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勤務
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「あ~今日は休みたかった…」
後ろから来た同僚に思いっ切り頭を叩かれた。
「お前、ちゃんとしろよ!」
「あっ、すまん。俺、声出てたか?」
「ああ。思いっ切りたるんでたわ。しばくぞ!」
「サンキューな。気合入った(笑)」
「まぁお前のことだ。心配はしてないよ」
そして、ついでのようにまた頭を張られた。
「お前の頭は石頭だからな(笑)」
笑いながら部屋を出ていった。
5秒だけ。伊織のことを考えた。あの時より綺麗になってたな…。
その頃、伊織はせめてものお礼をと洗濯をしていた。
「えっ?使ったことないの?」
洗濯機の使い方を教えてほしいと頼んだら、びっくりされた…。情けない。でも、恥ずかしさよりもこんなに親切にしてくれた拓馬の役に立ちたくて、一度では覚えられなかったけれど、何とか洗濯できるようになった。
うちで手伝いしたことなかったのかも…。自分の手を見て拓馬の言葉を思い出していた。
『水仕事とは無縁そうな手だな』
何にもできない自分が情けなかった。でも、拓馬は伊織を馬鹿にしたりしなかった。根気よく教えてくれて、無理しなくていいからなって頭をわしわし撫でてくれた。
「でも、僕は役に立ちたいんだ」
自分に言い聞かせて、慣れない家事をやってみた。自分が使ったシーツとタオル。汗をかいてしまったパジャマ、拓馬の下着や服も洗ってみた。
干し方も聞いておいた。
「タオルはこっちのピンチが沢山ついてるやつに干すんだよ。よ~く振ってタオルの毛を立たせるとフワフワになるからね」
洗う前のタオルでやり方を見せながら教えてくれた。服とかシーツの干し方も。
「ありがとう!僕、拓馬さんが帰ってくるまでにちゃんと干して畳んでおくね。でも…」
「でも、なに?」
不思議そうな顔で伊織を見る拓馬に、
「下手だったらごめんなさい…」
と先に謝っておいた。
拓馬の目が優しく垂れた。
「初めてやるのに褒める以外の事なんてないよ…」
拓馬は伊織の頬に触れた。優しい琥珀色の瞳に、僕は心臓が口から出そうだった。
「うん…。抽斗の中見てもいい?」
「ん?いいけど…。何で?」
僕は少しでもよく出来るようにお手本を見ておこうと思っていた。
「お手本を見たくて…」
「ああ…。なるほど!頭いいね(笑)」
破顔一笑!ってこういう顔なんだねって思うくらい、思いっ切り嬉しそうに笑う拓馬に、僕は不思議な気持ちを抱き始めていることにまだ気付いていなかった。ただ、やたらとドキドキするなって思っていた。
お昼になって、伊織はキッチンに入ってみた。拓馬に冷蔵庫に食べられるように一食分ずつ入ってるからと言われていたからだ。
「えっ!」
冷蔵庫を開けてびっくりした。ほんとに控えめに言って、開いた口が塞がらないくらいびっくりしていた。
「すごい!お店みたいだ…」
デパ地下のおしゃれなお惣菜売り場がここに?って言うくらい、一つ一つタッパーに入ったおかずは全部違うお料理で、しかもどれもよだれが知らず知らず出ちゃうくらい美味しそうだった。
「拓馬さんは…。レスキュー隊員なんだよね?レスキュー隊の人ってみんなこんな人なのかな…」
んなわけないでしょと普通は思うところなのだが、伊織は多分、超がつくくらいのお坊ちゃん育ちのようで、拓馬さんって凄い!レスキュー隊の人って凄い!と素直に思っていた。
「どれ食べようかな…。でも…ほんとにこんなに美味しそうなの食べちゃっていいのかな…」
その時、拓馬の家の電話が鳴った。
「二回鳴らして切る。すぐまたかけるから、そしたら出てね」
拓馬が言ったとおりに二回鳴って切れて、また鳴った。
「もしもし?伊織?」
「はい、僕です。伊織です」
「伊織。遠慮してごはん食べないでいるんじゃないかと思ってさ。電話したんだ」
何で分かるの!
「えっと…」
「いいんだよ。ちゃんと食べて待ってて。家事も無理しなくていいんだからね」
優しい拓馬の声が心地よかった。ちょっと泣けてくるほど…。
「伊織?どうした?」
あっ!拓馬に余計な心配かけちゃう。
「ありがとう。どれ食べようかなって迷っちゃった(笑)」
「その調子!じゃあそろそろごめんね」
「はい!お仕事頑張って下さい」
「くれぐれも無理しないようにね(笑)」
じゃあまたねと優しい電話が終わった。
「はあ…。優しい…」
顔が熱かった。何でかは分からないけど、褒められると尻尾があったらちぎれてる(笑)と思うくらい嬉しくて、何度でもあの笑顔が見たいと思っていた。
「食べなかったら拓馬さんに心配かけちゃう!」
遠慮したら怒られそうだと、マカロニが入った美味しそうなサラダを選んでテーブルについた。
「こんなに美味しそうなの…。僕も作れたらいいのにな…」
いただきますと手を合わせ、一口食べたら目が飛び出そうなくらい美味しかった。
「教えてって言ったらなんて言うかな…」
僕が作った料理を美味しそうに食べる拓馬の姿を想像して、僕は知らぬ間に微笑んでいた。
……………………………………………………………………
「何やってるんですか…」
こんな年下のヤローにあれこれ指図されるなんてな…。
「聞いてますか?伊織は今どこにいるんですか?」
「それは…」
俺が追っている時、一瞬の隙を突いて姿を消した。あんな一本道で一体どこに隠れたっていうんだ?
「見失った訳ですね…。困りますね。あなたにはそれ相応の…」
「いや、全く手がかりがないわけじゃないので…」
やたらがたいのいい男が走ってたんだよな…。オレンジ色のズボンをはいて、キャップをかぶった…。確かあの辺りに消防署があったな。あそこの署員か?
「当てがあるんで大丈夫です。すみませんか少々時間を…」
「仕方ないな。今回だけですよ」
分かってるよ。あんなひ弱そうな大学生なんざ、片腕くらいなんてことない。
「お願いしますよ。ちょっと指が動かなくなる程度のケガでいいんですから…」
おいおい。あんたらにとっちゃ命の次に大切な手だろうが。汚え奴だよ、全く…。
「じゃ、また連絡します」
「宜しく」
電話はいきなり切れた。むかつく切り方だよ、全く。
もう一度、伊織が消えた辺りを歩いてみた。やっぱりあの男を見つけるしかないな。
くわえていたタバコを地面に落とすと踵で踏み潰した。あんな奴の言うこときいてやんのも金のためだけだ。
「ほんと、性格悪いぜ」
イラついた男の靴の裏で、吸い殻は無残にも崩れ去っていた。
後ろから来た同僚に思いっ切り頭を叩かれた。
「お前、ちゃんとしろよ!」
「あっ、すまん。俺、声出てたか?」
「ああ。思いっ切りたるんでたわ。しばくぞ!」
「サンキューな。気合入った(笑)」
「まぁお前のことだ。心配はしてないよ」
そして、ついでのようにまた頭を張られた。
「お前の頭は石頭だからな(笑)」
笑いながら部屋を出ていった。
5秒だけ。伊織のことを考えた。あの時より綺麗になってたな…。
その頃、伊織はせめてものお礼をと洗濯をしていた。
「えっ?使ったことないの?」
洗濯機の使い方を教えてほしいと頼んだら、びっくりされた…。情けない。でも、恥ずかしさよりもこんなに親切にしてくれた拓馬の役に立ちたくて、一度では覚えられなかったけれど、何とか洗濯できるようになった。
うちで手伝いしたことなかったのかも…。自分の手を見て拓馬の言葉を思い出していた。
『水仕事とは無縁そうな手だな』
何にもできない自分が情けなかった。でも、拓馬は伊織を馬鹿にしたりしなかった。根気よく教えてくれて、無理しなくていいからなって頭をわしわし撫でてくれた。
「でも、僕は役に立ちたいんだ」
自分に言い聞かせて、慣れない家事をやってみた。自分が使ったシーツとタオル。汗をかいてしまったパジャマ、拓馬の下着や服も洗ってみた。
干し方も聞いておいた。
「タオルはこっちのピンチが沢山ついてるやつに干すんだよ。よ~く振ってタオルの毛を立たせるとフワフワになるからね」
洗う前のタオルでやり方を見せながら教えてくれた。服とかシーツの干し方も。
「ありがとう!僕、拓馬さんが帰ってくるまでにちゃんと干して畳んでおくね。でも…」
「でも、なに?」
不思議そうな顔で伊織を見る拓馬に、
「下手だったらごめんなさい…」
と先に謝っておいた。
拓馬の目が優しく垂れた。
「初めてやるのに褒める以外の事なんてないよ…」
拓馬は伊織の頬に触れた。優しい琥珀色の瞳に、僕は心臓が口から出そうだった。
「うん…。抽斗の中見てもいい?」
「ん?いいけど…。何で?」
僕は少しでもよく出来るようにお手本を見ておこうと思っていた。
「お手本を見たくて…」
「ああ…。なるほど!頭いいね(笑)」
破顔一笑!ってこういう顔なんだねって思うくらい、思いっ切り嬉しそうに笑う拓馬に、僕は不思議な気持ちを抱き始めていることにまだ気付いていなかった。ただ、やたらとドキドキするなって思っていた。
お昼になって、伊織はキッチンに入ってみた。拓馬に冷蔵庫に食べられるように一食分ずつ入ってるからと言われていたからだ。
「えっ!」
冷蔵庫を開けてびっくりした。ほんとに控えめに言って、開いた口が塞がらないくらいびっくりしていた。
「すごい!お店みたいだ…」
デパ地下のおしゃれなお惣菜売り場がここに?って言うくらい、一つ一つタッパーに入ったおかずは全部違うお料理で、しかもどれもよだれが知らず知らず出ちゃうくらい美味しそうだった。
「拓馬さんは…。レスキュー隊員なんだよね?レスキュー隊の人ってみんなこんな人なのかな…」
んなわけないでしょと普通は思うところなのだが、伊織は多分、超がつくくらいのお坊ちゃん育ちのようで、拓馬さんって凄い!レスキュー隊の人って凄い!と素直に思っていた。
「どれ食べようかな…。でも…ほんとにこんなに美味しそうなの食べちゃっていいのかな…」
その時、拓馬の家の電話が鳴った。
「二回鳴らして切る。すぐまたかけるから、そしたら出てね」
拓馬が言ったとおりに二回鳴って切れて、また鳴った。
「もしもし?伊織?」
「はい、僕です。伊織です」
「伊織。遠慮してごはん食べないでいるんじゃないかと思ってさ。電話したんだ」
何で分かるの!
「えっと…」
「いいんだよ。ちゃんと食べて待ってて。家事も無理しなくていいんだからね」
優しい拓馬の声が心地よかった。ちょっと泣けてくるほど…。
「伊織?どうした?」
あっ!拓馬に余計な心配かけちゃう。
「ありがとう。どれ食べようかなって迷っちゃった(笑)」
「その調子!じゃあそろそろごめんね」
「はい!お仕事頑張って下さい」
「くれぐれも無理しないようにね(笑)」
じゃあまたねと優しい電話が終わった。
「はあ…。優しい…」
顔が熱かった。何でかは分からないけど、褒められると尻尾があったらちぎれてる(笑)と思うくらい嬉しくて、何度でもあの笑顔が見たいと思っていた。
「食べなかったら拓馬さんに心配かけちゃう!」
遠慮したら怒られそうだと、マカロニが入った美味しそうなサラダを選んでテーブルについた。
「こんなに美味しそうなの…。僕も作れたらいいのにな…」
いただきますと手を合わせ、一口食べたら目が飛び出そうなくらい美味しかった。
「教えてって言ったらなんて言うかな…」
僕が作った料理を美味しそうに食べる拓馬の姿を想像して、僕は知らぬ間に微笑んでいた。
……………………………………………………………………
「何やってるんですか…」
こんな年下のヤローにあれこれ指図されるなんてな…。
「聞いてますか?伊織は今どこにいるんですか?」
「それは…」
俺が追っている時、一瞬の隙を突いて姿を消した。あんな一本道で一体どこに隠れたっていうんだ?
「見失った訳ですね…。困りますね。あなたにはそれ相応の…」
「いや、全く手がかりがないわけじゃないので…」
やたらがたいのいい男が走ってたんだよな…。オレンジ色のズボンをはいて、キャップをかぶった…。確かあの辺りに消防署があったな。あそこの署員か?
「当てがあるんで大丈夫です。すみませんか少々時間を…」
「仕方ないな。今回だけですよ」
分かってるよ。あんなひ弱そうな大学生なんざ、片腕くらいなんてことない。
「お願いしますよ。ちょっと指が動かなくなる程度のケガでいいんですから…」
おいおい。あんたらにとっちゃ命の次に大切な手だろうが。汚え奴だよ、全く…。
「じゃ、また連絡します」
「宜しく」
電話はいきなり切れた。むかつく切り方だよ、全く。
もう一度、伊織が消えた辺りを歩いてみた。やっぱりあの男を見つけるしかないな。
くわえていたタバコを地面に落とすと踵で踏み潰した。あんな奴の言うこときいてやんのも金のためだけだ。
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