用心棒な家政夫

ハジメユキノ

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癒し

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ようやく勤務が明けて家に帰れる!と喜んだのもつかの間、明け方に署内にサイレンが響き渡った。緊急出動だ。
「拓馬、行くぞ!」
「はい!」
一瞬、伊織の顔が頭をよぎったが、自分は行かなくちゃいけない。
「ごめん、伊織。帰るの遅くなるな…」

伊織は朝早く起きた。まだ、5時くらいかな…。沢山眠って、美味しいごはんをちゃんと食べたからか、すっかり風邪も良くなって元気がみなぎっていた。
「確か、そろそろ帰ってくる時間かな…」
拓馬が帰って来たら、またあの笑顔が見られるなと何だか心が高揚していた。
「僕が料理出来る人だったらな…」
ガスコンロの使い方が怪しかったので、帰って来たら教えてもらおうと思っていた。僕にも作れるものあるかな?
「僕に出来ること…。あっそうだ!」
サンダルをつっかけて外に出ると、近くの空き地に花が咲いていた。なんてことない野の花だけど、工夫すれば何とか…。
綺麗に咲いている所を少しだけもらい、拓馬の家の中で花瓶になるものを探した。
「この空き瓶なら可愛く飾れるかな?」
バランスを見ながら丁寧に活けた。
「うん!これなら少しは見栄えするな」
テーブルにコースターを一つ借りて、可愛らしく飾った。
「喜んでくれるかな?」
優しい琥珀色の瞳が輝くのを想像して、僕は一人ニコニコしていた。
「早く帰ってこないかな…」

現場はかなりの混乱状態で、厄介なことに風も強く、道幅が狭いので大型車両が入れなかった。火元の一軒家はご高齢の夫婦が逃げ遅れているという連絡を受けていた。消火隊と一緒に出動した拓馬は人命救助の為に最前線で消火活動をしていた。
「仕方ないな。伸ばせるだけ伸ばしてやるしかない」
消火栓からもちょうど距離が長い場所で、だいぶ走らなければいけないが、そんなことは当たり前だとみんなかけずり回っていた。
幸いなことに出火元の住人は玄関先で救助され、ケガも大事に至らず、周りの住宅にも延焼しなかった。
「一カ所で済んでよかった」
「ですね」
拓馬はちょっとだけ伊織の事を思った。あと少しで顔見れるな…。不謹慎だと怒られそうだが、心の奥深くでほんの数秒、伊織の顔を思い出していた。

その頃、伊織は拓馬の帰りが少し遅いなぁと心配していた。でも、緊急事態があったらすぐには帰れないんだろうなって思い直した。
「僕が出来ることやっておこう」
ごはんを食べた後の片付けの延長で流しを磨いていたけれど、あんまりにもピカピカで汚い所が全然なかった。
お料理も上手で、家事も完璧。おまけにレスキュー隊員ってどんだけすごい人なんだろうと、ちょっとだけ自分と比べて落ち込んだ。
「でも、馬鹿にしたりしないんだよな…。」
『初めてやるのに褒める以外の事なんてないよ』なんて言ってくれた。その言葉は、もらった途端に僕の宝物になった。
「あんなに優しい言葉をもらったのは、多分初めてだよ…」
僕はすっかり拓馬の役に立つことばかり考えて、自分がどこの誰で、誰かが心配していることなんかすっかり頭から抜け落ちていた。もちろん、誰かに狙われていたことも…。

……………………………………………
拓馬が消防署を離れている時、一人の男がそこを訪れていた。男はこざっぱりとした身なりで眼鏡をかけ、とても感じの良い笑顔だった。
「すみません。ちょっとお伺いしたいことがあるんですが…」
事務の署員に話しかけた。
「昨日、外を訓練で走っていた方はいませんか?」と…。
応対した者が理由を尋ねると、
「いや、その方がこの帽子を落としていかれたので届けに来たんです」
と言って、昨日拓馬がかぶっていた紺色のキャップとよく似たものを差し出した。
「黒いTシャツを着て、オレンジ色のズボンをはいていた方なんですが…」
すると、
「ああ!それなら五十嵐かな?昨日そんな格好していたような…。ありがとうございます。渡しておきますね」
深々と一礼され、男は一瞬バツの悪そうな顔をした。だが、それも一瞬で、
「いや~、良かった!多分その人ですね。宜しくお伝え下さい」
男は名前も告げず立ち去ろうとするので、
「お待ち下さい!お名前教えて頂けませんか?」
と引き留めた。
「いや、名乗るほどの者じゃありませんよ(笑)」
では失礼、と男はスタスタとその場をあとにしてしまった。背中にかけられる声が聞こえたが、振り返ることもなく歩き去った。
「五十嵐ね…。それだけ分かれば充分だ」
不敵な笑みを浮かべ、先ほどの感じの良さは消え失せていた。

……………………………………………………………………
拓馬が署に戻ると、事務の署員に声をかけられた。
「五十嵐さん!ちょっと!」
何だろうと近寄ると、
「昨日キャップ落としたでしょ?届けてくれた方がいて…」
ほら!と手渡されたキャップは自分のとよく似たものだったが、
「俺のじゃないですよ。俺落としてないですもん」
ロッカーまで走って、自分のを持ってきて見せた。
「あれ?そうなんだ!僕、てっきり五十嵐さんのかなって言っちゃったんですが…」
違ったんですね、すみません…とその人は話していたが、拓馬は何だか嫌な予感がして、その人の話が全く耳に入ってこなかった。
伊織を見つけたとき、
『ちょっと命を狙われてるみたいなんです』
と言っていたのを思い出していた。
まさか…。あれが伊織が寝ぼけていたんじゃなかったとしたら…。
「すみません!俺、急用を思い出したんで!失礼します!!」
「あっ!ちょっと!五十嵐さん?」
拓馬は急いで着替えると、署を飛び出して行った。

伊織はお昼に何食べようかなって冷蔵庫を覗いていた。
「それにしても拓馬さんは忙しいんだな…。早く帰ってこないかな…」
一人呟いていると、玄関のドアフォンが鳴った。
あっ!きっと拓馬さんだ!
ドアスコープも覗かず、伊織は勢いよくドアを開けてしまった。するとそこには見知らぬ人が立っていた。
「あの…。あなたは?」
お互いに頭の上に?マークを浮かべて向かい合っていた。
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