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【後日談】君と誓いのキスを何度でも3
リゲルのところでレミウェルを交えてお茶をしてから部屋に戻ると、そこにはアドウェルが待っていた。ソファに座り、なにやら書類に目を通している。
「アド王子……呼んでもらえたらすぐ戻ったのに」
「いや、リゲルのところにいると聞いたから、待つことにしたんだ。ところで世凪は、海は好きか?」
「海、ですか……眺めるのは好きですが、泳げないので入るのは苦手です」
世凪がアドウェルの隣に座ると、そうか、と頷いた。
「だったら、高台の方に屋敷を建てよう。城よりも手狭になるが、世凪が欲しい部屋は全て作ろう。寝室からは海が眺められる大きな窓を作って、庭には寛げるスペースも作れば、世凪も読書が捗るだろう」
「庭は嬉しいですが、二人で暮らすんですから、そんなに部屋は必要ないかと……それに、僕はアド王子と一緒に居られるだけで幸せなので、多くは望みません」
世凪がアドウェルに微笑むとアドウェルは優しい顔を向けた。
「世凪が謙虚なのは知っている。ただ、俺も譲れないラインはあるから、そこは受け入れて欲しい」
「それは……確かに、公爵になるとはいえ、元第二王子があばら家に住むわけにはいかないですしね」
「あ、そういう意味ではない。父や兄に『世凪にこの程度のものしか差し出せないのか』と思われるのが嫌なだけだ。俺は世凪がいればどんな家でも構わない。だから、結婚式も世凪の望むものをたくさん取り入れたいと思っている」
どんな式にしたい? と聞かれ、世凪は話すなら今がいいだろうと口を開いた。
「僕……本当は、式なんか要らないと思っているんです。この指輪があればそれで十分で……でも、今の話を聞いたら、そういうわけにはいかないんですよね」
国王もフェルジェも世凪を側室にすることはもう考えていないはずだが、丁重に扱ってくれているのは感じている。アドウェルと婚約した今でもこうして以前と変わらないように生活させてくれていることだって、そういう気持ちの表れだろう。でなければ、アドウェルと共にすぐに城を出されても仕方ないことをしているのだ。
ひとえに世凪が『泉に呼ばれた者』だからだろう。
「確かに、この指輪は俺にとっても宝物だ。でも、俺からは何もあげられていないから……小さくてもいいから誓いの場と世凪に似合うとっておきの衣装、それにどこにでも付けていける指輪を用意したい」
アドウェルと世凪にとって何よりも大事で価値のある指輪だが、世間からすればそれはただのガラスのおもちゃの指輪だ。どうしても仕事の場には付けていけないし、世凪が付けていても『あんなものしか贈られてないのか』という話になりかねない。それは世凪にとっても本意ではない。それに、誓いの場というものなら、世凪も喜んで受け入れたいと思う。必要ないとは思うが、一生に一度と思えば経験はしておきたい。
「分かりました……そんなに派手なものじゃなくていいですよ。僕は、アド王子と一緒に居ることを神様に誓えればなんでもいいです」
世凪がアドウェルの手に手を重ね微笑む。するとアドウェルはその手を握り、空いている方の腕で世凪を抱き寄せた。
「世凪らしい答えだな。神様はどうでもいいが、世凪には誓いたい。あとは……この世で一番キレイな世凪と結婚するのは俺だということを父と兄に見せつけてやりたい」
少し悪役じみたことを言うアドウェルは珍しくて、世凪がくすくすと笑う。こんな姿を見せてくれること、それだけでも世凪は嬉しい。段々とアドウェルとの距離が縮まっていることを感じるからだ。
「はい、見せつけちゃってください。僕とアドウェルは一生離れないって」
世凪がアドウェルの手を強く握り返す。
どんなアドウェルだって好き――そう思えてしまった自分は、きっともうこれ以上の恋はしないのだろうと確信しながら、世凪はアドウェルの腕の中で微笑んだ。
白のケープジャケットには、銀の糸で繊細な刺繍がされていて、動くたびにひらひらと裾が踊るのがキレイだった。揃いのパンツに白い靴は、世凪一人では決して選ぶことのない衣装だろう。向かい合って立つアドウェルは世凪と揃いの布で作られたスペンサージャケットのスーツを着ている。思わず世凪が『アイドル系王子様』と呟いてしまうほど、それはとても似合っていた。
「本当に、城の中庭なんかで良かったのか? 招待客もないし、国民の前にも出ないと言われるとは思ってなかった」
初めは、城の大広間か、前庭で招待客も招いて式を挙げようと言われた。当然のように祝賀パレードも考えていたらしいが、世凪が全て拒否した。そして提案したのが、場所は中庭、参列者は家族と言える王族、そして使用人たちで、というものだった。当然初めは驚かれてしまったが、この結婚を知ってほしいのはその人たちだけ、という世凪にアドウェルは頷いてくれた。ちなみにリゲルは立会人として式を取り仕切ってくれる。
アドウェルにとっては、ささやかすぎる式だろう。
「いいんです、これで……ここでも、結婚式は花嫁のものですよね? だったら僕が一番納得するような式にするのが、花婿の努めでは?」
「その通りだな。花嫁様のお望みのままに」
アドウェルが胸に手を当て、恭しく頭を下げる。それを見て世凪が、ふふ、と笑った。
「あの……先に指輪、見てもいいですか?」
今日、世凪の指にはいつものガラスの指輪はない。結婚指輪としてアドウェルが用意したものを付けるためだ。
「もちろん。サイズは絶対に合ってるけど、試着するか?」
アドウェルが手にしていた箱を開く。中には金の指輪が二つ収まっていた。
「いえ、式の時に初めて付けたいです……キレイですね」
波のようなラインが入った大人っぽいデザインのそれは、世凪の好みだった。もっとギラギラとしたものを想像していたのだがアドウェルの感覚は世凪に近いのかもしれない。
「いつでも付けておきたいと思ったらデザインはシンプルになってしまった。でも、内側には宝石を埋めた。世凪のものにはサファイアを、俺のものにはオニキスだ」
「……互いの瞳の色ですね」
「俺はいつでも世凪を見守っていたいし、君に見つめていてもらいたいんだよ」
アドウェルが世凪の背中を軽く抱き寄せ、額が付くほど近くで世凪を見つめる。どこまでも透き通った青い瞳に見つめられ、世凪はその瞳を見つめ返しながら微笑んだ。
「僕も同じです。ずっと、傍でこうしていてください」
「もちろんだ。皆の前で誓う前に世凪に誓おう。遠い未来、この身が朽ちて魂になったとしても、ずっと世凪の傍に居続ける」
「だったら僕もアドウェルの隣に永遠に居ますね……きっとそれが僕の運命なんです」
微笑みあってキスをする。優しく温かなキスはこの先何度も繰り返していく誓いのキスになる――そんな予感と幸せを感じて、世凪は目を閉じて夫夫として初めてのキスを受け入れた。
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