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【後日談】君と誓いのキスを何度でも1
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「このままここに居て城の管理をするか、西の領地の領主をするか選べ、ということらしい」
夜、世凪の部屋にやってきたアドウェルがベッドに腰かけてため息を吐きながら言った言葉は、アドウェルと世凪の人生を変える大きな選択肢だった。
アドウェルが自身の誕生日に世凪との婚約を正式に発表してから一週間が過ぎていた。世凪の立場は第二王子の婚約者というものに変わったけれど、特に日々が変わることはなかった。今日も以前のようにリゲルの執務室へ行き、使用人たちの話を聞いたり、怪我の手当てをして、午後はレミウェルと勉強したり遊んだりという日々を過ごしている。
一方のアドウェルもこれまで通りの仕事をこなしていたのだが、今日の昼に国王に呼ばれ、これからの身の振り方の選択を迫られたらしい。
当然このままでというわけにはいかないだろうとは思っていたが、そんなにかけ離れた選択になるとは思っていなかった、というのが世凪の正直な気持ちだった。
「……国王の弟さんは、近くに住まいがあるんですよね?」
世凪がアドウェルの目の前に立ち、眉を下げる。アドウェルはそんな世凪を見上げ頷いた。
「ああ……国の開発業務を引き受けてくれている。今は、道の整備をしていると言っていた。俺もそこへ押し込まれると思っていたのだが……」
いわゆるインフラを引き受けているということだろう。アドウェルもその事業を引き継ぎ、いずれアドウェル自身が運営するのではと思っていたようだった。
「まあ、ご子息がおられるのなら、その子に譲りたいというのは分からなくもないですね」
「そうだな。叔父は与えられた仕事だけではなく、それ以上に事業を大きくしているから、他人の俺に譲るよりは息子に継がせたいのだろう。だからといって、辺境の街とは……絶対にこれは城に俺たちを留めたいという父のいやがらせだ」
少し頬を膨らませるアドウェルに世凪が小さく笑う。あの日からアドウェルはとても表情が豊かになった気がする。こうして少し子どもっぽいところを見せてくれるのも世凪は嬉しかった。
「そんなことないと思いますけど……」
アドウェルのことを特に嫌っている節もない代わりに執着もしていない国王が引き止めるために無茶なことを言っているとは思えなかった。本当にそれがアドウェルにとってどちらを選んでも良い二択なのかもしれない。
「いや、父は世凪をここに留めておきたいんだよ」
アドウェルが世凪の腰に腕を廻し、ぎゅっと抱き寄せる。世凪の胸に顔を埋めるアドウェルに、世凪は笑った。
「僕はもうアド王子のものですよ。留めておいてもしかたないでしょう?」
もうどう転がっても世凪はアドウェルの傍を離れるつもりはない。相手が国王でも心も体も許すつもりはないのだ。それは十分国王も知っているはずだ。
「キレイな花を手折ることはできなくても傍にあれば愛でることは出来るからな」
世凪の胸に顔を埋めたままアドウェルがため息を吐く。世凪はそんなアドウェルの頭を撫でながら微笑んだ。
「……国王の視線にすら嫉妬してくれるんですか?」
「当然だろう? その脳内で世凪を裸にしているかもしれないと思ったらそれだけで腹が立つ」
「想像は想像に過ぎません。僕の体を知っているのはアド王子だけですよ。でも……僕はアド王子とならどこで生活しても大丈夫ですよ。そんなに嫌なら、その西の領地とやらに行きませんか?」
世凪が微笑むと、アドウェルがその瞬間に顔を上げた。その表情はひどく驚いている。
「しかし……世凪は城の方が居心地はいいのではないか?」
「まあ、確かに、仲のいい使用人さんたちもいますし、保健室の運営も楽しいですし、レミとお茶をするのは癒しですけど……一番大切な人に我慢させるのは嫌です」
世凪がアドウェルの頬を撫でて微笑む。するとアドウェルの表情がふわりと解けるように緩んだ。
「それは俺も同じだ。世凪に我慢はさせたくない」
「西の地に移ることを我慢だなんて思いませんよ。それに、新しい場所って、ちょっとワクワクしませんか? それが大好きな人と行けるなら、僕は楽しみです」
世凪が笑うとアドウェルが世凪を軽く抱え、そのまま体を反転させた。あっという間にベッドに沈められる。
「本当のことを話していいか?」
世凪を組み敷いたアドウェルが少し不安そうに眉を下げる。世凪はそれを見上げ頷いた。
「……世凪を誰かに取られるかもしれないという心配は少ない方がいい。ここでは世凪はあまりにモテすぎる」
みんな世凪が好きではないか、とため息を吐くアドウェルが可愛く見えて世凪は少し笑ってからアドウェルの髪を撫でた。
「アド王子ほどじゃないですよ。誕生会に来た人たち見ましたか? ほとんどアド王子の婚約者になりたくてギラギラしてたじゃないですか」
世凪が少し不機嫌に言い返すと、アドウェルが世凪の頬を撫でる。
「それを黙らせた世凪の美貌と風格は、みんなを魅了していた」
「だったら、そんな僕を隣に置ける自分を誇ってください」
世凪がアドウェルをまっすぐ見つめて微笑む。
「……そうだな。世凪は俺と共にいることを選んでくれた。世凪に選ばれたことは誇りに思うよ」
諦めたように息を吐いてから優しい表情を見せたアドウェルがそっと世凪にキスをする。世凪はそれを受け入れ、アドウェルの背中に腕を廻した。
夜、世凪の部屋にやってきたアドウェルがベッドに腰かけてため息を吐きながら言った言葉は、アドウェルと世凪の人生を変える大きな選択肢だった。
アドウェルが自身の誕生日に世凪との婚約を正式に発表してから一週間が過ぎていた。世凪の立場は第二王子の婚約者というものに変わったけれど、特に日々が変わることはなかった。今日も以前のようにリゲルの執務室へ行き、使用人たちの話を聞いたり、怪我の手当てをして、午後はレミウェルと勉強したり遊んだりという日々を過ごしている。
一方のアドウェルもこれまで通りの仕事をこなしていたのだが、今日の昼に国王に呼ばれ、これからの身の振り方の選択を迫られたらしい。
当然このままでというわけにはいかないだろうとは思っていたが、そんなにかけ離れた選択になるとは思っていなかった、というのが世凪の正直な気持ちだった。
「……国王の弟さんは、近くに住まいがあるんですよね?」
世凪がアドウェルの目の前に立ち、眉を下げる。アドウェルはそんな世凪を見上げ頷いた。
「ああ……国の開発業務を引き受けてくれている。今は、道の整備をしていると言っていた。俺もそこへ押し込まれると思っていたのだが……」
いわゆるインフラを引き受けているということだろう。アドウェルもその事業を引き継ぎ、いずれアドウェル自身が運営するのではと思っていたようだった。
「まあ、ご子息がおられるのなら、その子に譲りたいというのは分からなくもないですね」
「そうだな。叔父は与えられた仕事だけではなく、それ以上に事業を大きくしているから、他人の俺に譲るよりは息子に継がせたいのだろう。だからといって、辺境の街とは……絶対にこれは城に俺たちを留めたいという父のいやがらせだ」
少し頬を膨らませるアドウェルに世凪が小さく笑う。あの日からアドウェルはとても表情が豊かになった気がする。こうして少し子どもっぽいところを見せてくれるのも世凪は嬉しかった。
「そんなことないと思いますけど……」
アドウェルのことを特に嫌っている節もない代わりに執着もしていない国王が引き止めるために無茶なことを言っているとは思えなかった。本当にそれがアドウェルにとってどちらを選んでも良い二択なのかもしれない。
「いや、父は世凪をここに留めておきたいんだよ」
アドウェルが世凪の腰に腕を廻し、ぎゅっと抱き寄せる。世凪の胸に顔を埋めるアドウェルに、世凪は笑った。
「僕はもうアド王子のものですよ。留めておいてもしかたないでしょう?」
もうどう転がっても世凪はアドウェルの傍を離れるつもりはない。相手が国王でも心も体も許すつもりはないのだ。それは十分国王も知っているはずだ。
「キレイな花を手折ることはできなくても傍にあれば愛でることは出来るからな」
世凪の胸に顔を埋めたままアドウェルがため息を吐く。世凪はそんなアドウェルの頭を撫でながら微笑んだ。
「……国王の視線にすら嫉妬してくれるんですか?」
「当然だろう? その脳内で世凪を裸にしているかもしれないと思ったらそれだけで腹が立つ」
「想像は想像に過ぎません。僕の体を知っているのはアド王子だけですよ。でも……僕はアド王子とならどこで生活しても大丈夫ですよ。そんなに嫌なら、その西の領地とやらに行きませんか?」
世凪が微笑むと、アドウェルがその瞬間に顔を上げた。その表情はひどく驚いている。
「しかし……世凪は城の方が居心地はいいのではないか?」
「まあ、確かに、仲のいい使用人さんたちもいますし、保健室の運営も楽しいですし、レミとお茶をするのは癒しですけど……一番大切な人に我慢させるのは嫌です」
世凪がアドウェルの頬を撫でて微笑む。するとアドウェルの表情がふわりと解けるように緩んだ。
「それは俺も同じだ。世凪に我慢はさせたくない」
「西の地に移ることを我慢だなんて思いませんよ。それに、新しい場所って、ちょっとワクワクしませんか? それが大好きな人と行けるなら、僕は楽しみです」
世凪が笑うとアドウェルが世凪を軽く抱え、そのまま体を反転させた。あっという間にベッドに沈められる。
「本当のことを話していいか?」
世凪を組み敷いたアドウェルが少し不安そうに眉を下げる。世凪はそれを見上げ頷いた。
「……世凪を誰かに取られるかもしれないという心配は少ない方がいい。ここでは世凪はあまりにモテすぎる」
みんな世凪が好きではないか、とため息を吐くアドウェルが可愛く見えて世凪は少し笑ってからアドウェルの髪を撫でた。
「アド王子ほどじゃないですよ。誕生会に来た人たち見ましたか? ほとんどアド王子の婚約者になりたくてギラギラしてたじゃないですか」
世凪が少し不機嫌に言い返すと、アドウェルが世凪の頬を撫でる。
「それを黙らせた世凪の美貌と風格は、みんなを魅了していた」
「だったら、そんな僕を隣に置ける自分を誇ってください」
世凪がアドウェルをまっすぐ見つめて微笑む。
「……そうだな。世凪は俺と共にいることを選んでくれた。世凪に選ばれたことは誇りに思うよ」
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