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新しい道
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爽に赤ちゃんが生まれた。去年結婚して、間もなく子供が出来たと聞かされていた。そして一週間前、可愛い女の子が桜の開花と共にみんなに春を連れてきた。
「こんにちは~!赤ちゃん見に来ました!」
「ちょっと今でられないから、居間に来て!」
糸の声がドアの向こうから聞こえた。伊織と拓馬は、お祝いの手作りの花束とプレゼントを持って居間のドアを開けた。
陽当たりの良い場所に小さなお布団が敷かれ、爽と糸の間ですやすや眠っている赤ちゃんが見えた。
「わっ!可愛い…」
「あっ…」
慌てて口を両手で塞いだ伊織と拓馬は、自分たちの来訪で眠りの邪魔をしてしまったかとヒヤヒヤしていた。
「いらっしゃい(笑)」
小声でだが、爽が二人の来訪を笑顔で迎えてくれた。
「ごめん…。起きなかった?」
拓馬が心配すると、
「大丈夫(笑)。うちの血筋は中々図太いのよ。一旦寝たら起きないわよ(笑)」
と糸は笑った。
「そうだった(笑)爽もよく寝る子だったもんな」
拓馬は爽を見て笑った。
「それにしても可愛い♡」
「でしょ~(笑)」
「爽さんに似てる?」
「匠(たくみ)くんにも似てる…」
安田の下の名前は匠と言う。
「名前は?決めたの?」
「うん!みんな来たら発表しようと思って…。じゃん!」
咲桜(さら)と綺麗な文字が和紙に書かれていた。
「ここから見えるでしょ?毎年家でお花見出来るのもお父さんが庭に植えてくれたから…」
この家の主だった拓(ひらく)さんは、拓馬が小学校に上がる前に亡くなった。拓馬がレスキュー隊員を目指したのは父の影響だった。伊織は拓馬の手を握った。
「ん?どした?」
「なんとなく…」
伊織が拓馬の小さい頃を聞いていたから心配になったんだろうなと拓馬は思った。伊織の優しさを感じて、手を握り返した。
「だから、さら。桜が咲く咲桜にしようと思ったの」
「お父さんが喜ぶね」
「そうね…」
糸は少しだけ懐かしむ顔を覗かせた。
「それにしても、伊織くん!着物素敵ね」
伊織は薄鼠の着物に藍色の羽織を着ていた。作ってきてくれた花束には桜の枝が入っていた。
「咲桜の名前は知らなかったのよね?」
糸に聞かれ、伊織は頷いた。
「綺麗だったから入れたんですけど…。幸せな偶然です(笑)」
爽は拓馬と伊織の姿に、二人が出会ったときのあの記事を思い出していた。
「お兄ちゃん。ずっと聞かされてきた伊織くんとの出会いの事思い出すね。これは惚れちゃうわ(笑)」
「だろ?」
相変わらずの溺愛…。伊織くんは照れてるし。
「もっと早く会いに来たかったんだけど…」
「お兄ちゃんも伊織くんもそれぞれ忙しかったんだからいいの!」
爽の笑顔はいつもより綺麗だった。母の顔と、大事にされている妻の顔と。幸せそう…。
「お兄ちゃん、ずいぶん大変だったらしいね」
「規模が大きかったからね…」
大きな地震で家屋の倒壊が広い範囲で起こり、行方不明者捜索に派遣されていた。ここ1週間出ずっぱりでようやく昨日帰ってきたところだった。
伊織は伊織で、勤務先のフラワーアレンジメントの会社で大きな展示会を行っていたので、家には寝に帰る位の忙しい生活を送っていた。
「伊織くんも心配だっだでしょう?」
「はい…。でも、信じて待ってるしかないので…」
拓馬は伊織の手を握っていた。籍を入れられない二人は、お互いに家族としては認められないという現実があった。
「俺、今回のことで考えたんだけど…」
「うん」
「伊織と俺、養子縁組をしようと思う」
「…。戸籍上、結婚出来ないから?」
「そう。俺に何かあったら、伊織に何にも残してやれないから…」
伊織は拓馬の隣で泣きそうな顔をしていた。
「ごめんなさい…。咲桜ちゃんの前で泣きそうになって…」
「出来ることはしておきなさい」
糸が優しい目で言った。
「大切な人に出来ることは、出来るうちに何でもしてあげて…」
「許してもらえる?」
「反対する理由なんてないわよ」
糸も爽も二人に微笑んだ。
「お兄ちゃんの気持ち分かる。法律上結婚出来ないけど、お兄ちゃんと伊織くんはもうお互いしかいないもんね」
「爽…。ありがとう」
拓馬と伊織は二人に頭を下げていた。
「顔を上げて。当たり前の事を当たり前にしようとしてるだけなんだから」
糸の言葉に拓馬の目に流れ出さない涙が浮かんだ。伊織はもう泣いていた。
「ありがとうございます…」
二人は意図せずに同時に感謝の言葉を言っていた。
「相変わらずの仲良しね(笑)」
爽に茶化され、拓馬はいつもの調子に戻った。
「見習えよ(笑)」
「真似しなくても私達は仲良しです!」
「のろけてる…」
今度は伊織に茶化された。
「伊織くんも言うようになったよね~」
「だって負けてばっかだから…」
「あたしが強いみたいじゃない!」
「強い…ですよ?」
「💢」
糸が笑いながら間に入った。
「はいはい。そこまで。咲桜の前よ!」
「は~い…」
二人して残念そうにハモった。
「咲桜が眠ってる間にご飯にしちゃいましょ!」
「そうですね」
「あっ!あとこれ」
伊織が爽に差し出した。
「ありがとう。開けていい?」
綺麗な柄の和紙に包まれたプレゼントを開けると、桜色の可愛らしい着物が入っていた。髪飾りも和紙で作られた桜があしらわれた小さなかんざしでとても可愛らしかった。
「まだ全然早いけど、着物は直せるから言って下さいね(笑)」
「ありがとう!名前と同じ桜色ね」
爽は眠る咲桜のほっぺを撫でた。ぷくぷくの柔らかな頬は桜より桃色に色付いていた。
「こんにちは~!赤ちゃん見に来ました!」
「ちょっと今でられないから、居間に来て!」
糸の声がドアの向こうから聞こえた。伊織と拓馬は、お祝いの手作りの花束とプレゼントを持って居間のドアを開けた。
陽当たりの良い場所に小さなお布団が敷かれ、爽と糸の間ですやすや眠っている赤ちゃんが見えた。
「わっ!可愛い…」
「あっ…」
慌てて口を両手で塞いだ伊織と拓馬は、自分たちの来訪で眠りの邪魔をしてしまったかとヒヤヒヤしていた。
「いらっしゃい(笑)」
小声でだが、爽が二人の来訪を笑顔で迎えてくれた。
「ごめん…。起きなかった?」
拓馬が心配すると、
「大丈夫(笑)。うちの血筋は中々図太いのよ。一旦寝たら起きないわよ(笑)」
と糸は笑った。
「そうだった(笑)爽もよく寝る子だったもんな」
拓馬は爽を見て笑った。
「それにしても可愛い♡」
「でしょ~(笑)」
「爽さんに似てる?」
「匠(たくみ)くんにも似てる…」
安田の下の名前は匠と言う。
「名前は?決めたの?」
「うん!みんな来たら発表しようと思って…。じゃん!」
咲桜(さら)と綺麗な文字が和紙に書かれていた。
「ここから見えるでしょ?毎年家でお花見出来るのもお父さんが庭に植えてくれたから…」
この家の主だった拓(ひらく)さんは、拓馬が小学校に上がる前に亡くなった。拓馬がレスキュー隊員を目指したのは父の影響だった。伊織は拓馬の手を握った。
「ん?どした?」
「なんとなく…」
伊織が拓馬の小さい頃を聞いていたから心配になったんだろうなと拓馬は思った。伊織の優しさを感じて、手を握り返した。
「だから、さら。桜が咲く咲桜にしようと思ったの」
「お父さんが喜ぶね」
「そうね…」
糸は少しだけ懐かしむ顔を覗かせた。
「それにしても、伊織くん!着物素敵ね」
伊織は薄鼠の着物に藍色の羽織を着ていた。作ってきてくれた花束には桜の枝が入っていた。
「咲桜の名前は知らなかったのよね?」
糸に聞かれ、伊織は頷いた。
「綺麗だったから入れたんですけど…。幸せな偶然です(笑)」
爽は拓馬と伊織の姿に、二人が出会ったときのあの記事を思い出していた。
「お兄ちゃん。ずっと聞かされてきた伊織くんとの出会いの事思い出すね。これは惚れちゃうわ(笑)」
「だろ?」
相変わらずの溺愛…。伊織くんは照れてるし。
「もっと早く会いに来たかったんだけど…」
「お兄ちゃんも伊織くんもそれぞれ忙しかったんだからいいの!」
爽の笑顔はいつもより綺麗だった。母の顔と、大事にされている妻の顔と。幸せそう…。
「お兄ちゃん、ずいぶん大変だったらしいね」
「規模が大きかったからね…」
大きな地震で家屋の倒壊が広い範囲で起こり、行方不明者捜索に派遣されていた。ここ1週間出ずっぱりでようやく昨日帰ってきたところだった。
伊織は伊織で、勤務先のフラワーアレンジメントの会社で大きな展示会を行っていたので、家には寝に帰る位の忙しい生活を送っていた。
「伊織くんも心配だっだでしょう?」
「はい…。でも、信じて待ってるしかないので…」
拓馬は伊織の手を握っていた。籍を入れられない二人は、お互いに家族としては認められないという現実があった。
「俺、今回のことで考えたんだけど…」
「うん」
「伊織と俺、養子縁組をしようと思う」
「…。戸籍上、結婚出来ないから?」
「そう。俺に何かあったら、伊織に何にも残してやれないから…」
伊織は拓馬の隣で泣きそうな顔をしていた。
「ごめんなさい…。咲桜ちゃんの前で泣きそうになって…」
「出来ることはしておきなさい」
糸が優しい目で言った。
「大切な人に出来ることは、出来るうちに何でもしてあげて…」
「許してもらえる?」
「反対する理由なんてないわよ」
糸も爽も二人に微笑んだ。
「お兄ちゃんの気持ち分かる。法律上結婚出来ないけど、お兄ちゃんと伊織くんはもうお互いしかいないもんね」
「爽…。ありがとう」
拓馬と伊織は二人に頭を下げていた。
「顔を上げて。当たり前の事を当たり前にしようとしてるだけなんだから」
糸の言葉に拓馬の目に流れ出さない涙が浮かんだ。伊織はもう泣いていた。
「ありがとうございます…」
二人は意図せずに同時に感謝の言葉を言っていた。
「相変わらずの仲良しね(笑)」
爽に茶化され、拓馬はいつもの調子に戻った。
「見習えよ(笑)」
「真似しなくても私達は仲良しです!」
「のろけてる…」
今度は伊織に茶化された。
「伊織くんも言うようになったよね~」
「だって負けてばっかだから…」
「あたしが強いみたいじゃない!」
「強い…ですよ?」
「💢」
糸が笑いながら間に入った。
「はいはい。そこまで。咲桜の前よ!」
「は~い…」
二人して残念そうにハモった。
「咲桜が眠ってる間にご飯にしちゃいましょ!」
「そうですね」
「あっ!あとこれ」
伊織が爽に差し出した。
「ありがとう。開けていい?」
綺麗な柄の和紙に包まれたプレゼントを開けると、桜色の可愛らしい着物が入っていた。髪飾りも和紙で作られた桜があしらわれた小さなかんざしでとても可愛らしかった。
「まだ全然早いけど、着物は直せるから言って下さいね(笑)」
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