明と瞑(ファルドミラ王都)

3.訪問者

　クロエは慌ただしくしていたが、ようやくやっとリビングに戻り自分も腰を下ろした。それからまじまじと男性の顔を覗き込むと、またノラとしての記憶を思い出させようとした。
「懐かしいとか感じない？あの出窓とかその椅子とか」
　男性は困ったような表情を見せて答えた。
「すまない。たぶんだけど、俺はキミの意図しているような生まれ変わりじゃないと思う」
　クロエは負けじと食い下がる。
「生まれ変わりだよ。目の下の傷、黒い髪の毛、猫の時と同じ拾いかた…間違いないよ！」
　男性は困惑する。

　その時、玄関の扉が開き誰かが入ってきた。
「クロエ、朝から外で声がしてたけど何か…」
　スラリとした栗色をした長髪の女性がクロエの家に入り、三人は言葉を失った。長髪の女性は男性に目をやったまま動かない。
　クロエは目を輝かせながら女性に言った。
「エレノア！ノラが人間になって帰ってきた！」
　エレノアという女性も男性同様何を言っているのか理解できないまま、警戒心を露にクロエの傍に歩み寄った。そのまま男性に疑心を向けて質問した。

「誰なの？何が目的？何でそんな格好してるの？」
　男性は困り果てた顔をして答えた。
「俺もついさっき川で助けてもらったばかりで、何がなんだかわからないんだ。彼女の言うには猫の生まれ変わりらしいんだけど、俺は違うと思ってる」
「川で助けてもらったって？自分が何故ここにいるのかわからないって言うの？」
「素直にわからない。目を覚ます以前のことが思い出せないんだ…」
　エレノアは警戒したままクロエに質問をした。
「クロエ、説明して」
　クロエは朝目が覚めて裏庭を見たらノラがまた溺れていたので助けたと主張した。エレノアは一度自分を落ち着かせて、男性に聞いた。

「怪我は？」
「所々痛みはあるけど、歩けるくらいだから折れてはないと思う」
「一人で歩けるのね」
「少しフラつくけど、大丈夫」
「わかった。それなら、私と保安官事務所へ行きましょう。保安官なら力になって…」
「待って！ダメだよ。折角戻ってきたのに…ノラは私が…」
「クロエ、あのね。あなたが前のように元気なって嬉しいけど、彼はノラじゃない。こんな服で溺れていたなんて異常としか…」
「これは私がさっき作ったの！診療所の観察着のタオル版！それに連れていくなら保安官事務所じゃなくて診療所が先でしょ！」
「クロエ…」
　女性同士の言い合いに圧倒される男性。エレノアは深呼吸をしてから男性に視線を移した。

「診療所でロビンに見てもらって異常がなければ、直ぐに保安官事務所へ行きますからね」
　男性は黙って首を何度も上下させた。クロエはムスッとした表情を浮かべながら、男性の傍に行こうとしたがエレノアに止められた。
「歩けるのなら自分で歩きなさい。道は私が案内しますから、私たちの前を行きなさい」
「は、はい…」
　まだフラつく脚を何とか動かし、三人は診療所へ向かった。