【完結】毎日きみに恋してる

藤吉めぐみ

文字の大きさ
44 / 45

愛を誓うよりも

しおりを挟む

 ホテルのランチブッフェのチケット貰ったんだ、と楽が嬉しそうに帰って来た翌日、壱月と楽はそのチケットが使えるホテルへと来ていた。二人にとって、久々のデートだ。
 一緒に暮してしまうと、結局家で会えてしまうので、経済的な理由もあり、あえて出かけることもしなくなっていた。それだけに、壱月はこうやって二人で出かけることがすごく嬉しかった。
 アールデコ調の外観のホテルはランドマークとしてはよく知っているが、入るのは初めてだった。ロビーもしっとりとしたキャラメル色の床に幾何学模様の壁で海外に来たような印象だった。
 学生である壱月と楽に海外旅行なんてする余裕はないけれど、そんな気分にさせてくれて、壱月はなんだかワクワクしていた。
「二階にレストランがあるんだって。行こう、壱月」
 フロントで場所を確認していた楽が壱月を振り返る。自然に出された左手に壱月は右手を絡める。それから、ここが海外などではなく自分たちが暮らす街の中だった、と思い出し、慌てて離そうとした。けれど、その手は楽にしっかりと握られてしまい、そのまま歩き出す楽に、壱月は、楽、と呼ぶ。
「誰かに見られたら……」
 男同士、子どもでもない自分たちが手を繋いでいる姿はきっと異様だ。どんな奇異の目に晒されるかと思うと、壱月はとても怖かった。
「平気だよ、見られても。だって俺は壱月が好きだし」
「でも、変に思われたら……」
「変じゃないでしょ」
 好きな人と手を繋いでて何がダメなの、と楽はより一層強く壱月の手を握りしめる。それを振り解くことは壱月にはできなかった。
 誰に見られてもいい、という楽の気持ちが嬉しかったし、こういう時の楽はあまり壱月の意見を聞いてくれない。
 壱月は視線を足元に落とし、楽に言い返せない自分にため息を吐いた。

 エレベーターに乗り込み、二階で降りると、目の前には整えられた公園の様な空間が広がっていた。
 目の前には白いタイルの道と水路があり、緑や花も植えられている。空間の真ん中には丸い屋根のガゼボが建っていて、おしゃれな中庭になっていた。
「うわ、すごい……きれい」
「ここで結婚式とかするらしいよ」
 さっきフロントでパンフ見た、と楽が言う。きっと中央のガゼボで愛を誓うのだろう。想像してみるとすごくおしゃれで絵になるところだった。
「俺たちもいつかここで式挙げる?」
「何言ってるの、楽。僕たちがこんなところでなんて、受け入れてくれるはずないよ」
 男同士の結婚が出来ない世の中なのに、そんなものが受け入れられるはずがない。そんな思いで楽を見上げると、その顔は少し不機嫌だった。何か悪いことでも言ったかと思い、壱月が首を傾げる。
「さっきから何なの、壱月。壱月が真面目で少し堅いのは知ってるけどさ、久々の外デートなんだから、もう少し素直になってもいいんじゃない?」
 楽はそう言うと壱月の手を離し、歩き出した。壱月は離された手を見つめ、握り込む。
「行くよ、壱月」
 楽に呼ばれ顔を上げた壱月は、頷いて楽の後ろに付いていった。
 キレイな緑と、水路のせせらぎを聞きながら美味しいランチが食べられるそんな素敵な場所だったのに、あれから一度も喋らない楽の向かい側で、壱月はいつもよりも食べられないまま、食事を終えてしまった。
「……もう食べないのか? 壱月」
「うん……僕、お手洗い行ってくる」
 まだ食事中だった楽にそう言って壱月は席を立った。楽は、ん、とだけ頷いて食事の続きを始める。壱月はそれを見てから歩き出した。
 レストランの中にはお手洗いはないから、中庭を突っ切って向こう側にあるものを使うことになっていた。壱月もそうして中庭に出てきたのだが、ふとガゼボの前で足を止める。
 正面には通路があるが、それ以外はぐるりと水路に囲まれているそこに、壱月は足を踏み入れてみた。少しひんやりとするそこは、人が五人も入ればいっぱいになるような空間だった。
「人前で誓うなんて無理だよ……」
 楽にならいくらでも愛を誓えるけれど、それを誰かに共有して欲しいとは思えない。そこにどんなリスクがあるか分からないからだ。
 楽はいつも人の目を惹く。容姿ももちろんだけど明るい性格も人を惹きつけるようだ。
 だから未だに壱月と楽の関係をよく思っていない人もいる。壱月が釣り合わないというのは分かるけれど、やっぱり言われると切ない。
 それだけではない。楽に対する心無い言葉も聞こえてくるのだ。女に飽きたから壱月と付き合っている、どうせまた何股もしてみんな捨てるんだろ、なんて言われたこともある。楽と自分が乗り越えてきたものを知らない人たちにそんなことを言われて、やっぱり悔しいのだ。
 壱月はそれがどうしても嫌だった。
 だから楽とのことはなるべく秘密に、なるべく目立たなく、祝福なんかなくていいから罵詈雑言もない毎日になるようにしたいのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

なぜかピアス男子に溺愛される話

光野凜
BL
夏希はある夜、ピアスバチバチのダウナー系、零と出会うが、翌日クラスに転校してきたのはピアスを外した優しい彼――なんと同一人物だった! 「夏希、俺のこと好きになってよ――」 突然のキスと真剣な告白に、夏希の胸は熱く乱れる。けれど、素直になれない自分に戸惑い、零のギャップに振り回される日々。 ピュア×ギャップにきゅんが止まらない、ドキドキ青春BL!

完結|好きから一番遠いはずだった

七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。 しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。 なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。 …はずだった。

【完結】腹黒王子と俺が″偽装カップル″を演じることになりました。

Y(ワイ)
BL
「起こされて、食べさせられて、整えられて……恋人ごっこって、どこまでが″ごっこ″ですか?」 *** 地味で平凡な高校生、生徒会副会長の根津美咲は、影で学園にいるカップルを記録して同人のネタにするのが生き甲斐な″腐男子″だった。 とある誤解から、学園の王子、天瀬晴人と“偽装カップル”を組むことに。 料理、洗濯、朝の目覚まし、スキンケアまで—— 同室になった晴人は、すべてを優しく整えてくれる。 「え、これって同居ラブコメ?」 ……そう思ったのは、最初の数日だけだった。 ◆ 触れられるたびに、息が詰まる。 優しい声が、だんだん逃げ道を塞いでいく。 ——これ、本当に“偽装”のままで済むの? そんな疑問が芽生えたときにはもう、 美咲の日常は、晴人の手のひらの中だった。 笑顔でじわじわ支配する、“囁き系”執着攻め×庶民系腐男子の 恋と恐怖の境界線ラブストーリー。 【青春BLカップ投稿作品】

うまく笑えない君へと捧ぐ

西友
BL
 本編+おまけ話、完結です。  ありがとうございました!  中学二年の夏、彰太(しょうた)は恋愛を諦めた。でも、一人でも恋は出来るから。そんな想いを秘めたまま、彰太は一翔(かずと)に片想いをする。やがて、ハグから始まった二人の恋愛は、三年で幕を閉じることになる。  一翔の左手の薬指には、微かに光る指輪がある。綺麗な奥さんと、一歳になる娘がいるという一翔。あの三年間は、幻だった。一翔はそんな風に思っているかもしれない。  ──でも。おれにとっては、確かに現実だったよ。  もう二度と交差することのない想いを秘め、彰太は遠い場所で笑う一翔に背を向けた。

俺が王太子殿下の専属護衛騎士になるまでの話。

黒茶
BL
超鈍感すぎる真面目男子×謎多き親友の異世界ファンタジーBL。 ※このお話だけでも読める内容ですが、 同じくアルファポリスさんで公開しております 「乙女ゲームの難関攻略対象をたぶらかしてみた結果。」 と合わせて読んでいただけると、 10倍くらい楽しんでいただけると思います。 同じ世界のお話で、登場人物も一部再登場したりします。 魔法と剣で戦う世界のお話。 幼い頃から王太子殿下の専属護衛騎士になるのが夢のラルフだが、 魔法の名門の家系でありながら魔法の才能がイマイチで、 家族にはバカにされるのがイヤで夢のことを言いだせずにいた。 魔法騎士になるために魔法騎士学院に入学して出会ったエルに、 「魔法より剣のほうが才能あるんじゃない?」と言われ、 二人で剣の特訓を始めたが、 その頃から自分の身体(主に心臓あたり)に異変が現れ始め・・・ これは病気か!? 持病があっても騎士団に入団できるのか!? と不安になるラルフ。 ラルフは無事に専属護衛騎士になれるのか!? ツッコミどころの多い攻めと、 謎が多いながらもそんなラルフと一緒にいてくれる頼りになる受けの 異世界ラブコメBLです。 健全な全年齢です。笑 マンガに換算したら全一巻くらいの短めのお話なのでさくっと読めると思います。 よろしくお願いします!

諦めた初恋と新しい恋の辿り着く先~両片思いは交差する~【全年齢版】

カヅキハルカ
BL
片岡智明は高校生の頃、幼馴染みであり同性の町田和志を、好きになってしまった。 逃げるように地元を離れ、大学に進学して二年。 幼馴染みを忘れようと様々な出会いを求めた結果、ここ最近は女性からのストーカー行為に悩まされていた。 友人の話をきっかけに、智明はストーカー対策として「レンタル彼氏」に恋人役を依頼することにする。 まだ幼馴染みへの恋心を忘れられずにいる智明の前に、和志にそっくりな顔をしたシマと名乗る「レンタル彼氏」が現れた。 恋人役を依頼した智明にシマは快諾し、プロの彼氏として完璧に甘やかしてくれる。 ストーカーに見せつけるという名目の元で親密度が増し、戸惑いながらも次第にシマに惹かれていく智明。 だがシマとは契約で繋がっているだけであり、新たな恋に踏み出すことは出来ないと自身を律していた、ある日のこと。 煽られたストーカーが、とうとう動き出して――――。 レンタル彼氏×幼馴染を忘れられない大学生 両片思いBL 《pixiv開催》KADOKAWA×pixivノベル大賞2024【タテスクコミック賞】受賞作 ※商業化予定なし(出版権は作者に帰属) この作品は『KADOKAWA×pixiv ノベル大賞2024』の「BL部門」お題イラストから着想し、創作したものです。 https://www.pixiv.net/novel/contest/kadokawapixivnovel24

殿堂入りした愛なのに

たっぷりチョコ
BL
全寮の中高一貫校に通う、鈴村駆(すずむらかける) 今日からはれて高等部に進学する。 入学式最中、眠い目をこすりながら壇上に上がる特待生を見るなり衝撃が走る。 一生想い続ける。自分に誓った小学校の頃の初恋が今、目の前にーーー。 両片思いの一途すぎる話。BLです。

三ヶ月だけの恋人

perari
BL
仁野(にの)は人違いで殴ってしまった。 殴った相手は――学年の先輩で、学内で知らぬ者はいない医学部の天才。 しかも、ずっと密かに想いを寄せていた松田(まつだ)先輩だった。 罪悪感にかられた仁野は、謝罪の気持ちとして松田の提案を受け入れた。 それは「三ヶ月だけ恋人として付き合う」という、まさかの提案だった――。

処理中です...