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始まりの時
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奏は浩介には何も言わないことにした。まずはハルが来てくれることからだし、秘書として社長が大事な式典で失敗を促すような事柄は耳に入れない方がいいと思ったからだ。
奏は加賀美には相談しておかないと、と社長が来客中に話すことにした。
「室長。ちょっとよろしいですか?」
奏に改まって話しかけられ、何事かと背筋を伸ばした。
「どうしたんですか?顔が怖いですよ」
「あっ。すみません…。ご相談がありまして…」
加賀美は優しく微笑みながら促した。
「仕事にも関わるのですが、私的な事でもあります」
「そうですか…」
「社長の息子さんの事です」
「…。何かあったんですか?」
「私、この前彼女に会いに行ってお夕飯までごちそうになって、ご家族とたくさんお話させて頂きました。もちろん息子さんとも。会ったときは私の正体は伏せていたのですが、あとから雪さんから伝えたそうです」
「そうですか…。羽田君は嫌われなかった?」
「はい…。何とか大丈夫そうです(笑)」
加賀美も嬉しそうに、「それは何より」と笑った。
「それで、私に相談とは?」
「はい。雪さんとご主人がハルくんに社長が働いてる姿を見せたらどうかと私に相談されたんです。自然に働いてる姿を見せられるのは、今度開店するショッピングモールモールの式典かなと思いまして…。どうでしょうか…」
「ふむ、なるほど…。社長には?」
「内緒です。ハルくんが来てくれることが最優先ですし、社長が動揺してもいけないなと思うので…」
「社長は会いたいとは言えない立場だしね」
「そうなんです。それに…」
「それに?」
「それに、ハルくんに自分の目で見て判断して欲しいとのご両親の想いがあるんです」
加賀美はその話に感心したようで、
「ハルくんはご両親にとても信頼されてるようですね。普通だったら絶対会わせないと言うんじゃないかな。子供には判断なんて出来ないし、そんな人に会わせるなんてとんでもないって…」
「私もハルくんの精神面を心配したんですが、そこは全然心配してないようなんです」
加賀美は決心したようで、奏に向き合った。
「私は良いと思います。羽田くんの思うようにやってみるといいですよ」
「ありがとうございます!」
奏は加賀美に深々と頭を下げ、さっそく雪さんに連絡します!と部屋を出た。加賀美は一人微笑んだ。ハルくんはとても愛されてるんだなと。
式典の当日、雪と周作はハルと一緒にショッピングモールを訪れた。ハルは事前に奏に会い、今日ここで父親とされる人が開店の挨拶をするということを聞いていた。奏はハルを心配していたが、ハルはここまできたらどんな人なのか、自分のこの目で確かめようと覚悟を決めていた。
「雪、俺やっぱり怖いな…」
雪は周作がハルをとても大事にしてくれているんだなと嬉しく思った。
「周作さん。私はあなたに会えて良かったです」
「ん?なんで?」
「だって、自分の息子だって心から思っているから怖いんでしょう?」
「逆じゃない?血に負けるんじゃないかって自信がないから怖いんじゃ…」
「血が繋がってなくても、あなたはハルの事ばかり考えてるでしょう?」
「ん~、まあね…」
「それだけ大切に想ってくれてるって私は思うの」
雪は周作に向かって笑った。周作も雪の言うとおりだと思い、笑顔を返した。
「俺も雪に会えて良かった…。よく俺のことも見ててくれてる(笑)」
「だって二人とも私の宝物ですもん!」
あはは(笑)と二人幸せそうに笑った。
その頃ハルはと言うと、式典の会場で奏に言われた通り、目立たない真ん中くらいの隅の席で縮こまっていた。雪と周作は少し離れた席で見守っていた。
今回の式典には地元の中学生も招待されていて、ハルはそこに紛れ込む形で参加していた。これは加賀美のアイデアで、ハルくんだけが大人に混ざっていたら余計目を引いてしまうでしょう?と自分の知り合いの教師に声をかけて実現した事だった。
ハルは自分が思った以上に緊張していることが分かって深呼吸をしていると、隣の席の女の子が心配して声をかけてくれた。
「大丈夫ですか?」
女の子はハルの顔をのぞき込んでいた。ハルは女の子の顔があまりにも近くてびっくりしてのけぞった。女の子はムッとした顔をして、
「お化けじゃないですよ!」
と言った。
「ごめんなさい!顔が近くて…」
「あっ!私こそごめんなさい。よく友だちに注意される(笑)」
笑った顔が母に似ていた。明るい可愛い笑顔だった。
「でも、ありがとう。ちょっと緊張してたんだ」
「私達はただのお客さんでしょ?お土産もらえるって聞いたから、私参加したの(笑)」
「あはは(笑)そうなんだ!僕はミッションがあるから…」
「ミッション?スパイみたいね(笑)」
「そんな大げさなものじゃないけど…」
それ以上言いたくないという雰囲気を嗅ぎ取ったのか、女の子はそれ以上聞かないでくれた。
「うまくいくといいね」
女の子はその後も自分の学校の事を話したり、ハルの学校の事を聞いてきたりして、始まるまでの時間を短く感じさせてくれた。
式典が始まる時間になり、ハルが前を見据えていると、隣の女の子がまた声をかけてきた。
「顔が怖いよ(笑)」
と小声で言うので、ハルは吹き出してしまった。自分がこんなにびびりだとは思ってなかったから。
「ありがとう。もう大丈夫(笑)」
本当に肩の力が抜け、静かにその時を迎えられた。
式典が始まった。
奏は加賀美には相談しておかないと、と社長が来客中に話すことにした。
「室長。ちょっとよろしいですか?」
奏に改まって話しかけられ、何事かと背筋を伸ばした。
「どうしたんですか?顔が怖いですよ」
「あっ。すみません…。ご相談がありまして…」
加賀美は優しく微笑みながら促した。
「仕事にも関わるのですが、私的な事でもあります」
「そうですか…」
「社長の息子さんの事です」
「…。何かあったんですか?」
「私、この前彼女に会いに行ってお夕飯までごちそうになって、ご家族とたくさんお話させて頂きました。もちろん息子さんとも。会ったときは私の正体は伏せていたのですが、あとから雪さんから伝えたそうです」
「そうですか…。羽田君は嫌われなかった?」
「はい…。何とか大丈夫そうです(笑)」
加賀美も嬉しそうに、「それは何より」と笑った。
「それで、私に相談とは?」
「はい。雪さんとご主人がハルくんに社長が働いてる姿を見せたらどうかと私に相談されたんです。自然に働いてる姿を見せられるのは、今度開店するショッピングモールモールの式典かなと思いまして…。どうでしょうか…」
「ふむ、なるほど…。社長には?」
「内緒です。ハルくんが来てくれることが最優先ですし、社長が動揺してもいけないなと思うので…」
「社長は会いたいとは言えない立場だしね」
「そうなんです。それに…」
「それに?」
「それに、ハルくんに自分の目で見て判断して欲しいとのご両親の想いがあるんです」
加賀美はその話に感心したようで、
「ハルくんはご両親にとても信頼されてるようですね。普通だったら絶対会わせないと言うんじゃないかな。子供には判断なんて出来ないし、そんな人に会わせるなんてとんでもないって…」
「私もハルくんの精神面を心配したんですが、そこは全然心配してないようなんです」
加賀美は決心したようで、奏に向き合った。
「私は良いと思います。羽田くんの思うようにやってみるといいですよ」
「ありがとうございます!」
奏は加賀美に深々と頭を下げ、さっそく雪さんに連絡します!と部屋を出た。加賀美は一人微笑んだ。ハルくんはとても愛されてるんだなと。
式典の当日、雪と周作はハルと一緒にショッピングモールを訪れた。ハルは事前に奏に会い、今日ここで父親とされる人が開店の挨拶をするということを聞いていた。奏はハルを心配していたが、ハルはここまできたらどんな人なのか、自分のこの目で確かめようと覚悟を決めていた。
「雪、俺やっぱり怖いな…」
雪は周作がハルをとても大事にしてくれているんだなと嬉しく思った。
「周作さん。私はあなたに会えて良かったです」
「ん?なんで?」
「だって、自分の息子だって心から思っているから怖いんでしょう?」
「逆じゃない?血に負けるんじゃないかって自信がないから怖いんじゃ…」
「血が繋がってなくても、あなたはハルの事ばかり考えてるでしょう?」
「ん~、まあね…」
「それだけ大切に想ってくれてるって私は思うの」
雪は周作に向かって笑った。周作も雪の言うとおりだと思い、笑顔を返した。
「俺も雪に会えて良かった…。よく俺のことも見ててくれてる(笑)」
「だって二人とも私の宝物ですもん!」
あはは(笑)と二人幸せそうに笑った。
その頃ハルはと言うと、式典の会場で奏に言われた通り、目立たない真ん中くらいの隅の席で縮こまっていた。雪と周作は少し離れた席で見守っていた。
今回の式典には地元の中学生も招待されていて、ハルはそこに紛れ込む形で参加していた。これは加賀美のアイデアで、ハルくんだけが大人に混ざっていたら余計目を引いてしまうでしょう?と自分の知り合いの教師に声をかけて実現した事だった。
ハルは自分が思った以上に緊張していることが分かって深呼吸をしていると、隣の席の女の子が心配して声をかけてくれた。
「大丈夫ですか?」
女の子はハルの顔をのぞき込んでいた。ハルは女の子の顔があまりにも近くてびっくりしてのけぞった。女の子はムッとした顔をして、
「お化けじゃないですよ!」
と言った。
「ごめんなさい!顔が近くて…」
「あっ!私こそごめんなさい。よく友だちに注意される(笑)」
笑った顔が母に似ていた。明るい可愛い笑顔だった。
「でも、ありがとう。ちょっと緊張してたんだ」
「私達はただのお客さんでしょ?お土産もらえるって聞いたから、私参加したの(笑)」
「あはは(笑)そうなんだ!僕はミッションがあるから…」
「ミッション?スパイみたいね(笑)」
「そんな大げさなものじゃないけど…」
それ以上言いたくないという雰囲気を嗅ぎ取ったのか、女の子はそれ以上聞かないでくれた。
「うまくいくといいね」
女の子はその後も自分の学校の事を話したり、ハルの学校の事を聞いてきたりして、始まるまでの時間を短く感じさせてくれた。
式典が始まる時間になり、ハルが前を見据えていると、隣の女の子がまた声をかけてきた。
「顔が怖いよ(笑)」
と小声で言うので、ハルは吹き出してしまった。自分がこんなにびびりだとは思ってなかったから。
「ありがとう。もう大丈夫(笑)」
本当に肩の力が抜け、静かにその時を迎えられた。
式典が始まった。
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