そうだ課長、俺と結婚してください

藤吉めぐみ

文字の大きさ
17 / 41

6-2★

しおりを挟む
「好きなままでも、別れを告げられれば仕方ない時もありますよね」
「まあ……でも、僕は違うよ」
「本当に?」
 匡史が池上を見つめる。その視線に気づいた池上がこちらを窺う。不思議そうなその顔が何も分かってないようで、でも何を分かって欲しいのかも分からなくて、匡史は衝動のままに池上にキスをしていた。逃さないようにしっかりと肩を抱き、唇を重ねる。
 その瞬間、ふわりと花が開くような甘やかな香りが漂う。やっぱりこの香りはこの人からするのだと確信した。けれど、アルファのフェロモンを同じアルファの自分がどうして感じるのだろう。それは分からなかったけれど、その香りは匡史の本能のど真ん中に作用するようで、匡史はキスを深くした。
「んっ……か、な、まるくっ……はなし、て……」
 キスの隙間から池上の制止する声が洩れていたが、そんなものには構わなかった。強引に舌先を繋ぎ、嬲るように口内を舐め上げるとその背中が震えるのがわかる。上体に体重をかけ、池上の体を倒すと、ゆっくりと唇を離した。
「なん、なんだ……この間から、急に……」
「わかんないんです。ただ、こうしたいって思ったから、そうしました」
「君は考えるってことをしないのか」
「すみません、得意じゃなくて。でも……課長から香りがするんです……抗えないくらい、いい香りが」
 シャツの裾から手を忍ばせると、池上の両手がそれを拒んだ。その手を剥がして、片手で纏め上げると、頭の上に押さえる。新しいソファだというのにスプリングが軋むほどに強く両手を押さえてしまい、池上が眉をしかめた。
「離せ」
 池上は匡史を睨みあげて言うが、匡史に言うとおりにするつもりなど一切ない。
「大声でも出しますか? 瑛蒔、起きますよ」
「やめろ……君とはこんな風に……なりたくない」
 見下ろす目が真剣に訴える。けれど匡史は緩く首を振った。
「無理です。俺は、あなたを抱きたい」
 匡史はそれだけ言うと池上の素肌に指を滑らせた。暖かく滑らかな肌は、するりと匡史の指を受け入れ、粟立ち熱を上げる。尖った胸の粒を指の腹で弄ぶと池上の顎の先が反り返る。パンツの前を寛げ下着の上から中心を撫でると池上が驚いたように小さく声を立てた。
「やめ……」
「感じますか? 好きじゃなくても、こんな風になりたくない相手でも」
「違う、ちがっ……んっ……」
 匡史が下着ごと中心を扱くと池上が腰を跳ね上げた。辛そうな表情は匡史の中の嗜虐心を煽り、もっとどうにかしてやりたいと思ってしまう。苛めたいわけでもないし、なにか恨みがあるわけでもない。ただ、池上のその表情が見たいだけだった。匡史は池上の中心に直接触れ、愛撫を始めた。静かなリビングに、次第に淫らな水音が響き始める。熱を散らすような短い呼吸を繰り返す池上の表情はそれだけでこっちが煽られるほどに妖艶だった。
「かな……も、無理っ……」
「いいですよ。このまま手で受け止めます? それとも口の方が好きですか?」
「そんなの……っ」
 その言葉が途切れる前に池上は匡史の手の中に精を吐き出した。匡史はぼんやりと手のひらを見つめる。舌先で舐めると、苦くて男のものに違いなかった。なのに、ひとつも嫌ではない。
 しかし次の瞬間、匡史の手は、池上のシャツに包まれてしまった。見ると、真っ赤な顔で池上がこちらを見ている。羞恥と憤怒が混ざったようなその顔に、匡史は笑いかけた。
「そんな顔しなくてもいいじゃないですか」
「手、洗って帰れ」
「そんな冷たいこと言わないでください」
「最後までさせろっていうんじゃないだろ? だったらもう帰ってくれ」
 池上は衣服を直すと、すっと立ち上がって別の部屋へと消えた。匡史はその背中を見送ってから、拭われた右手に視線を落とす。徐々に冷静になっていくにつれ、直前までの自分に動揺し始めていた。衝動とはいえ、アルファの男上司になんてことをしてしまったのだ……そう思うと居たたまれなくて、匡史は荷物を纏めてすぐに部屋を後にした。少し冷静になった匡史は大きく息を吐いてから、マンションを一度振り返る。
「……もっと触れたかったな」
 ふと、そんな言葉が漏れて、匡史は首を振った。
 バカなことを思うなと自分を叱咤して、匡史はようやく家路についた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

虐げられた氷の聖子は隣国の野獣皇帝に執着(愛)されすぎて溶かされる

たら昆布
BL
暴君皇帝×薄幸の聖子

泡にはならない/泡にはさせない

BL
――やっと見つけた、オレの『運命』……のはずなのに秒でフラれました。――  明るくてお調子者、だけど憎めない。そんなアルファの大学生・加原 夏樹(かはらなつき)が、ふとした瞬間に嗅いだ香り。今までに経験したことのない、心の奥底をかき乱す“それ”に導かれるまま、出会ったのは——まるで人魚のようなスイマーだった。白磁の肌、滴る水、鋭く澄んだ瞳、そしてフェロモンが、理性を吹き飛ばす。出会った瞬間、確信した。 「『運命だ』!オレと『番』になってくれ!」  衝動のままに告げた愛の言葉。けれど……。 「運命論者は、間に合ってますんで。」  返ってきたのは、冷たい拒絶……。  これは、『運命』に憧れる一途なアルファと、『運命』なんて信じない冷静なオメガの、正反対なふたりが織りなす、もどかしくて、熱くて、ちょっと切ない恋のはじまり。  オメガバースという世界の中で、「個」として「愛」を選び取るための物語。  彼が彼を選ぶまで。彼が彼を認めるまで。 ——『運命』が、ただの言葉ではなくなるその日まで。

星降る夜に ~これは大人の純愛なのか。臆病者の足踏みか。~

大波小波
BL
 鳴滝 和正(なるたき かずまさ)は、イベント会社に勤めるサラリーマンだ。  彼はある日、打ち合わせ先の空き時間を過ごしたプラネタリウムで、寝入ってしまう。  和正を優しく起こしてくれたのは、そこのナレーターを務める青年・清水 祐也(しみず ゆうや)だった。  祐也を気に入った和正は、頻繁にプラネタリウムに通うようになる。  夕食も共にするほど、親しくなった二人。  しかし祐也は夜のバイトが忙しく、なかなかデートの時間が取れなかった。  それでも彼と過ごした後は、心が晴れる和正だ。  浮かれ気分のまま、彼はボーイズ・バーに立ち寄った。  そしてスタッフメニューの中に、祐也の姿を見つけてしまう。  彼の夜の顔は、風俗店で働く男娼だったのだ……。

幼馴染は僕を選ばない。

佳乃
BL
ずっと続くと思っていた〈腐れ縁〉は〈腐った縁〉だった。 僕は好きだったのに、ずっと一緒にいられると思っていたのに。 僕がいた場所は僕じゃ無い誰かの場所となり、繋がっていると思っていた縁は腐り果てて切れてしまった。 好きだった。 好きだった。 好きだった。 離れることで断ち切った縁。 気付いた時に断ち切られていた縁。 辛いのは、苦しいのは彼なのか、僕なのか…。

アルファな彼とオメガな僕。

スメラギ
BL
  ヒエラルキー最上位である特別なアルファの運命であるオメガとそのアルファのお話。  

あなたは僕の運命なのだと、

BL
将来を誓いあっているアルファの煌とオメガの唯。仲睦まじく、二人の未来は強固で揺るぎないと思っていた。 ──あの時までは。 すれ違い(?)オメガバース話。

Ωの愛なんて幻だ

相音仔
BL
男性オメガの地位が最底辺の世界から、Ωが大事に愛しまれている世界へと迷い込んでしまった青年。 愛されているのは分かるのに、育った世界の常識のせいで、なかなか素直になれない日々。 このひとの愛はホンモノなのだろうか?自分はいったいどうすればいいのだろう。 「Ωの愛なんて幻だ」そう思っていた青年が答えを見つけるまでの物語。 ※この小説はムーンライトノベルズでも投稿しています。向こうでは完結済み。 投稿は基本毎日22時。(休日のみ12時30と22時の2回) ・固定CP α(貴族・穏やか・敬語・年上)×Ω(幸薄・無気力・流されやすい・年下) ・ちょっと不思議な設定がある程度でファンタジー(魔法)割合は低め。 ・オメガバースで本番ありなので、18歳未満の方はNG。そこそこの描写がある回はタイトルまえに※入れてあります。

死に戻りオメガはもう旦那様の言うことを聞きたくありません!

進木えい
BL
オリジナル小説を書いているのですが長くてモチベーションの維持が難しく、作成途中のものを公開して更新しようと考えています。もしご興味がありましたらう応援してくださると嬉しいです。

処理中です...