天使のような子の怪我の手当てをしたら氷の王子に懐かれました

藤吉めぐみ

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エピローグ

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 屋敷の窓から見えるのは、広大な農地と牧草地、その奥に色とりどりの屋根たち、そして大きな砦とその向こうに青く光る海――それだけだ。
 変わらない景色を部屋から眺めていた世凪の耳に、世凪、と自分を探す声が届いて、世凪は座っていた椅子から、よいしょ、と声をかけて立ち上がった。
「世凪、今帰った! どこにいる?」
 どうやらその声は一階の玄関ホールからしているらしい。世凪は部屋を出ると、ここです、と声を張った。
「二階だな。そこに居ろ、俺が行く」
 しばらく部屋の前で待っていると、声の主が姿を現す。そこにはスーツ姿のアドウェルが立っていた。
「おかえりなさい、旦那様」
「ただいま、世凪。こんな時期に長く家を空けてすまなかった。変わったことはないか?」
 アドウェルが世凪を軽く抱き寄せ、頬にキスを落とす。世凪はそれを受け入れてから首を振った。
 アドウェルはあの後すぐに公爵の爵位と海外との貿易を行う港がある地域の土地を貰えることになり、二人でそこへ移り住むことを決めた。それからこちらに移る前に小さな結婚式を挙げた。
 第二王子の立場のまま、世凪と結婚することも許されたのだが、二人で新天地での生活を選んだ。
『世凪を誰かに取られるかもしれないという心配は少ない方がいい』
 というのがアドウェルの主張だった。
 そうして、この地で生活して一年。
 今アドウェルは港を拠点にした貿易会社と水産加工会社を経営していて、この街の住人を積極的に雇い入れている。ここに来た頃よりもこの街は随分元気になった気がするし、土地の開発も進み、街も広がり移住する人も増えた。きっとアドウェルは城の中で使用人たちを取りまとめていたから、上に立つ才能があるのだろう。会社も日々大きくなり、最近は長期の出張も多くなっていた。 
 この日も一週間の出張を終えてアドウェルが屋敷に戻ってきたのだ。
 寂しくないと言えば嘘になるが、アドウェルが生き生きと働く姿を見られるのはとても嬉しいことだった。それに、今は一人ではない。
「屋敷の中は変わらないですし、この子も順調です」
 世凪が自身の大きくなった腹に手を当て微笑む。アドウェルはそれを聞いて安堵の息を吐くと、何よりだ、と世凪の腰に腕を廻し、部屋へと戻るようエスコートした。
「もうすぐ臨月だとリゲルから聞いた。俺もしばらく出張しないようにスケジュールを組んだから、安心するといい」
 世凪は、アドウェルとの結婚後、リゲルの洗礼を受けた。色々悩んだが、やっぱりアドウェルとの子どもが欲しいと思ったのだ。この身に新しい命が宿ったと知った時は嬉しくて、アドウェルと涙ぐんでしまった。
 今は安静を第一に、週に一回通ってくれているリゲルとマリアとお茶をするのが世凪の楽しみだった。
「ありがとうございます。リゲルさんも、ここまで来るのは大変でしょうけど、出産も引き受けてもらえて心強いです」
「城を出る口実になっている、なんて本人は言っていたが……リゲルになら任せて大丈夫だろう」
 アドウェルが世凪を婚約者にしてから、城の雰囲気は少しずつ変わっていった。王妃が晩餐に参加するようになり、国王との仲も雪解けが進んでいるようで、レミウェルを正式に息子とすると宣言した時は世凪も驚いた。同時にアドウェルもと言われていたが、アドウェルはそれを丁重に断っている。今はレミウェルへの溺愛が二倍になっているとマリアから聞いて笑ったのはつい最近のことだった。
 フェルジェからは半年前に第一子の誕生の知らせが届き、お祝いに行ったばかりで、すでに姫への親バカが始まっていた。その時、世凪もアドウェルとの子が宿ったことを話したのだが、『だったらリゲルに取り上げてもらうのが一番だ』とリゲルが城から出ることを許された。
 国王も既にリゲルへの制裁はやめたかったのだろう。ここ数ヶ月は世凪のところ以外にも自由に外出できているらしい。世凪のところに来るたびに旅行の土産を持ってきてくれるので、かなり自由に出かけているのだろう。五年間幽閉状態だったのだから無理もないが、リゲルは意外とフットワークが軽いのだと改めて知った。
「明後日、また検診に来てくれるそうですよ」
 アドウェルに導かれソファに腰掛けた世凪が、隣に座ったアドウェルに微笑む。するとアドウェルが、そうか、と優しい表情を見せた。こちらに来てから、アドウェルの表情はいつも優しかった。聞けば仕事中もほとんど厳しい顔はしていないようで、『氷の王子』が領主になると聞いて不安だった街の人たちも、実際にアドウェルに会って拍子抜けしたと言っていた。ただ、それは決して悪い意味ではない。着実に街の人も従業員も増えているのがその証拠だろう。
「だったら俺も同席できるな。出産も立ち会いたいと思っている」
「え、出産も、ですか?」
「当然だ。世凪が頑張るのだから、それを一番傍で支えるのは俺の責任であり、特権だ。もちろん、家族が増えても」
「特権、ですか……ふふ、じゃあ、頼りにしてますね、アドウェル」
 世凪がアドウェルの胸に自身の体を寄せると、アドウェルが優しくその肩を抱いた。
「もちろん、この先も安心して任せていい……愛してるよ、世凪」
 優しいその声に世凪が顔を上げる。
 世界一愛しい旦那様から、世界一甘いキスが落ちてくる。
「僕も、この先もずっと愛してます」
   世凪は笑顔でささやいてそのキスを受け止めた。

END 

最後までのお付き合いありがとうございました!
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