【完結】毎日きみに恋してる

藤吉めぐみ

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【楽視点】きみを好きだと気付くまで4-2

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「やった! ところでさ……楽」
 喜んだと思ったら急に真剣な顔をして突然下の名前を呼んだ及川に、楽は訝し気な顔を向けた。それでも及川の表情は変わらない。
「もし、オレが抱いてって言ったら、抱ける?」
 こんなことを聞かれるのは日常だった。可能か不可能か。
「どうだろうな」
「それって、嫌悪はないってことだろ? 抱かなきゃ世界が終わるとかだったら、抱ける?」
「そりゃ、そんなことになるなら……断りはしないけど」
 だからといって自分から好んで抱くかと聞かれたら、それはない。今は誰ともそうしたいと思えなかった。
 壱月なら――抱きたい。
 そう思った瞬間、楽の中で何かが弾けた。
 壱月だけは抱きたいと思う。触れた唇の柔らかさ、温かな舌先の感触を思い出すだけで鼓動が高鳴る。細い体を抱きしめて白い肌を撫でてそのまま自分の腕の中に閉じ込めて誰にも触れさせたくない。
 そんな想像をして、楽はシャツの胸のあたりをぎゅっと握りしめた。
「……そうか、俺……」
 ――壱月が好きなんだ
 友達だからじゃなくて、好きだからいつも心配だったし、笑顔で居て欲しかったし、泣かせたくなかったし、傍に居たかったのだ。
 そう分かったら、後は単純だった。
 この気持ちを壱月に伝えたい。会って話をして、抱き締めたい。
「どうかした? 楽」
 急に黙り込んだ楽に及川が首を傾げる。楽はそれに答えることなく、時計を見上げた。壱月のバイトが終わる時間だ。今家を出て迎えに行けば会えるかもしれない。
 そう思ったら居てもたってもいられなかった。
「悪い。行くところあるから帰って」
「……え? 壱月の話はいいの?」
「いい。直接聞く」
 そう言って楽は立ち上がった。及川はスマホを取り出して画面を見てから、そろそろかな、と立ち上がる。
「下まで送ってよ、楽」
 玄関でゆっくりと靴を履きながら及川が言う。早く及川を追い出して壱月のところへ行きたい楽は、それに不機嫌な顔を向けた。
「いいだろ、少しくらい」
 玄関でそんな問答をしている場合ではない。仕方なく楽も靴を引っ掛けて部屋を出た。
 楽しそうな及川の後ろを付いていきながら楽は焦りを感じていた。早く壱月のところへ行かないといけない。
「で、考えてよ、同居の話。壱月、出てくんだろ?」
「……壱月が出てくなら、な」
 及川が振り返り、こちらに聞く。楽はさっきと同じように答えた。
 壱月に出ていかせるつもりはないが、また例えばの話、と言われる気がしたのでそう言うしかなかった。
 どうして同じことを聞くのだとため息を吐きながら目の前に視線を向けた、その時だった。
 そこに呆然と立っているのは壱月だった。
「いづ……」
「壱月、もしかして聞いてた? 今の話」
 楽が近づく前に及川が近づく。今にも泣きだしそうな壱月が、ごめんね、と呟く。そうしてから楽と目が合った。その目から涙が転がり落ちる。
 また泣かせてしまった――そう思うと苦しかった。
「壱月」
「……ごめんね」
 壱月はそれだけ言うと、楽を避けるように後退り、走り出した。
「壱月!」
 追いかけなくてはいけない。今壱月を逃がしたらこの手に戻らない気がする。
 無理にでも抱きしめて、閉じ込めなくてはいけない。
 楽はそう思って追いかけようとしたが、及川がそれを全力で止めた。
「楽! 落ち着けって!」
「離せ!」
「無理に追ってもまた逃げられるだけだろ!」
 そう言われて楽の体から力が抜ける。自分の顔を見て逃げたのは事実だし、あんなことをして壱月を傷つけたのだから、逃げても当然だ。
「……前に進もう、楽」
 及川に言われ、楽は呆然と足元を見つめた。前に進むとはどういうことだ。壱月なしで前になんか進めない。せっかく気持ちに気付いたのに、伝えることすらしないままどこに進めと言うのか。
「全部捨てて、オレと一緒に暮そうよ。オレ、楽が飽きないようになんでもするから」
 及川はそう言うと、楽の手をぎゅっと握りしめた。
 違う。今欲しいものはこれではない。そう思った楽はそれに頷かずに黙り込んだ。
 壱月を失うなんてありえない。この手に戻すには、あの笑顔を再び見るにはどうしたらいいのか。
「……全部捨てる……」
「そうだよ。今までのこと全部捨てて、オレと……」
 及川の言葉の途中で楽は、その手を振り払った。
「悪い、俺部屋に戻る」
 それだけ言うと楽は部屋に戻った。
 全部捨てる。
 流されるままの他人の望む宮村楽を捨てる。断らない、なんでも受け入れる自分はもう捨てるのだ。
 楽は部屋に戻るとリビングに置きっぱなしだったスマホを手に取った。
 自分で入れた覚えのない連絡先に片っ端からメッセージを送る。
『もう会わない。連絡先も消して』
 そう送ってから、連絡先も消去する。
 こんなことをして壱月が戻ってくるかなんて分からない。けれど、こうしなければどんなに言葉を尽くしても壱月に気持ちは届かないだろう。
 この先は、壱月一人だけ傍に居ればいい。
 どうかこの気持ちが上手く届けられるように――
 壱月一人だけになった連絡先を見つめ、楽は祈る様な気持ちでスマホを握りしめた。
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