天使のような子の怪我の手当てをしたら氷の王子に懐かれました

藤吉めぐみ

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 中庭の渡り廊下から、いつもとは違う方の建物へと向かい、初めて見る広い玄関ホールに入ると、そこには着飾った男女がまばらに談笑していた。まるで小さい頃に読んだ絵本に出てくるお城のパーティーだ。
 アドウェルの姿が見えると、そこにいた人たち全ての視線がこちらに集まる。それは仕方ないだろう。今日の主役はアドウェルだ。
「アドウェル王子、なぜ世凪様を……」
 壁際で警護をしていた衛兵の一人がアドウェルに駆け寄る。部屋で大人しくしているはずの世凪が、突然姿を消したアドウェルに連れてこられているのだから、驚くのも仕方ない。
「わけは中で話す。父と兄は?」
 アドウェルは世凪を連れたままホールを抜け、その先にある部屋へと進んだ。大きな扉を開け放っているそこは、いわゆる大広間というものだろう。そこには多くの人がテーブルを囲み、立食パーティーを楽しんでいた。着飾った若い女性が多いのは、今日アドウェルが結婚相手を見つけるかもしれないからだろう。本当にシンデレラの舞踏会のようだ。
「お二人は奥の席におられますが……あの、世凪様を悲しませることなら、私は使用人を代表して止めなければなりません」
 アドウェルの傍をずっと付いてきた衛兵が言い切った言葉を聞いて、アドウェルが足を止めた。少し眇めた目を向けたアドウェルの周りの温度が低くなったような気がして世凪でさえ言葉をかけることをためらう。しかしそんな威圧的ともとれる態度をとられても、衛兵は臆せず言葉を繋いだ。
「我々使用人は、世凪様に救われています。だから世凪様を大事に思っています。なので、この方を悲しませるなら、例えアドウェル様でもお止めしなくてはならないのです」
 きっとアドウェルが国王とフェルジェの居場所を聞いたから、さっそくどちらかに世凪が連れて行かれるのではと心配してくれているのだろう。世凪がどちらにも嫁ぎたくないというのは、きっとマリアやリゲルから広まっているはずだ。
「……俺も、世凪のことを誰より大事に思っている。誰にも渡すつもりもない」
 アドウェルが衛兵の目を見つめ、はっきりと答える。それを聞いた衛兵は深く頭を下げた。
「失礼いたしました」
「いや……そんなふうに世凪を思ってくれていることに礼を言う。俺がこうして世凪の手を取れたのは、みんなのおかげだ。だから……ちゃんと宣言してくるよ」
 アドウェルが衛兵に伝えると、今度は世凪に視線を向けた。世凪がそんなアドウェルを見つめる。
「世凪は俺が守ると決めた。どうなっても、この手だけは離さない。世凪も離さず隣にいてくれるだろうか?」
「……はい。もちろんです」
 世凪が微笑むと、アドウェルはするりと左の肘をこちらに突き出した。世凪がその腕に右手を絡める。そのままエスコートされる形で部屋に入ると、当然のように辺りがざわめいた。アドウェルが一歩踏み出すごとに人だかりだった場所に道ができる。その代わり、人々のざわめきは一層大きくなった。
『アドウェル様の隣の方は誰?』『あんな人会場にいたか?』なんていう言葉が世凪にも聞こえる。確かにこんなにたくさんの人の前に出るのは世凪も初めてだから、そんな反応にもなるだろう。
 人垣でできた道の向こうには数段の階段があり、その先はまた広くなっている。そこに設えられたテーブルの向こうに国王とフェルジェ、そしてその妻が見えた。当然のようにその表情は驚きで満たされている。
「アドウェル、どうして世凪を連れている?」
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