明と瞑(ファルドミラ王都)

オウル

文字の大きさ
上 下
4 / 4

4.診療所とロビン先生

しおりを挟む
 男性は少し大きな建物の前で立ち止まる。入り口にはこう記されていた。

「レイソル診療所」

 エレノアは診療所の扉に手を掛けながら、男性に向かって待つよう指示した。クロエは男性の傍に立ち、にこやかな笑顔で男性の頭を撫で始めた。
 クロエはエレノアによって男性から引き剥がされ診療所へと連れ込まれる。ジタバタと手足を動かすが、身長差が20cmあれば抵抗も出来なかった。
 しばらくしてからエレノアが診療所から姿を現した。
「入って」
 男性はエレノアに導かれて診療所に入る。

 診療所の中は、時計のチクタク音が響いていた。とても静かで安心できるような室内だった。部屋の奥の曲がり角で、エレノアがこちらに来るようにと手招きをしてみせた。男性はそちらにゆっくりと歩みを進める。
 部屋の突き当たりを左へ曲がると、そこには6つのベッドが等間隔に並べられていた。男性は手前のベッドに座るよう指示される。
 ベッドに腰掛けエレノアに目をやる男性だったが、エレノアはそのままどこかに行ってしまった。辺りを見回す男性。漆喰と木造建築の優しい室内が、男性の気持ちを落ち着かせる。
 すると、自分が入ってきた入り口の方から男性の声が聞こえてきた。
「その方は1番に?わかった。エレノアはクロエの傍にいてやってくれ。後は私が見ておくから」
 男性の座るベッドの部屋に、白衣を着た男性が入ってきた。

「やぁ、キミがノラの生まれ変わりかな?」
 見た目は30代程の白衣の男性が歩み寄りながらそう言った。
「私はロビン。この診療所の医者だ。随分な目にあったみたいだね」
 ロビンは憐れむように男性を見つめた。
「自分自身でも、何がなんだかさっぱりで…」
「うん、先ずは落ち着いてくれて構わない。キミが極悪人であろうと善人であろうと、ここでは一人の私の患者だ」
 ベッドの側の椅子に腰を掛けながら、ロビンは続ける。
「キミの記憶喪失が一過性のものなのかそうでないのかは、しばらく観察しながら判断していこう。先ずは擦り傷や打ち身を見ていこうね」
 優しいロビンの声質が、男性の緊張を解きほぐした。

 手の甲や顔についた小さな傷の手当てを受けながら、男性はロビンに感謝を伝えた。
「本当にありがとうございます。見ず知らずの、しかも素性もわからない俺に親切にして下さって…」
 ロビンは手当てを一旦止めて男性の目を見て言った。
「困った時はお互い様だろう。それに、クロエのあんな表情を久しぶりに見れた。こちらこそ感謝したいくらいだよ」
 男性は眉間にシワを寄せた。
「一体どういうことなんです?」
 ロビンは手当てを続けながら、口を開いた。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

1 / 3

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!


処理中です...