雑「話」帳

Hatton

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卵を投げる群衆ー語感とリズムの練習ー

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大きな大きなその建物は群衆の叫びを飲み込んだ。ひたすらに沈黙し、人々が息を潜めている姿を覆い隠すかのように、聳え立っていた。

そんなそっけない態度をとるソレに対し、群衆はひたすらに言葉を投げかけている。

「民主主義を返せ」だの「戦争法案ぶっ壊せ!」だのと投げかけている。

しかしそれは言葉を投げているというより、石を投げているようであり、そのじつ卵を投げているも同然であり、相手を傷つけることはかなわず、万が一にも自分を傷つけることもない。

言葉は見えない壁にぶつかり、パラパラと砕けちり、汚れすらつかず、その残骸だけが虚しく地に落ちるけだった。でも彼らは卵を投げる。なんどもなんども投げる。ある者は大きく振りかぶり、ある者は下手から放るように投げる。

やがて誰かの泣き声がした。赤ん坊が泣いていた。群衆に参加している母親の腕の中で「ア゛ーア゛ー」と泣いている。まるで軽くて硬くて脆いナニカがあたったかのように。

しかしその声はかき消される。そして更に泣き声は大きくなる。彼らの言葉は柔らかく無垢な存在にしか届かず、しかし柔らかく無垢な存在はその意味を解さない。

彼らはその泣き声には気づかない。自分たちの泣き声を届けるのに精一杯だからだ。
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