ラストレター

ハジメユキノ

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優しい表情(かお)

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「やっと俺を見たな…」
五代は隣でぐっすりと眠る芹の髪を梳いていた。
「今日は寂しそうな顔…しなかったな。お前にそんな顔させるのは誰なんだ?」
白くてきめの細かい肌が触る度に手に吸い付く。女の体みたいな柔らかさはないが、薄く筋肉の付いた均整の取れた体は、抱いたとき俺をやけに興奮させた。
「俺は初めて男を抱きたいって思ったんだ…」
女しか抱いたことがない、正真正銘のストレートだったんだぞ?男の抱き方なんて知らなかった。なのに、どんなに美しい女よりもお前が欲しかった。俺の事務所に初めて現れた芹を見たとき、不遜な態度の奥に自分で自分を抱き締めて不安そうにしているお前が見えた。カラダを手に入れた今、俺はお前の目に映る唯一の男になりたいと思っていた。
「芹…。俺はどんな人にも執着したことはなかった。大切な人なんて…。弘樹は別だけどな。お前は俺の大切な人になるのか?」
今、目の前に眠っている芹は、少しだけ幸せそうに見えた。
「俺が抱いた相手を愛おしいと思う日がくるなんて…」
軽く閉じられた唇に優しくキスをすると、頭を一撫でしてベッドルームを出ていった。

芹は五代に抱かれて何度目かの絶頂の直後、意識を失っていた。気付いたら、ベッドの中には五代の姿はなかった。
「…。俺、ずっと眠ってたのか?」
夢の中で五代が俺の髪を梳きながら優しいキスをしていた。
『お前は俺の大切な人になるのか?』
あの男が口にするとは思えない台詞。あんなサディストのような男。なのに俺を見ながら一緒にイった時、眼差しが優しすぎた。あの目に見つめられて、勘違いをしてしまいそうだった。あの男の口から『愛してる』って言葉が出てくるような気がしてしまったんだ。
「馬鹿みたいだ…。俺はもう誰も愛したりしない。陸玖より大切な人なんてこの世界に居るわけない」
俺は五代がベッドサイドにキチンと畳んで置いてくれた自分の服を着た。もう帰らないと…。あの男に心まで持っていかれてしまう。

芹が起きた物音を聞いて、ベッドルームの扉を開けようと手をかけたが、中で芹が呟いた言葉を聞いて立ち止まった。
「りく。あいつの心の中に居るのは、りくって男か…」
芹が着替え終わった頃を見計らってドアを開けた。
「起きたのか?まだ夕方だ。一緒に飯食おう」
「いや…。俺はもう帰る」
「せっかく作ったんだ。無駄になるだろう?付き合えよ」

えっ?まさかこいつが作ったのか?
美味しそうなハンバーグ定食?つやつやしたと白いご飯が白い湯気を立て、ワカメと豆腐とネギのお味噌汁…。
「意外だ…。美味しそう」
「だろ(笑)」
この男がエプロンを着けてキッチンに立つ姿を思い浮かべてしまった。
「ぷっ(笑)」
「何だよ」
「五代先生がエプロン着けてキッチンに立つ姿を…」
「俺は何着ても格好いいぞ」
「あははは(笑)」
何年ぶりだろう。こんなに泣くほど笑ったのは。
「泣いてる!お前…失礼すぎだろ」
そういう優作も笑っていた。
全然笑いが治まらない俺を見て、またあの目になっていた。こいつ、自覚してるのか?人でなしのドS弁護士って噂の男がそんな優しい目をしてるのを…。
「もう食べろ。あんだけ運動したら腹減っただろ」
運動って…。ほぼ強制じゃないか!
「頂きます…。ん?旨い!」
「だろ?俺は舌だけは肥えてるからな(笑)」
びっくりするほどレベルの高いハンバーグだった。ファミレスの均一化された美味しさではなく、素朴だけれどきちんと調理された家庭の味。
「いつも作って食べて…るんですか?」
「いいよ、普通に喋って。敬語なんて普段使わないだろ?」
「俺だってTPOくらい弁えてる」
俺がムッとすると、五代は笑った。
「ふふっ(笑)いいんだ。普段のお前を見てみたい」
何だよそれ。
「真っ赤だぞ?誰とでも寝る男なのに…可愛いな」
可愛いって!ヤってる時ならいざ知らず、めし食ってる時に何言ってんだ。
「悪い。誰とでも寝るなんて言って。ウリやってる訳じゃないのにな」
「当たり前だ!俺のカラダをどう使おうとお前に関係ない…」
「だが…。言っただろ?俺の成功報酬分払い終わるまではお前の体は俺のものだ。余所の男でも女でも触らせるな」
成功報酬分…。払い終わったら、言葉通りお払い箱かな。
少しだけ期待してしまった自分が悔しくて、何も言わずご飯をかきこんだ。
そんな俺のことを、またあの目で見つめていることに俺は気付いていなかった。
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