天使のような子の怪我の手当てをしたら氷の王子に懐かれました

藤吉めぐみ

文字の大きさ
70 / 73

【後日談】君と誓いのキスを何度でも1

しおりを挟む
「このままここに居て城の管理をするか、西の領地の領主をするか選べ、ということらしい」
 夜、世凪の部屋にやってきたアドウェルがベッドに腰かけてため息を吐きながら言った言葉は、アドウェルと世凪の人生を変える大きな選択肢だった。
 アドウェルが自身の誕生日に世凪との婚約を正式に発表してから一週間が過ぎていた。世凪の立場は第二王子の婚約者というものに変わったけれど、特に日々が変わることはなかった。今日も以前のようにリゲルの執務室へ行き、使用人たちの話を聞いたり、怪我の手当てをして、午後はレミウェルと勉強したり遊んだりという日々を過ごしている。
 一方のアドウェルもこれまで通りの仕事をこなしていたのだが、今日の昼に国王に呼ばれ、これからの身の振り方の選択を迫られたらしい。
 当然このままでというわけにはいかないだろうとは思っていたが、そんなにかけ離れた選択になるとは思っていなかった、というのが世凪の正直な気持ちだった。
「……国王の弟さんは、近くに住まいがあるんですよね?」
 世凪がアドウェルの目の前に立ち、眉を下げる。アドウェルはそんな世凪を見上げ頷いた。
「ああ……国の開発業務を引き受けてくれている。今は、道の整備をしていると言っていた。俺もそこへ押し込まれると思っていたのだが……」
 いわゆるインフラを引き受けているということだろう。アドウェルもその事業を引き継ぎ、いずれアドウェル自身が運営するのではと思っていたようだった。
「まあ、ご子息がおられるのなら、その子に譲りたいというのは分からなくもないですね」
「そうだな。叔父は与えられた仕事だけではなく、それ以上に事業を大きくしているから、他人の俺に譲るよりは息子に継がせたいのだろう。だからといって、辺境の街とは……絶対にこれは城に俺たちを留めたいという父のいやがらせだ」
 少し頬を膨らませるアドウェルに世凪が小さく笑う。あの日からアドウェルはとても表情が豊かになった気がする。こうして少し子どもっぽいところを見せてくれるのも世凪は嬉しかった。
「そんなことないと思いますけど……」
 アドウェルのことを特に嫌っている節もない代わりに執着もしていない国王が引き止めるために無茶なことを言っているとは思えなかった。本当にそれがアドウェルにとってどちらを選んでも良い二択なのかもしれない。
「いや、父は世凪をここに留めておきたいんだよ」
 アドウェルが世凪の腰に腕を廻し、ぎゅっと抱き寄せる。世凪の胸に顔を埋めるアドウェルに、世凪は笑った。
「僕はもうアド王子のものですよ。留めておいてもしかたないでしょう?」
 もうどう転がっても世凪はアドウェルの傍を離れるつもりはない。相手が国王でも心も体も許すつもりはないのだ。それは十分国王も知っているはずだ。
「キレイな花を手折ることはできなくても傍にあれば愛でることは出来るからな」
 世凪の胸に顔を埋めたままアドウェルがため息を吐く。世凪はそんなアドウェルの頭を撫でながら微笑んだ。
「……国王の視線にすら嫉妬してくれるんですか?」
「当然だろう? その脳内で世凪を裸にしているかもしれないと思ったらそれだけで腹が立つ」
「想像は想像に過ぎません。僕の体を知っているのはアド王子だけですよ。でも……僕はアド王子とならどこで生活しても大丈夫ですよ。そんなに嫌なら、その西の領地とやらに行きませんか?」
 世凪が微笑むと、アドウェルがその瞬間に顔を上げた。その表情はひどく驚いている。
「しかし……世凪は城の方が居心地はいいのではないか?」
「まあ、確かに、仲のいい使用人さんたちもいますし、保健室の運営も楽しいですし、レミとお茶をするのは癒しですけど……一番大切な人に我慢させるのは嫌です」
 世凪がアドウェルの頬を撫でて微笑む。するとアドウェルの表情がふわりと解けるように緩んだ。
「それは俺も同じだ。世凪に我慢はさせたくない」
「西の地に移ることを我慢だなんて思いませんよ。それに、新しい場所って、ちょっとワクワクしませんか? それが大好きな人と行けるなら、僕は楽しみです」
 世凪が笑うとアドウェルが世凪を軽く抱え、そのまま体を反転させた。あっという間にベッドに沈められる。
「本当のことを話していいか?」
 世凪を組み敷いたアドウェルが少し不安そうに眉を下げる。世凪はそれを見上げ頷いた。
「……世凪を誰かに取られるかもしれないという心配は少ない方がいい。ここでは世凪はあまりにモテすぎる」
 みんな世凪が好きではないか、とため息を吐くアドウェルが可愛く見えて世凪は少し笑ってからアドウェルの髪を撫でた。
「アド王子ほどじゃないですよ。誕生会に来た人たち見ましたか? ほとんどアド王子の婚約者になりたくてギラギラしてたじゃないですか」
 世凪が少し不機嫌に言い返すと、アドウェルが世凪の頬を撫でる。
「それを黙らせた世凪の美貌と風格は、みんなを魅了していた」
「だったら、そんな僕を隣に置ける自分を誇ってください」
 世凪がアドウェルをまっすぐ見つめて微笑む。
「……そうだな。世凪は俺と共にいることを選んでくれた。世凪に選ばれたことは誇りに思うよ」
 諦めたように息を吐いてから優しい表情を見せたアドウェルがそっと世凪にキスをする。世凪はそれを受け入れ、アドウェルの背中に腕を廻した。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

給餌行為が求愛行動だってなんで誰も教えてくれなかったんだ!

永川さき
BL
 魔術教師で平民のマテウス・アージェルは、元教え子で現同僚のアイザック・ウェルズリー子爵と毎日食堂で昼食をともにしている。  ただ、その食事風景は特殊なもので……。  元教え子のスパダリ魔術教師×未亡人で成人した子持ちのおっさん魔術教師  まー様企画の「おっさん受けBL企画」参加作品です。  他サイトにも掲載しています。

《本編 完結 続編 完結》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。

かざみはら まなか
BL
24歳の英雄公爵✕29歳の日本に帰りたい異世界転移した青年

勇者になるのを断ったらなぜか敵国の騎士団長に溺愛されました

BL
「勇者様!この国を勝利にお導きください!」 え?勇者って誰のこと? 突如勇者として召喚された俺。 いや、でも勇者ってチート能力持ってるやつのことでしょう? 俺、女神様からそんな能力もらってませんよ?人違いじゃないですか?

【完結】おじさんダンジョン配信者ですが、S級探索者の騎士を助けたら妙に懐かれてしまいました

大河
BL
世界を変えた「ダンジョン」出現から30年── かつて一線で活躍した元探索者・レイジ(42)は、今や東京の片隅で地味な初心者向け配信を続ける"おじさん配信者"。安物機材、スポンサーゼロ、視聴者数も控えめ。華やかな人気配信者とは対照的だが、その真摯な解説は密かに「信頼できる初心者向け動画」として評価されていた。 そんな平穏な日常が一変する。ダンジョン中層に災厄級モンスターが突如出現、人気配信パーティが全滅の危機に!迷わず単身で救助に向かうレイジ。絶体絶命のピンチを救ったのは、国家直属のS級騎士・ソウマだった。 冷静沈着、美形かつ最強。誰もが憧れる騎士の青年は、なぜかレイジを見た瞬間に顔を赤らめて……? 若き美貌の騎士×地味なおじさん配信者のバディが織りなす、年の差、立場の差、すべてを越えて始まる予想外の恋の物語。

【完結】義妹(いもうと)を応援してたら、俺が騎士に溺愛されました

未希かずは(Miki)
BL
第13回BL大賞 奨励賞 受賞しました。 皆さまありがとうございます。 「ねえ、私だけを見て」 これは受けを愛しすぎて様子のおかしい攻めのフィンと、攻めが気になる受けエリゼオの恋のお話です。 エリゼオは母の再婚により、義妹(いもうと)ができた。彼には前世の記憶があり、その前世の後悔から、エリゼオは今度こそ義妹を守ると誓う。そこに現れた一人の騎士、フィン。彼は何と、義妹と両想いらしい。まだ付き合えていない義妹とフィンの恋を応援しようとするエリゼオ。けれどフィンの優しさに触れ、気付けば自分がフィンを好きになってしまった。 「この恋、早く諦めなくちゃ……」 本人の思いとはうらはらに、フィンはエリゼオを放っておかない。 この恋、どうなる!? じれキュン転生ファンタジー。ハピエンです。 現在番外編を連載中。 リナルド×ガルディア。王族と近衞騎士の恋。 ――忠誠を誓った相手を、愛してはいけないと思っていた。切ない身分差、年の差の恋。恋の自覚は、相手が成人してからになります。

異世界転移してΩになった俺(アラフォーリーマン)、庇護欲高めα騎士に身も心も溶かされる

ヨドミ
BL
もし生まれ変わったら、俺は思う存分甘やかされたい――。 アラフォーリーマン(社畜)である福沢裕介は、通勤途中、事故により異世界へ転移してしまう。 異世界ローリア王国皇太子の花嫁として召喚されたが、転移して早々、【災厄のΩ】と告げられ殺されそうになる。 【災厄のΩ】、それは複数のαを番にすることができるΩのことだった――。 αがハーレムを築くのが常識とされる異世界では、【災厄のΩ】は忌むべき存在。 負の烙印を押された裕介は、間一髪、銀髪のα騎士ジェイドに助けられ、彼の庇護のもと、騎士団施設で居候することに。 「αがΩを守るのは当然だ」とジェイドは裕介の世話を焼くようになって――。 庇護欲高め騎士(α)と甘やかされたいけどプライドが邪魔をして素直になれない中年リーマン(Ω)のすれ違いラブファンタジー。 ※Rシーンには♡マークをつけます。

捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~

水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。 死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!? 「こんなところで寝られるか!」 極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く! ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。 すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……? 「……貴様、私を堕落させる気か」 (※いいえ、ただ快適に寝たいだけです) 殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。 捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!

【完結】※セーブポイントに入って一汁三菜の夕飯を頂いた勇者くんは体力が全回復します。

きのこいもむし
BL
ある日突然セーブポイントになってしまった自宅のクローゼットからダンジョン攻略中の勇者くんが出てきたので、一汁三菜の夕飯を作って一緒に食べようねみたいなお料理BLです。 自炊に目覚めた独身フリーターのアラサー男子(27)が、セーブポイントの中に入ると体力が全回復するタイプの勇者くん(19)を餌付けしてそれを肴に旨い酒を飲むだけの逆異世界転移もの。 食いしん坊わんこのローグライク系勇者×料理好きのセーブポイント系平凡受けの超ほんわかした感じの話です。

処理中です...