珈琲の匂いのする想い出

雪水

文字の大きさ
上 下
2 / 12
おねだりとご褒美(双葉視点)

自分へのご褒美

しおりを挟む
 僕はどうやら光輝さんに恋をしてしまったらしい。

 だけど色恋にかまけて勉強が疎かになるような僕じゃない!

 むしろ1つの目標が出来た。


 合格して光輝さんに告白するんだ。


 より一層勉学に励む理由が出来た。

 明日からも頑張ろう。

 ~1ヶ月半後~

 そろそろ本当に本格的に受験を意識しないといけない時期になってきた。

 あれからというものほぼ毎日光輝さんに勉強を教えて貰って、その後塾で勉強をしている。

 光輝さんに教えてもらうようになってからというもの成績がちょっとずつ上がってきて塾の先生にも褒められることが多くなってきた。

 新しく受けた模試では無事に志望校のA判定を取ることが出来た。

 2週間後には受験のはずなのに僕は緊張するどころかむしろわくわくしていた。

 だってこの受験が終わったら光輝さんに感謝と僕の気持ちを伝えることができるんだから!

 ~そして受験日当日~

 僕は朝早くから上着を着て光輝さんに行ってきますを伝えてから受験する中学校に向かっていた。

 気分は晴れやかで落ちる気なんてさらさらしなかった。

 事実僕は試験の問題をほとんど滞りなく解くことが出来た。

 僕はしばらく塾を休むことにした、もう行く意味ないからね。

 受験が終わった安心感でホッとして家でゆっくりしていると夕方くらいにうちのインターホンが鳴った。

 出てみると光輝さんだった。

「受験今日だったでしょ?おつかれって言おうと思ってきたんだ。」

「あ、ありがと。まだ結果はわからないけどめっちゃ自信あるんだ!」

「合否発表が楽しみだね、今日はつかれただろうしゆっくり休みなよ?」

「うん、ありがと。」

 今日も光輝さんに会えた。

 わざわざお疲れって言いに来てくれる光輝さんのことが改めて好きになった瞬間だった。

 ~時は流れ合否発表の日~

 僕は光輝さんと一緒に志望校の合格発表を見に来ていた。

 というのも合格発表の日がちょうど光輝さんの仕事が休みの日だったらしくて一緒に見に行こうよって事になった。

 僕としてはずっと勉強を教えてくれてたのもあるし光輝さんに一番に合格でも不合格でも伝えようと思っていたのでちょうどよかった。

 結果は

 合格だった。

「双葉くん!ある、あるよ!双葉くん!やったよ双葉くん!」

 ...光輝さんが僕より先に見つけて僕より喜んでるから僕がいつどう喜べば良いのかわからなくなったのは内緒だけどね。

 光輝さんが携帯を貸してくれて僕はその場で母さんと塾に合格を伝えることが出来た。

 その後は光輝さんに連れられて喫茶店で僕はミルクティーとフルーツタルト、光輝さんは珈琲とショートケーキを食べていた。

 光輝さんが珈琲を飲んでいる姿がやけにかっこよく見えて僕もいつか飲んでみたいと思っていると光輝さんが口を開いた。

「双葉くん、この後暇ならうち来ない?」

「行きたい!」

 一も二もなく答えてしまった。

 光輝さんは別段気を悪くした様子はなく じゃあそろそろ出ようか と言っている。

 早速チャンスが来た。

 告白できるチャンスが。

 光輝さんの家に入って光輝さんが何か箱みたいなのを取り出した。

 頭の中に?を浮かべていると光輝さんが 開けてみて というのでその箱を開けた。

 中にはいろいろな種類のクッキーが所狭しと並んでいた。

 クッキーは僕の大好物で、それを用意してくれていたのも光輝さんが知っていたのも嬉しくて僕は何を言えばいいかわからなくなった。

 僕は早速そのクッキーを食べることにした。

 クッキーを食べてテレビを見たりしているうちにいつの間にか暗くなっていたらしく光輝さんに 

「そろそろ帰ったほうが良いんじゃない?」

 と言われたので帰る準備をした。

 僕は覚悟を決めることにした。

 自分へのご褒美を渡すために。

「ねぇ光輝さん、」

「ん?」

「勉強教えてくれてありがとう。光輝さんのお陰で受験合格できたんだよ、僕。」

「そんなことないよ、双葉くんが一生懸命に勉強してたの、俺は知ってるからね。」

違うんだよ光輝さん、僕が頑張れたのは光輝さんが居てくれたからなんだ。

伝えたい、もどかしい。

ふと口をついて出てしまった。

「...ぎゅってしたい。」

「え?」

光輝さんがだいぶ困惑したように聞き返してくる。

僕は投げやりに続けた。

「ハグしたいなって。」

「え?いや良いけど、」

いいつつ光輝さんが腕を広げてくれたので僕は躊躇なく光輝さんの胸に飛び込んだ。

光輝さんの匂いで体が包まれる。

言い得ない幸福感を感じて、これだけじゃ我慢できなくなって。

僕はつぶやく、光輝さんに届かなくてもいいくらいの声の大きさで。

「自分へのご褒美、いいよね。」

光輝さんにも聞こえてみたいで なにか言った? と聞かれた。

僕は少し間を置いてから囁くように言った。

「好きだよ、光輝さん。」

「...」

気が遠くなるような沈黙が流れた。

「僕、光輝さんが大好き。」

「...」

構わず僕は続ける。

「おかしいのかな、頭の中にずっと光輝さんが居て、光輝さんのこと考えたらお腹の下のほうがきゅんってする。」

「...」

「ねぇ、断るなら断るでもいいからさ、返事してよ。」

「...」

「僕の初恋に想い出の色をつけてよ。」

「...あの、」

もう僕はこの時点で駄目だと思った。

絶対振られるって、そう思った。

だけど続いた言葉はあまりにも間の抜けたものだった。

「俺なんかで良いんですか?」
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

死が見える…

ホラー / 完結 24h.ポイント:766pt お気に入り:2

死なぬ身体は甘く残酷にいたぶられる

BL / 完結 24h.ポイント:184pt お気に入り:11

超短くても怖い話【ホラーショートショート集】

ホラー / 連載中 24h.ポイント:16,686pt お気に入り:66

ショート朗読シリーズ

ライト文芸 / 連載中 24h.ポイント:170pt お気に入り:0

彷徨いたどり着いた先

恋愛 / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:9

奇跡なんていらない

BL / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:3

処理中です...