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友人宅
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その子の友達の家は偶然にも加戸が降りる駅にあった。駅前の商店街は昼間の喧噪が嘘のように静まり返り、ぽつぽつと灯りの灯る小さな赤ちょうちんやスナックが開いているだけだった。
「私、ここのメンチカツ大好きなの!」
そこは加戸も仕事帰りに立ち寄るお肉屋さんで、日替わりでコロッケやメンチカツ、から揚げなどが安く売っていて、ここいらの住人のお腹を満たしていた。
「ここのパン屋さん、食パン美味しいの知ってる?」
友達の家が近くなり、だいぶ警戒感が薄れてきたのかよく喋るようになった。
加戸はそういえばと思い、
「ねえ、君の名前聞いてなかった。私は加戸諒。加算の加に戸板の戸、ごんべんに京都の京の諒」
「名刺に書いてあったから知ってる」
また可愛くねえ…。
「私は杉本伽耶。杉に本、かやは、にんべんに加えるの加、耳の右側におおざと」
「難しいな…。書くものあったかな?」
カバンを漁っていると、伽耶がペンを貸してくれた。
「すぎもとかや…。杉本彩みたいだな」
「うわ!おじさんがよく言うやつ…」
くそ…。おじさん…。
「私はまだ23だ」
「おじさんじゃん!」
何を言っても無駄か…。
「ここの八百屋さんはね、お野菜安いよ♪」
「主婦みたいなことを言うな…」
伽耶はちょっとムッとして、
「うら若い女子高生に向かって!」
「君はまだ高校生なのか?」
「…。留年したの!」
「成績不振で?」
ニヤニヤ笑う加戸に伽耶は、
「あなたには関係ない…」
さっきの元気の良さはどこへやら、急にしおれてしまった。加戸はそこには深い事情があることを察して謝った。
「ごめんな。からかったりして…」
大人に謝られたのが初めてだった伽耶は驚いた。
「非を認めるんだ…。大人なのに」
「いや、普通だろう?大人だって間違えるよ。聖人君子じゃあるまいし…」
伽耶はそれきり黙ってしまった。非を認めない大人ばかりに囲まれていたのか?間違えない奴なんていないだろうに…。家に帰れない理由もその辺に関係するんだろうか?
「とにかく友達の家に送り届けよう。どの辺なんだ?」
「ここ」
「え?」
まじか…。俺んちからほんの2、3分じゃないか…。
学生がよく借りそうな1Kのアパートが目の前にあった。
「部屋まで確認する。もちろん女友達だよね?」
「なんでよ!友達まで確認するの?」
一気に俺を怪しい人物扱いし、カバンで身を守ろうと盾のように構えた。助けてやったのに…。
「あのなあ、私は警察官として補導しなかった。高校生だって最初に分かってたら補導してたぞ!でも…家に帰りたくないって言わずに、家に帰れないって言ってただろう?それに…」
「それに何よ!」
「それにな、非を認めない大人ばかりに囲まれていたら息苦しいだろうと思ってさ…」
「…。変な人」
「💢な、何ぃ~💢」
伽耶は俺を見て笑っていた。
「ちゃんと私の話聞いてくれたの、加戸さんが初めてだったから…」
俺は会話するのに疲れてため息をついた。
「ため息つくと年取るの早まるよ(笑)」
「なんだそりゃ」
「私の都市伝説(笑)」
「だから…。まあいいや。とにかく安全に送り届けるのが第一だ。顔を見るまで帰らないからな!」
「ハイハイ」
「ハイは一回です!」
俺の顔を見てケラケラ笑う顔は、初めて素顔の伽耶を見るようで、加戸は眩しいなと思っていた。
二階の一番奥の部屋のドアホンを鳴らすと、チェーンを外す音がしてドアが開いた。
「伽耶!遅かったじゃん!心配したよ!」
伽耶よりちょっと背の低い、眼鏡をかけた女の子がパジャマにパーカーを羽織って出てきた。すごく俊敏なリスのような活発そうな女の子だった。
「ごめん!さえ…。バイトの帰りに変な人に捕まっちゃって…」
さえと呼ばれた女の子は、隣に立っていた俺を見てこう言った。
「変な人まで連れてきちゃダメじゃない!」
「あっ!さえ!この人は…」
「どういうつもりですか?こんな遅くに女の子の部屋まで来るなんて!」
「いや、私はけ…」
「さえ!違う違う!この人に助けてもらって、そんでこの人は警察官なの!」
「え?補導されたの?19で?」
19とは言え、この子は高校生だろうが!
「とにかく安全に送り届けるまでは、私の仕事だからね」
「だからって部屋までくるもの?」
「さっきまで変な男に連れて行かれそうだった子を、安全な場所まで送り届けないと心配だろ?やましい気持ちは微塵もないからな!」
まったく似たもの同士の友達だな!ほんとに頭痛がしてきた…。
「じゃあ、心配の種がなくなった所でお役御免だ」
じゃあなと歩きながら手を振り、階段を降りようとしたとき、背後から伽耶が呼び止めた。
「あの加戸さん!…ありがとうございました!」
ぺこっと頭を下げ、満面の笑みを浮かべた。
「あんまり遅くまでバイトするなよ!」
「保護者か!」
「うるさいよ!おやすみ!」
ケラケラ笑いながら手を振る伽耶を見て、加戸は知らず知らず笑みがこぼれた。
「私、ここのメンチカツ大好きなの!」
そこは加戸も仕事帰りに立ち寄るお肉屋さんで、日替わりでコロッケやメンチカツ、から揚げなどが安く売っていて、ここいらの住人のお腹を満たしていた。
「ここのパン屋さん、食パン美味しいの知ってる?」
友達の家が近くなり、だいぶ警戒感が薄れてきたのかよく喋るようになった。
加戸はそういえばと思い、
「ねえ、君の名前聞いてなかった。私は加戸諒。加算の加に戸板の戸、ごんべんに京都の京の諒」
「名刺に書いてあったから知ってる」
また可愛くねえ…。
「私は杉本伽耶。杉に本、かやは、にんべんに加えるの加、耳の右側におおざと」
「難しいな…。書くものあったかな?」
カバンを漁っていると、伽耶がペンを貸してくれた。
「すぎもとかや…。杉本彩みたいだな」
「うわ!おじさんがよく言うやつ…」
くそ…。おじさん…。
「私はまだ23だ」
「おじさんじゃん!」
何を言っても無駄か…。
「ここの八百屋さんはね、お野菜安いよ♪」
「主婦みたいなことを言うな…」
伽耶はちょっとムッとして、
「うら若い女子高生に向かって!」
「君はまだ高校生なのか?」
「…。留年したの!」
「成績不振で?」
ニヤニヤ笑う加戸に伽耶は、
「あなたには関係ない…」
さっきの元気の良さはどこへやら、急にしおれてしまった。加戸はそこには深い事情があることを察して謝った。
「ごめんな。からかったりして…」
大人に謝られたのが初めてだった伽耶は驚いた。
「非を認めるんだ…。大人なのに」
「いや、普通だろう?大人だって間違えるよ。聖人君子じゃあるまいし…」
伽耶はそれきり黙ってしまった。非を認めない大人ばかりに囲まれていたのか?間違えない奴なんていないだろうに…。家に帰れない理由もその辺に関係するんだろうか?
「とにかく友達の家に送り届けよう。どの辺なんだ?」
「ここ」
「え?」
まじか…。俺んちからほんの2、3分じゃないか…。
学生がよく借りそうな1Kのアパートが目の前にあった。
「部屋まで確認する。もちろん女友達だよね?」
「なんでよ!友達まで確認するの?」
一気に俺を怪しい人物扱いし、カバンで身を守ろうと盾のように構えた。助けてやったのに…。
「あのなあ、私は警察官として補導しなかった。高校生だって最初に分かってたら補導してたぞ!でも…家に帰りたくないって言わずに、家に帰れないって言ってただろう?それに…」
「それに何よ!」
「それにな、非を認めない大人ばかりに囲まれていたら息苦しいだろうと思ってさ…」
「…。変な人」
「💢な、何ぃ~💢」
伽耶は俺を見て笑っていた。
「ちゃんと私の話聞いてくれたの、加戸さんが初めてだったから…」
俺は会話するのに疲れてため息をついた。
「ため息つくと年取るの早まるよ(笑)」
「なんだそりゃ」
「私の都市伝説(笑)」
「だから…。まあいいや。とにかく安全に送り届けるのが第一だ。顔を見るまで帰らないからな!」
「ハイハイ」
「ハイは一回です!」
俺の顔を見てケラケラ笑う顔は、初めて素顔の伽耶を見るようで、加戸は眩しいなと思っていた。
二階の一番奥の部屋のドアホンを鳴らすと、チェーンを外す音がしてドアが開いた。
「伽耶!遅かったじゃん!心配したよ!」
伽耶よりちょっと背の低い、眼鏡をかけた女の子がパジャマにパーカーを羽織って出てきた。すごく俊敏なリスのような活発そうな女の子だった。
「ごめん!さえ…。バイトの帰りに変な人に捕まっちゃって…」
さえと呼ばれた女の子は、隣に立っていた俺を見てこう言った。
「変な人まで連れてきちゃダメじゃない!」
「あっ!さえ!この人は…」
「どういうつもりですか?こんな遅くに女の子の部屋まで来るなんて!」
「いや、私はけ…」
「さえ!違う違う!この人に助けてもらって、そんでこの人は警察官なの!」
「え?補導されたの?19で?」
19とは言え、この子は高校生だろうが!
「とにかく安全に送り届けるまでは、私の仕事だからね」
「だからって部屋までくるもの?」
「さっきまで変な男に連れて行かれそうだった子を、安全な場所まで送り届けないと心配だろ?やましい気持ちは微塵もないからな!」
まったく似たもの同士の友達だな!ほんとに頭痛がしてきた…。
「じゃあ、心配の種がなくなった所でお役御免だ」
じゃあなと歩きながら手を振り、階段を降りようとしたとき、背後から伽耶が呼び止めた。
「あの加戸さん!…ありがとうございました!」
ぺこっと頭を下げ、満面の笑みを浮かべた。
「あんまり遅くまでバイトするなよ!」
「保護者か!」
「うるさいよ!おやすみ!」
ケラケラ笑いながら手を振る伽耶を見て、加戸は知らず知らず笑みがこぼれた。
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