いて走り出した。
「だそうですよ、アドウェル様」
その言葉に世凪が、え、と驚いて振り返る。そこには息を切らせたアドウェルが立っていた。いつもよりもきっちりと髪を整え、金糸で刺繍の入った黒いスーツを着た彼は、月明りでも華やかに見えた。キラキラと輝いて見えるのはその衣装のせいなのか、世凪の気持ちのせいなのかは分からない。
「世凪」
「アド、王子……」
驚いたまま固まる世凪に駆け寄ったアドウェルは、そのまま腕を広げて世凪を抱きしめた。驚きで呼吸さえも止まる。
「俺も愛している。この先も、永遠にだ」
耳元で低い声が響く。幻聴かと思うような言葉に、世凪は、え、とアドウェルの胸に包まれたまま小さく驚いた。
「世凪が先にこの言葉をくれたのだろう? 何を驚いている」
くすりと笑ったアドウェルが世凪の体を少し離し、目を見つめた。透き通るような青い瞳が嬉しそうに輝いている。
「確かに、僕から好きだとは言いましたが……」
愛してるなんて大それたことは口にしていない。
するとアドウェルは手にしていたものをそっと世凪の前に差し出した。それは、リゲルに預けた、アドウェル宛の手紙だった。
「これ……え、リゲルさん?」
どうしてアドウェルが既に読んでいるのだ、しかも世凪のことを忘れていないのだ、と思い、怪訝な表情でリゲルに視線を向けると、リゲルが楽しそうに笑った。
「すみません、間違えてその手紙には書いた人が今どこにいるのか分かる魔法をかけてしまいました」
「どんな間違い方をしたら、そうなるんですか……?」
もう会うことはないからこそ、更にすぐに忘れてもらえるからこそ書けた言葉だ。こうして目の前で、読んだよ、と見せられるならこんな恥ずかしい言葉など書かない。
「世凪様が思うよりも魔法は難しいんですよ。それに、ちゃんと素直に書いた手紙なら、何も困らないじゃないですか」
にこにこと満面の笑みでそんなことを言われても世凪には響かない。むしろ、わざとやりました、と言われているようだった。いや、おそらくそういうことなのだろう。
「……何を企んでるんですか……?」
「そんな企むなんて。ただ、私もシンデレラの魔法使いになってみたかっただけです」
リゲルが笑顔を崩さずに告げると、世凪、とアドウェルが世凪の手を握った。世凪がアドウェルに視線を向ける。
「俺と一緒に来て欲しい。俺が一緒に居たいと思うシンデレラは一人しかいない。今日、必ず世凪に伝えようと心に決めていた」
「……僕を選んでくれるんですか?」
アドウェルの言葉は、世凪がアドウェルにとってのシンデレラだと言っているようだった。思わず聞いてしまうと、アドウェルは小さく首を振った。
「選ぶとかそんな次元ではない。きっと世凪は、俺に会うためにここに来てくれたんだ。俺はそう信じている」
まっすぐにこちらを見つめるアドウェルの言葉を聞いて、世凪はアドウェルと出会った時のことを思い出していた。見知らぬ場所に来て、突然不審者扱いされて不安で怖かった時、アドウェルの言葉とその小さな笑みに救われ、心を奪われた。彼を知れば知るほどにその魅力に気づいて、もう戻れないところまで好きになっていた。
もしアドウェルも同じだったのなら、それは運命と呼んでいいのではないだろうか。
「……僕も、信じたいです」
世凪が答えると、アドウェルは優しい笑みを浮かべ、世凪の手を強く握った。
「だったら付いてきて欲しい」
世凪が、どこへ、と訪ねる暇なく、アドウェルはそのまま世凪の手を引いて走り出した。
96
あなたにおすすめの小説
給餌行為が求愛行動だってなんで誰も教えてくれなかったんだ!
永川さき
BL
魔術教師で平民のマテウス・アージェルは、元教え子で現同僚のアイザック・ウェルズリー子爵と毎日食堂で昼食をともにしている。
ただ、その食事風景は特殊なもので……。
元教え子のスパダリ魔術教師×未亡人で成人した子持ちのおっさん魔術教師
まー様企画の「おっさん受けBL企画」参加作品です。
他サイトにも掲載しています。
勇者になるのを断ったらなぜか敵国の騎士団長に溺愛されました
雪
BL
「勇者様!この国を勝利にお導きください!」
え?勇者って誰のこと?
突如勇者として召喚された俺。
いや、でも勇者ってチート能力持ってるやつのことでしょう?
俺、女神様からそんな能力もらってませんよ?人違いじゃないですか?
【完結】※セーブポイントに入って一汁三菜の夕飯を頂いた勇者くんは体力が全回復します。
きのこいもむし
BL
ある日突然セーブポイントになってしまった自宅のクローゼットからダンジョン攻略中の勇者くんが出てきたので、一汁三菜の夕飯を作って一緒に食べようねみたいなお料理BLです。
自炊に目覚めた独身フリーターのアラサー男子(27)が、セーブポイントの中に入ると体力が全回復するタイプの勇者くん(19)を餌付けしてそれを肴に旨い酒を飲むだけの逆異世界転移もの。
食いしん坊わんこのローグライク系勇者×料理好きのセーブポイント系平凡受けの超ほんわかした感じの話です。
【完結】おじさんダンジョン配信者ですが、S級探索者の騎士を助けたら妙に懐かれてしまいました
大河
BL
世界を変えた「ダンジョン」出現から30年──
かつて一線で活躍した元探索者・レイジ(42)は、今や東京の片隅で地味な初心者向け配信を続ける"おじさん配信者"。安物機材、スポンサーゼロ、視聴者数も控えめ。華やかな人気配信者とは対照的だが、その真摯な解説は密かに「信頼できる初心者向け動画」として評価されていた。
そんな平穏な日常が一変する。ダンジョン中層に災厄級モンスターが突如出現、人気配信パーティが全滅の危機に!迷わず単身で救助に向かうレイジ。絶体絶命のピンチを救ったのは、国家直属のS級騎士・ソウマだった。
冷静沈着、美形かつ最強。誰もが憧れる騎士の青年は、なぜかレイジを見た瞬間に顔を赤らめて……?
若き美貌の騎士×地味なおじさん配信者のバディが織りなす、年の差、立場の差、すべてを越えて始まる予想外の恋の物語。
捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~
水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。
死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!?
「こんなところで寝られるか!」
極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く!
ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。
すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……?
「……貴様、私を堕落させる気か」
(※いいえ、ただ快適に寝たいだけです)
殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。
捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!
《本編 完結 続編 完結》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。
かざみはら まなか
BL
24歳の英雄公爵✕29歳の日本に帰りたい異世界転移した青年
異世界転移してΩになった俺(アラフォーリーマン)、庇護欲高めα騎士に身も心も溶かされる
ヨドミ
BL
もし生まれ変わったら、俺は思う存分甘やかされたい――。
アラフォーリーマン(社畜)である福沢裕介は、通勤途中、事故により異世界へ転移してしまう。
異世界ローリア王国皇太子の花嫁として召喚されたが、転移して早々、【災厄のΩ】と告げられ殺されそうになる。
【災厄のΩ】、それは複数のαを番にすることができるΩのことだった――。
αがハーレムを築くのが常識とされる異世界では、【災厄のΩ】は忌むべき存在。
負の烙印を押された裕介は、間一髪、銀髪のα騎士ジェイドに助けられ、彼の庇護のもと、騎士団施設で居候することに。
「αがΩを守るのは当然だ」とジェイドは裕介の世話を焼くようになって――。
庇護欲高め騎士(α)と甘やかされたいけどプライドが邪魔をして素直になれない中年リーマン(Ω)のすれ違いラブファンタジー。
※Rシーンには♡マークをつけます。
【本編完結】最強魔導騎士は、騎士団長に頭を撫でて欲しい【番外編あり】
ゆらり
BL
帝国の侵略から国境を守る、レゲムアーク皇国第一魔導騎士団の駐屯地に派遣された、新人の魔導騎士ネウクレア。
着任当日に勃発した砲撃防衛戦で、彼は敵の砲撃部隊を単独で壊滅に追いやった。
凄まじい能力を持つ彼を部下として迎え入れた騎士団長セディウスは、研究機関育ちであるネウクレアの独特な言動に戸惑いながらも、全身鎧の下に隠された……どこか歪ではあるが、純粋無垢であどけない姿に触れたことで、彼に対して強い庇護欲を抱いてしまう。
撫でて、抱きしめて、甘やかしたい。
帝国との全面戦争が迫るなか、ネウクレアへの深い想いと、皇国の守護者たる騎士としての責務の間で、セディウスは葛藤する。
独身なのに父性強めな騎士団長×不憫な生い立ちで情緒薄めな甘えたがり魔導騎士+仲が良すぎる副官コンビ。
甘いだけじゃない、骨太文体でお送りする軍記物BL小説です。番外は日常エピソード中心。ややダーク・ファンタジー寄り。
※ぼかしなし、本当の意味で全年齢向け。
★お気に入りやいいね、エールをありがとうございます! お気に召しましたらぜひポチリとお願いします。凄く励みになります!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる