天使のような子の怪我の手当てをしたら氷の王子に懐かれました

藤吉めぐみ

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 世凪がはっきりと答えると、リゲルがくすくすと笑い出した。それから背後を振り返る。
「だそうですよ、アドウェル様」
 その言葉に世凪が、え、と驚いて振り返る。そこには息を切らせたアドウェルが立っていた。いつもよりもきっちりと髪を整え、金糸で刺繍の入った黒いスーツを着た彼は、月明りでも華やかに見えた。キラキラと輝いて見えるのはその衣装のせいなのか、世凪の気持ちのせいなのかは分からない。
「世凪」
「アド、王子……」
 驚いたまま固まる世凪に駆け寄ったアドウェルは、そのまま腕を広げて世凪を抱きしめた。驚きで呼吸さえも止まる。
「俺も愛している。この先も、永遠にだ」
 耳元で低い声が響く。幻聴かと思うような言葉に、世凪は、え、とアドウェルの胸に包まれたまま小さく驚いた。
「世凪が先にこの言葉をくれたのだろう? 何を驚いている」
 くすりと笑ったアドウェルが世凪の体を少し離し、目を見つめた。透き通るような青い瞳が嬉しそうに輝いている。
「確かに、僕から好きだとは言いましたが……」
 愛してるなんて大それたことは口にしていない。
 するとアドウェルは手にしていたものをそっと世凪の前に差し出した。それは、リゲルに預けた、アドウェル宛の手紙だった。
「これ……え、リゲルさん?」
 どうしてアドウェルが既に読んでいるのだ、しかも世凪のことを忘れていないのだ、と思い、怪訝な表情でリゲルに視線を向けると、リゲルが楽しそうに笑った。
「すみません、間違えてその手紙には書いた人が今どこにいるのか分かる魔法をかけてしまいました」
「どんな間違い方をしたら、そうなるんですか……?」
 もう会うことはないからこそ、更にすぐに忘れてもらえるからこそ書けた言葉だ。こうして目の前で、読んだよ、と見せられるならこんな恥ずかしい言葉など書かない。
「世凪様が思うよりも魔法は難しいんですよ。それに、ちゃんと素直に書いた手紙なら、何も困らないじゃないですか」
 にこにこと満面の笑みでそんなことを言われても世凪には響かない。むしろ、わざとやりました、と言われているようだった。いや、おそらくそういうことなのだろう。
「……何を企んでるんですか……?」
「そんな企むなんて。ただ、私もシンデレラの魔法使いになってみたかっただけです」
 リゲルが笑顔を崩さずに告げると、世凪、とアドウェルが世凪の手を握った。世凪がアドウェルに視線を向ける。
「俺と一緒に来て欲しい。俺が一緒に居たいと思うシンデレラは一人しかいない。今日、必ず世凪に伝えようと心に決めていた」
「……僕を選んでくれるんですか?」
 アドウェルの言葉は、世凪がアドウェルにとってのシンデレラだと言っているようだった。思わず聞いてしまうと、アドウェルは小さく首を振った。
「選ぶとかそんな次元ではない。きっと世凪は、俺に会うためにここに来てくれたんだ。俺はそう信じている」
 まっすぐにこちらを見つめるアドウェルの言葉を聞いて、世凪はアドウェルと出会った時のことを思い出していた。見知らぬ場所に来て、突然不審者扱いされて不安で怖かった時、アドウェルの言葉とその小さな笑みに救われ、心を奪われた。彼を知れば知るほどにその魅力に気づいて、もう戻れないところまで好きになっていた。
 もしアドウェルも同じだったのなら、それは運命と呼んでいいのではないだろうか。
「……僕も、信じたいです」
 世凪が答えると、アドウェルは優しい笑みを浮かべ、世凪の手を強く握った。
「だったら付いてきて欲しい」
 世凪が、どこへ、と訪ねる暇なく、アドウェルはそのまま世凪の手を引いて走り出した。

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